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Prince of Tennis

飛び込む先はいつも、あの腕の中

「オーサマ! オーサマ! あの技すっごいなぁ、どうやってやるん?」

 跡部クンに無邪気に話し掛ける金ちゃんの後ろ姿を見ていた。

「ばぁか。オマエにはできねーよ」
「ふんぎぃっ、そんなん分からんやんっ」

 ころころと表情を変える金ちゃんが可愛いのか、跡部クンも何やら楽しそうや。

 ……ええなぁ。

「白石、白石」
「え? あ、謙也?」
「心の声のつもりなんやろうけど、羨ましそうなのごっつ表情に出とるで…」

 謙也は呆れた様子を見せながらも、白石はホンマに金ちゃんバカでしゃーないなぁ、とあたたかな声音で言い、

「最後の、ええな、に至っては声にも出てましたわ」

 隣にいた財前は常と変わらぬクールな態度でそう言った。

「つーか、さっさと呼び戻せばええやないですか」

 それから、突然、金ちゃんのほうに向かって声を張り上げたのは、財前も俺と同じく金ちゃんバカやからと思う。

「金太郎! あんま他の学校のひとにまで迷惑かけんなぁー」
「むっ、光、失礼やっ! わい迷惑掛けてへんもんっ」

 ぎゃあぎゃあ言い合う2人を見守っていると、

「そろそろ戻ったほうが良いんじゃねーの?」

 子供たちの喧嘩とも言えないじゃれあいを、俺らと同じように微笑ましく見守っていた跡部クンが金ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でて、最後にそっと背を押した。

「おんっ、わい戻るっ。オーサマまたなぁ!」
「ああ、またな。つかちゃんと前見ろ。転けんなよ」

 金ちゃんがこちらに向かって駆けてくる後ろのほうで、いつも寝てばかりの芥川クンがもの凄い勢いで跡部クンに抱き付いているのが見えたのは、また別のお話。



 ++++++



「白石ただいまぁー♪」

 四天の輪に戻ってきた金ちゃんは迷うことなく、俺の腕の中に飛び込んできた。

「おかえり、金ちゃん」

 それがものすっごい嬉しい俺は単純やな、て自分でも思う。
 でも、嬉しい気持ちは止められんし、止めようとも思わんかった。

 だって、嬉しいんや。
 金ちゃんにとって一番安心出来る場所が俺の傍なんて。

「…こら、呼んだんオレやろ」
「光、うるさいねんっ!」
「こっのチビ…!」
「チビやないー! 光のピアス魔ぁ! 不良ー!」
「チビやろうがっっ!! て言うかピアス魔ってなんやねんっ! 悪口にもなってへんわ!」
「あーあーっ、お前ら喧嘩すんなっちゅー話や」
「そうやで金ちゃん。それに謙也のブリーチのほうがどっちかと言うと不良やなぁ」
「ちょっ、オマエはなんでこっちに振るねん!」

 ぽんぽん止まることなく言葉の応酬。
 金ちゃんが戻ってきて一気に賑やかになった俺らの周りに、小春とユウジも集まってきた。

「さっきまで金太郎さんおらんくて、蔵リンめっちゃ淋しそうやったわー」
「向こうから小春と見とったけど、白石の背中から哀愁漂いまくりやったで」

「ほえ? そうなん?」

 俺の腕の中でコテンと首を傾げる金ちゃんの真っ直ぐな視線にちょっと困る。

「あー…、まぁ、なんちゅーかな……跡部クンの“オーサマ”呼びがええなぁ、て思ってん」
「白石もオーサマって呼んでほしいんか?」
「いや、そういうんやなくて…」

 どう伝えればいいか悩んで言いよどんでいると、

「金太郎のアホ。部長は王様やなくて聖書やろ?」
「ちゅーか、エクスタシィィー!! でええんちゃう?」
「蔵リンはイケメンさんがええわよ〜」
「浮気か!? 死なすど!」

「って、ちょ、外野めっちゃうるさい!!」

 ユウジに至っては俺の呼び方と全く関係ないことしか言っとらんし!!

 盛大にツッコミたい気持ちを抑えて、金ちゃんに視線を戻した。

「あっ、なら白石はな! オカンっ!!」
「…!!?」

「ぶっは!! って痛ぁ!?」

 眩しい太陽のような笑顔でそう言い切った金ちゃんに、俺は精神力の80パーセントくらいを持っていかれた気がしたのは、多分、気のせいやない…。

 …そっか。オカン、オカンか……。
 思わず、自虐的に心の中で反芻してしまった。

 可愛い笑顔と反対にダメージでかいで金ちゃん……。

 あ、ちなみに痛いって叫んだのは、盛大に噴き出しおったユウジを俺が裏拳でどついたからや。

 うおおおお、と呻きながら、痛みに蹲っているのを小春が擦ってやりながら、ユウ君蔵リンの気持ちも考えんと笑うからよ、と叱ってもいる。
 小春はよく出来た子やで、ホンマ。

「お、おい金太郎、いくらなんでもそれは無いやろ…」

 俺のショックの受けようが見てられなかったのか、あわあわと財前が金ちゃんにつっこんでくれた。

「えー? ダメなん? 白石、優しいけど怒るとめっちゃ怖いし、心配性やし、オカンそっくりやん?」
「おお、ホンマやな。見事に反論する箇所が見当たらんわ。すごいな、金ちゃん」

 謙也、お前は何を感心しとるねん!!

「あとなっ、わいオカン大好きなん! 白石もいっちゃん好きなんっ! せやから白石はオカン!!」
「…金ちゃん!!」

 最後の言葉を聞くと同時に、感動のあまり、ぶわっと涙腺にきた。
 俺は腕の中の太陽をめいっぱい抱きしめる。

「白石、よかったなあ」
「あー…心配して損しましたわー…」
「ばかっぷるや」
「ユウ君それ、ウチらが言ったらあかん気がするわ」

 周囲がなにやらごちゃごちゃ言っとるのが聞こえたけど、腕の中の金ちゃんが白石ぃくるしい〜、と嬉しそうに言うのが可愛くて、それはすぐに気にならなくなった。



(……ホントのホンマは白石はダーリンでもええんやけど、恥ずかしいから、それは内緒なん)



「ん? 金ちゃんなんか言ったか?」
「んーん、何も言ってへ〜ん。白石あったかいなぁ、て思うたん」
「そぉか?」
「おんっ、白石の傍がいっちゃん好きや!」
「金ちゃんんんんんっっ!! めっちゃかわええええ!! ありがとうなああ!!」


「うわぁ………ねぇ、あのばかっぷるっつーか、声でかい部長そろそろ止めません? めっちゃ恥ずかしいっスわ…」
「いや、止められるなら、もう止めとるし……。止めるの無理やろ、あの喜びようは…」

 財前と謙也の声は、やっぱりもう気にならなかった。

 金ちゃんの一番なら、俺、オカンでもいいわ。
 そんな風に思えてしまうくらい、俺はこの腕の中の子が大切で愛しくて、可愛うて可愛うて仕方がないねん。


 [ おしまい ]
白金
最近SQである金ちゃんのべ様への 「オーサマ」 呼びがとにかく可愛くてですね。
キングに可愛がられている天真爛漫ゴンタクレが書きたくなり、思わず早朝にざかざか書きました。
みんなでわきゃわきゃしているのが可愛くて好きです。
財前が良いところを持っていくのはいつものことです。
そして、若干なんかユウ君が不憫になりました。なんでだろう。笑
12.06.07 up