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Prince of Tennis

欲しがるのが下手くそなあのひとへ

 昔、どうしてそんなものをつけているんだ? と訊いたことがある。
 あいつは本心を知られたくないのだと言っていた気がする。
 確か、俺シャイなん、ともの凄くふざけた感じで。

 俺はなんて返しただろう。
 腹が立った記憶はあるが、なんて返したかが思い出せない。

 バカが見くびるなよ、と怒りの激情が吹き荒れる中で強く思って、それから、どうしたのだったろうか…。

 お前の言葉が本気か戯言が分からないほど、お前を傍で見てきたわけではない。
 ただ、お前が知らないだけだ、侑士。


 +   +   +   +


 キスをした。
 そして、唇が触れ合ったと思ったら、硬いフレームにも肌が当たった。
 温もりのないその冷たさに一瞬苛立つ。

「…オイ、これ邪魔だ」

 言うと同時に毟り取ってベッドに放れば、

「ちょお景ちゃん、あの位置は後で潰しそうや」
「知るか」

 普段あまり見ることの叶わない裸眼の双眸が少し困ったように苦笑した。

「壊さないように精々気をつけて押し倒すんだな」
「はいはい、困ったお姫(ひい)さんやね」

 おどけた口調をストップさせるべく頬に手を添え、その瞳を覗き込む。

「なぁ、もう、眼鏡いらねーんじゃねぇの?」
「ん、なんで?」
「視力(め)べつに悪くねぇんだし」
「そやなぁ。……けど、俺が素顔でおったら景ちゃん大変やろ?」

 ―― ずっとドキドキして?

 耳に吐息と共に吹き込まれた台詞と、ドキドキの部分で心臓の上を弄ってきた手にあられもない声を上げそうになった。
 少し甘い息を吐いてやり過ごして言い返す。

「ッ…ばぁか。お前がだろ」

 こうやって吐息が掛かりそうなくらい近くになったとき、お前が俺様にドキドキするから困るんだろう。あれが無いと。

「ホンマ、その自信どっから出てくるん?」
「あぁん? 違うのかよ?」

 少しの身長差に下から射抜くように見つめれば、涼しい表情が何か言いたげに崩れた。

「いや、違わんよ」

 左右に緩く振られた頭がそのままポスリと俺の肩に預けられる。

「…ちゅーか、あんま挑発せんで」

 ぽつり、とくぐもった声。

「手加減出来んくなる。壊しそうで怖い」
 ああ、やっと本音を引き出せた。
 ぎゅうぎゅう、と痛いくらいの抱擁も俺の心を満たしていく。

「ハッ、そんな柔になんか出来てねーよ」

 鼻で嗤いながら言って、相手も痛いだろうくらいの力を込めて抱擁を返した。

「お前は欲しいものは欲しいって言って良いんだ、侑士」

 最後の言葉のあとはベッドに縫い付けられていた。

(あ、眼鏡…)

 潰してはねーよな、と俺は一瞬心配したが、侑士が噛み付くように口付けてきたので、その思考は根こそぎ掻っ攫われることになった。


 +   +   +   +


 同じ場所に長くいることが叶わなかった幼少時代は、今もまだ、あいつの心に少しの陰りを落とす。

 自分を隠すのが上手いとか、そんなのは俺以外のやつの前でだけやっておけ。
 欲しがり下手なのも俺以外のやつの前で発揮しろ。

 じゃないと、フェアじゃない。
 なんのために俺がお前に全部曝け出してんのか分からなくなるだろう。

 確か、そんな風に返したのだった、と思い出したのは、侑士に揺さぶられながら、余裕もへったくれも無さそうな切羽詰まった声音で 『景吾』 と甘ったるく囁かれてからだった。


 [ end ]
忍跡
ずっと書きたかった忍跡を完全版全プレポスターの忍足にたぎった勢いで書いてみました。
ナチュラルに名前呼びしてますが、景ちゃんは公式ですし、良いですよね。あれ大好きで。
中のひと本当にGJ! と思いました。
しかし、どんどん跡部さま総受けサイトになっていきます。笑
12.06.09 up