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Prince of Tennis

うちの子が一番

 最近悩みがあります。
 何かと言うと、可愛い可愛い恋人兼後輩の金ちゃんに避けられている気がするわけなのです。
 そりゃもう、思いきり慣れない標準語で語ってしまうくらいにはショックを受けているわけで。

「俺、なんかしたんかな…」
「えっちなことでも強要したと?」
「そこはちゃんと同意でやっとるし、金ちゃんは俺のパーフェクトテクに毎晩メロメロやで」
「遠回しにノロケたい、白石…」
「……はぁ、ホンマなんでなんやろ。この合宿くる前は普通やったのに」
「ああ、もうっ! うじうじしとらんと! 直接訊いたほうが早か!」

 おお〜い、金ちゃーん、と千歳の声が辺りに響いた。
 その声に気付いて、越前クンにじゃれていた金ちゃんがこちらに真っ直ぐに駆けてくる。

「しらいしぃー! 千歳ー!」

 金ちゃんの小さな体が千歳のでかい体に、だきゅんっ、と抱きとめられるのを、嫉妬全力の火力で餅を炭にしながらジト目で見つめた。

「金ちゃん、白石が訊きたいことがあるとよ」
「ほえ? なんや白石?」
「あ、えーとな、金ちゃん、なんで最近俺の傍にあんまり来てくれんのかなーて思うて…」

 って、なんかこれって言ってて自分が情けなくなってきたで。
 これじゃあ、まるで小春に振られていじけとるときのユウジやないか!
 心の中でそんなことを考えていると、ひどいこと言うなや白石! とユウジの反論が聞こえた気がした。どうやら口にも出とったらしい。

「んー? そうかぁ? わい、白石の傍におるよ?」
「嘘や! 夜とか絶対に会いに来てくれんし!」

 いくら越前クンと同室やからって、俺の部屋にも来て欲しいで!
 最近の金ちゃん越前クンに夢中すぎや!
 新テニ入ってから、白石ぃー、ってその可愛さ満点で俺のこと呼ぶより、コシマエ〜、ってお花飛ばしとることのが多いの俺知っとんやで!
 さみしいの俺だけみたいやん!
 なあなあ、金ちゃん!!

「え……や、やって、夜は…」

 細い肩を掴んで切々と訴えたら、何故か金ちゃんの表情は固く引き攣ったものに変わった。ん? 何やろこの反応?

「あれ? なんだか賑やかだねぇ」
「ぴゃああ!?」

 そして、突然そんな悲鳴を上げて俺の胸にしがみついてくる金ちゃん。

「ああ、幸村クン。…って金ちゃんどないしたん?」

 金ちゃんの背後から登場したのは、立海大の部長であり神の子と呼ばれる天才テニスプレイヤーで、現在は俺と同室でもある幸村クンや。

「しらいしぃ、向こう、向こう行こ…」

 腕の中の金ちゃんが小動物のようにぷるぷると震えていた。

「気分でも悪いん?」

 驚いて顔を覗き込めば、そのくりくりの瞳いっぱいに涙の膜が張っていた。
 俺の質問にコクコクと首を縦に振る金ちゃんを抱きかかえて、その場を後にした。

「俺、遠山クンに嫌われちゃってるかな?」
「そりゃ、しようがないんじゃないっすか。決勝のとき、俺が会場いない間に散々いじめたらしいじゃないっスか」
「えーひどいなあ。遠山クンのほうから打ち合いしようって誘ってきたんだよ?」

 後に、幸村クンと越前クンがそんな会話をしていたと、

「二人の間に跡部もビックリなブリザード吹き荒れとって怖かったとよ……」

 千歳が青い顔で語ってくれた。





 元気のない金ちゃんを抱っこしたまま、先程話していた場所から少し離れたコートのベンチに腰を下ろす。

「金ちゃん、医務室行くか?」

 俺の体に両手足をぎゅうぎゅうに巻き付けている金ちゃんの背を軽く叩きながら、そう訊いた。

「ちゃうねん。具合悪いってウソやねん…」

 白石ぃ、ごめんなぁ、と言いながら、顔を上げた金ちゃんに驚く。

「わい、幸村怖いねーん!」

 それから、ぶわわん、と我慢しきれなかった涙を盛大に溢れさせながら、金ちゃんは泣き出した。

「白石のとこ行きたいけど、白石、幸村と同室やん? 怖くて行けんん…」
「ああ、そういうことやったんか…」

 ぐすんぐすんと嗚咽を繰り返す金ちゃんの背を擦りながら、俺はホッと息を吐き、微笑った。
 金ちゃんは別に俺を避けてたわけじゃなかったんやな。
 けど、幸村クン、試合のとき以外は普通に話して楽しいひとやで、と言ってみたら、無理や無理無理! こわいい! と余計に泣かせてしまった。
 このままじゃ原因が分かっても、金ちゃんは前と変わらず俺の傍に来てくれないことが確定してしまう。困ったで。どないしよ、としばし考える。

「んー、でも、俺もおるやん?」
「白石も?」
「せや。金ちゃんのことは俺が守ったるで」

 もう怖い思いなんか絶対にさせんよ、と金ちゃんの手をとり、その甲にちゅっと口付けながら説得してみる。
 金ちゃんの頬が綺麗な桜色に染まった。

「白石、なんや王子様みたいや…」
「そうか?」

 はは、と笑えば、

「めっちゃカッコイイ!!」

 金ちゃんはそこら辺のお姫様も霞む、太陽みたいな笑顔を見せてくれた。


 +    +    +


「あんときも、白石が一番に来てくれたもんなぁ。わい、めっちゃ嬉しかったん」
「そりゃ、金ちゃんのこと大事やからな」

 青学対立海決勝戦の話をしながら、手を繋いで先程の場所に戻ると、

「あ、帰ってきましたわ」
「ひかるー!」

 財前が金ちゃんの額に手を当ててきた。

「お前、具合悪いん?」
「ううん、もう治ったんー」
「…みたいやな。なら、ええわ」
「光、心配してくれたんか?」
「ちゃうわ。アホは風邪ひかんを体現しとるお前が具合悪いとか、なんの嵐の前触れかと思うただけや」

 相変わらず素直じゃない財前の分かり易すぎる言葉に笑いながら、さらに前方へと視線を動かす。
 そこには幸村クンたちが立っていた。

「もう大丈夫なのかい?」

 幸村クンがにっこりと優しい表情で微笑むのを、金ちゃんは体半分だけ俺の後ろに隠れながら、だだだだ大丈夫や、と答えた。

「金ちゃん、どもっとるどもっとる」

 思わずツッコミを入れると、

「あははっ」

 幸村クンが突然笑い出して、流石に俺も驚いた。
 ちなみに金ちゃんは、ぴゃあああ! と悲鳴を上げて完璧に俺の後ろに隠れてしまった。

「可愛い後輩 (ボウヤ) だね、白石くん」
「ああ、せやろ?」

 ―― うちの金ちゃんが一番一番かわええねん!

 高らかにそう宣言したら、

「蔵リン、すってきー♪」
「浮気か! 死なすど! ていうか小春が一番可愛いに決まっとるやんか!」
「うわああああ! 恥ずかしいから止めろっちゅー話や!」
「白石、絶好調たいねー」
「…部長、キモイっすわ」

 四天メンバーのそんな賞賛やらツッコミやらを受け、

「あれ? それを言うなら、立海 (うち) の赤也が一番可愛いよ?」
「何言ってんですか! 青学 (うち) の越前だって生意気さでは負けてないッスよ!」
「あーん? 氷帝 (うち) のも生意気さなら負けてねーぜ」

 各々学校の部長プラス桃城クンの後輩自慢大会が始まったのでした。


 [ おしまい ]
白金
3月のイベントで配布したペーパーの再録になります。
当日は貰ってくださった方々ありがとうございました〜。
好きなキャラを沢山出そうとノリノリで書いていました。
12.05.09 up