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Prince of Tennis

イチャイチャしかしてないよ

 これはいつもの光景。
 バタバタとけたたましい足音が四天宝寺中学校三年二組に近付く。
「白石、怪我してもうた!」
「金ちゃん、またかいな」
 校内ではちょっとした有名人でもあるテニス部の天真爛漫ゴンタクレスーパールーキーが勢いよくスライドさせた教室の扉に、浪花のテニス聖書がやれやれ、と困った表情を浮かべた。
 微笑ましいと言わんばかりのクラスメイト達の見守りを集めながら、おいで、と小さな手を引いた。
「白石ー、どこ行くん?」
「保健室や」
 金ちゃんがぎょうさん怪我するやん、手持ちの絆創膏も売り切れたわ、と白石は答えた。
 そのまま仲良く手を繋いで廊下をテクテク。
「失礼しますー」
「しますー」
 程なくしてたどり着いた保健室で、
「あれ? 先生、おらんな」
 と白石は首を傾げた。
「職員会議やって白石」
 ここ書いてある、とデスクの書き置きを指差す金太郎に、なるほど、と納得。
「急病やったら呼べ、て」
 どうする? と続けて問う金太郎を、先ずは椅子に座らせた。
「金ちゃんは俺が手当てしたるから、ええよ」
 薬品棚から慣れた手付きで消毒液と絆創膏を取り出し、金太郎のほうを振り向いた。
 その瞬間。
「白石〜♪ 見てや、この椅子めっちゃ廻るー。オモロいー!」
 回転椅子からガタガタと騒々しい音をたて、長い赤毛を真横に靡かせてくるくると廻る金太郎の姿が視界に飛び込んできた。
「ちょ、こら! 金ちゃん、あかんて! 壊れるやろ!」
 数秒もジッとしていられそうにないゴンタクレに、椅子は駄目だと瞬時に見切りをつけ、小さな体を抱き上げベッドへと移動させる。
「えー、椅子オモロかったのにぃ…」
 ちょっと拗ねてプクリと膨らんだ頬っぺたを指先で潰して、鼻の頭の擦り傷を診た。
 この怪我どしたんや、と訊けば、遊んどったらクラスメイト転けそうになりよったからそれ庇ったん、と如何にも金太郎らしい理由が返ってきて、白石はまた困ったように微笑った。
「金ちゃんはホンマ細かい傷が堪えんなー。あんまり保健委員困らせたらあかんで」
 消毒液付きのガーゼで傷口を拭いていく。
 沁みる? と問えば、ぷるぷると首を横に振った。
「わい、白石しか困らせてへんよ?」
 それから、絆創膏を貼り終わるまでは、良い子でジッとしていた金太郎がそんなことを言い出した。
「ちょ、俺は良いんかい!」
 思わず鋭いツッコミを入れると、
「だめなん?」
 くりくりの大きな瞳が上目遣いで真っ直ぐに白石を見つめた。
「…金ちゃん?」
 その双眸の色があんまり真剣だったので、白石は少し戸惑う。
「…やって、白石、二つも学年上やん。普通にしとったら部活でしか会えんやんかぁ…」
「!」
「…だめ、なん?」
 それから、少し淋しそうに告げられた本心に胸の奥が熱くなる。目の前の小さな体を、ぎゅう、ときつく抱きしめた。
「わっぷ!? しらいしぃ?」
「もうっ、金ちゃんはホンマに…!」
 真っ直ぐに想いをぶつけてくる。それをちゃんと行動にして示す。
 ―― ほんま、好きや。
 そんな金太郎が白石は可愛くて愛しくて、どうしようもない。
「白石〜、苦しいってー」
 腕の中できゃっきゃっとはしゃぐ金太郎のおでこに軽い口付けを落として、
「怪我せんでも、いつでも来てええんよ」
 白石のファンが見たら、きっと卒倒してしまうだろう優しい微笑と囁きでそう告げた。
「うん…。でも、光がぁ……」
 しかし、金太郎の口から出てきたのは彼と同じ小学校出身の幼なじみの名前で。
「なんや、財前になんか言われたんか?」
「白石部長に迷惑かけるんやないって、この前…」
「まぁた、あいつは…」
 しょんぼりする金太郎の頭を白石はそっと撫ぜた。
 財前はなんだかんだで金太郎の面倒をよく見ているから、小言も自然と多くなるらしく。しかも、的を射ていることしか言わないので、結構堪えたようだ。
 流石、金太郎と付き合いが長いだけあると言うか、それに加えてあの毒舌だし。
「白石、迷惑なん?」
 金太郎はしょんぼりしたまま、白石の制服の袖をぎゅっと握って問い掛けた。その背中をぽんぽんと撫でる。
「せやなー。金ちゃんが怪我するんは嫌やからそこは困るな」
 本当に困っているようには見えないだろう明るい口調でカラカラと言って、
「ただ、元気いっぱいに会いに来てくれたら、それでええんよ」
「…ホンマ?」
「当たり前やろ」
 締めは力強く伝える。
 金太郎の顔に、ぱあ、と向日葵のような笑顔が咲いた。
「わい、毎日白石に会いにくるな!」
「おわっ、金ちゃんあぶなっ!」
 そのまま勢いよい抱きつかれて、金太郎を庇うように後ろに倒れ込むと、身長が高い白石はベッドの鉄パイプ部分に危うく頭をぶつけそうになった。
 流石に内心青褪めて、それでも腕に抱えている金太郎には危険が及んでいないことにホッとする。
「金ちゃーん、頭打つところやったで…」
「……」
 困ったように言うと、腰を跨いで馬乗りになっている金太郎はじっと白石を見ていた。
「金ちゃん、どうしたん?」
「しらいしぃ…」
 問えば、すりっと柔らかな頬を擦り寄せて、甘い声が響く。
 声のトーンで白石は、ああ、スイッチが入ったな、と気が付いた。
「なんや急に甘えん坊になってもうて」
 よしよし、と抱き返せば、
「ちゃうー!」
 不満を露わにべしべしと、力加減を大分間違った馬鹿力で叩かれた。
(今のは結構痛かったで…)
「んんー、ちゃうぅ…」
 ぐずるように言って、擦り付けられる腰に理性の箍が外れそうに揺らいだが、なんとか持ち前の精神力で堪える。
「金ちゃん、言いたいことあるときはちゃんと言わなあかんよ」
 諭すように言って、
(なんかいろいろ当たっとるな…)
 思いながら、敢えて自分からは何もしなかった。
「もっ、しらいしー…!」
 いよいよもどかしくなった金太郎は、癇癪を起こしたように手足をジタバタとさせる。
「どうしたん?」
「ううっ…、白石…なんやいじわるや…」
「金ちゃんがちゃんと言わんから、よお分からんわ」
 ニッコリと微笑みながら、

 ―― 早く早く、ここまで堕ちてこい。

 両腕を広げながら、そう思っていた。


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白金
新刊サンプルです。保健室でラブラブでエロエロな白石と金ちゃん。
えっちいシーンのサンプルも見たい方はpixiv版も合せてどうぞ。
12.03.13 up