わいの好きなもの。
たこ焼きとテニス。漫画に、おかんとヒョウ柄。
ライバルのコシマエ。
こけしは正直いらんけど、オサムちゃん。
いっつもみんなのこと気にかけとる健ちゃん。
ごっつカッコイイ! そんで優しい銀。
二人揃ってめっちゃオモロくてやかましいユウジと小春。
よく転ぶけど、走っとるときはカッコええ謙也。
たこ焼きいっぱいくれるし肩車してくれる千歳。
中学あがってから光って呼ぶのがなんでか恥ずかしいなった幼なじみの財前。
あとは、
あとはな…。
一つ二つ三つ、と指折り数えながら、なぁなぁー! こんなにいっぱい好きなもんに囲まれとる! わいスゴいやろ! と心底幸せそうに話す天真爛漫な後輩に、白石は書いていた日誌から顔を上げた。
「金ちゃん、俺は?」
「しらいしー?」
「うん」
俺入ってなかったで、と訴えれば、
「白石は好きとちゃうもん」
「……え?」
テーブルの上に顎を乗せたままこちらを見上げる金ちゃんが告げたのは、白石が予想していたものとは遥かに違う回答だった。
「嘘ぉ?」
動揺のあまり思わず、今日エイプリルフールやったっけ? と日誌の日付を確認してしまう。
しかし、エイプリルフール=金太郎の誕生日を白石が忘れる筈がないので、当然そんなことは無かった。
「金ちゃん、そのジョークは流石にヘコむで…?」
「ジョークちゃうもん」
白石の言葉に金ちゃんはやはり否定を示して左右にぷるぷると首を振る。
そして、椅子から立ち上がった。
(お、俺、金ちゃんに嫌われるようなこと何かしとったんやろか…)
心当たりとしては毒手の件くらいしかないのだが、そんなに怖がられていたなんて、と最早日誌どころでは無い。
まるで鈍器で殴られたかのようなショックにぐわんぐわんと揺れる額を押さえることしか出来なかった。
「白石ー、どしたん? 頭痛いんか?」
それをテーブルを挟んだ向こう側から、テコテコとこちら側にやって来た金ちゃんが心配してきた。
「あ、いや、頭っちゅーか正直泣きそうや…」
「ええ?! なんで! 白石泣かんとってぇ!」
金ちゃんの問いに、はは、と力無い乾いた笑いで答えると、小さな腕にぎゅうっと抱きしめられる。
「頭やないんやったらどこ? 他んとこどっか痛いん?」
謙也のおとんに看てもらわな、と普段からコロコロとよく変わる感情表現豊かな表情に、心配の二文字をめいっぱい貼り付けて金ちゃんが捲くし立てた。
(何か変やな…)
それにひどい違和感を感じながら、小さな体を膝上に乗せる。
「いややあ、しらいしぃ死なんとって…」
いつの間にか重病人認定されたらしく、甘ったれた声が耳元をくすぐった。
「……金ちゃんが好きってゆってくれへんからやで」
「へ?」
いややいやや、と繰り返してくる声とか向かい合わせに抱き合う体温が心地良くて、本音を漏らせば、白石の肩から勢いよく顔を上げた金ちゃんはくりくりの目を何度も瞬かせた。
「なに言っとん! 白石は“だいすき”やで!」
―― 好きちゃうよ。それより、もっともっと大好きやねんで!
「ああ、なんやぁ、そういうこと?」
良かったわ、と心から安心して小さな体をぎゅうぎゅうに抱き返す。
「わいが白石のこと好きやないわけあらへんやん…!」
白石のあほぅ、と耳元で盛大に拗ね始めた金ちゃんに、せやな、と苦笑いを一つ。
「堪忍な。俺も金ちゃんのこと大好きやから、よけいに悲しゅうなったんよ?」
分かってや、とおでこを引っ付け合わせて伝えれば、
「…あほぅ。わい、白石だいすきやもん」
―― ほかの誰も敵わん。一等好き。
まだ拗ねた様子は続けながらも、最後に小さくそう囁いた言葉が愛しくて、そっとその唇を塞いだ。
「んーっ…」
数回触れてちゅっ、と音を鳴らすだけの口付けにぽーと赤くなった金ちゃんの口から、
「白石ぃ、早よういっしょに帰ろ…?」
甘えたモードの舌足らずの名前呼びが発動する。
「ちょい待ち。日誌最後まで書かな」
右手は金ちゃんの背を抱いたまま、左手のほうでテーブルの上の日誌を引き寄せた。
「このままでええ?」
わい退いたほうがええ? と聞きながらも、白石の首に回した腕を全く緩めない、離れる気はさらさらなさそうな金ちゃんにまた笑った。
「ええよ。その代わり金ちゃん日誌押さえとって」
「おん」
それから、金ちゃんが甘えたモード全開で何度も頬っぺたや首筋にキスをしてくるものだから、二人が帰路についたのは結局30分も経った後のことになった。
[ おしまい ]
白金
金ちゃんの世界は好きなものでいっぱい溢れていて、特別も沢山あって、その中でも、最上級の位置に白石がいればいいなあ、と思います。
白石の世界は金ちゃんが太陽みたいに輝いていればいいなあ、と思います。
12.02.04 up