オレ、芥川慈郎の恋人には輝かしい肩書き? 称号? がやたらと多い。
まず跡部財閥の御曹司。
そして氷帝学園生徒会長。
学年主席。
さらにテニス部部長。
カリスマ。
王様 (キング)
などなどなどなど…。
立てば周囲の視線を否が応でも集め、
座ればその美しさに、ほう…と感嘆のため息を誘発し、
歩く姿には黄色い悲鳴が飛び交うという光景を地でやってのける。
そんな人。
でも、ホントはただただテニスが大好きな、ていうかテニスバカと言う言葉が相応しい、仲間想いな14歳である。
そんなあとべはある日、その綺麗な指でぴっと白い封筒を取り出した。
部活を終え帰り仕度を始めていた (あ、オレはソファでまどろみかけていたけど) テニス部レギュラー陣は頭上にハテナのマークを飛ばす。
「跡部、なんだよそれ?」
「ラブレター」
「はあ? いつも山ほど貰ってんじゃんか!?」
自慢かよー、とテーブルをばんばん叩いて不満を露わにするがっくんにあとべは心底疲れた様子で応えた。
「…違え。男から」
オレはその言葉に、ソファからむくり、と起き上がる。
「へ?」
がっくんからは素っ頓狂な声。
「げ…!」
「それは、また…」
宍戸からは嫌そうな声。
となりの鳳は困ったご様子。
「……」
忍足は、って表情がよく窺えないから分かんないけど、纏うオーラの温度が低くなった感じ。
「男から…」
日吉は信じられない、って表情で呟いていて、
「……」
樺地は忍足以上にもの凄く分かりにくいけど、微妙に居心地がよくなさそうだった。
んー。悪く言えば、機嫌悪そう? 珍しい。
「だから、ヤロウから貰ったんだよ…!」
俺は女じゃねーぞ。どうしろっつーんだよ、ったく!
そう、盛大にぼやく姿を寝ぼけ眼のまま見つめて、ソファから降りる。
てこてこ歩いて、椅子に座っているあとべに後ろから抱き付いた。
「あとべー、見せて?」
「オマエが見てどうすんだよ」
じゃれつくようにあとべに絡んで封筒を奪い取る。
今にもぐしゃり!! と握り潰したい、破り捨てたい、むしろ燃やしたい!!
そんな衝動に駆られるのを、涼しい表情をしながら抑えるのがちょっと大変だった。
「なぁ、捨てればええんちゃう?」
「忍足さんに賛成です。気を持たせても仕方ないでしょう?」
「つか、男から貰ってもなー…」
「でも、出したほうは凄い勇気が必要だったと思いますよ」
「ウス」
上から、忍足、日吉、宍戸に、最後が鳳と樺地だ。
「お前ら優しいのな…」
鳳と樺地の発言に、跡部はきゅん、と、ときめいていた。
相変わらず、年下に甘い。
まあ、オレにはそれ以上に甘いんだけど。
「ほーう。なら、跡部がそのどこの馬の骨か分からんやつからの呼び出し場所に行って、危ない目にでも遭うたらどうするんや?」
自分も困るやろ? と言う忍足に、樺地はハッとしたような勢いで首を縦に振った。
「しかし、無視するわけにも行かねーし…はあ…」
ため息をつくあとべに、無視すりゃ良いじゃん、とオレは吐き捨てる。
あ、もちろん、心の中でね。
「相変わらず律儀だな」
宍戸の言葉にもやっぱり心の中で頷く。
そうそう、あとべってば変なところで律儀なんだよね。
筋が通ってないことは嫌いだけど、
このまとも、というか、冗談でもなんでもない、本気のラブレターの文面を読んで、断らないと、と思うのはあとべの性格上、仕方がないのかもしれない。
でもね、オレが気に食わないのは変わらない。
むしろ本気であればあるほど、とんでもない。
オレの機嫌は今、最下層のそのまた下だよ!!(ってそれどこだよ、って感じだけど)
呼び出し場所にほいほい行くなんてダメに決まってる。
絶対、ダメ!!
「って、こらっ! ジロー! 何マジで開けて読んでやがるっ」
ぐしゃりっ!!
「オレが替わりに行って断ってあげるー」
「え?」
「いいよね? あとべは危ないことしちゃダメ〜」
ね? 分かった? と言い聞かすようにそっと頬っぺたを撫でてから、部室を飛び出す。
「あっ! ジロー!!」
後ろから心配そうなあとべの声が聞こえたけど、オレは駈け出した足を止めなかった。
+++++++++
「あああああっ、行っちまった!! あいつが危ない目に遭ったらどうすんだよ!?」
「あー、そりゃ大丈夫やろ…」
「うん、目がマジだったぜ。心配ないって」
「相手がちょい可哀想になってきたな…」
「宍戸さん優しいですね」
「…芥川さんが怖い…」
「…ウス」
+++++++++
その後、オレを待ってくれていたみんなと一緒に帰った通学路で、
「オマエ、なんて言って断ってきたんだよ?」
あとべがこっそり訊いてきたから、
「うん? そんなの決まってるCー!!」
―― あとべはオレのだから、やらないよ!! って言ってきたよ。
って明るく応えたら、あとべはボボンッ! て湯気が出そうな勢いで顔を真っ赤にした。
「ななななっ、何言ってんだばかっ!! ていうか声でけーよっ」
照れ隠しでオレの癖っ毛をわしゃわしゃと掻き回してくる手が超好きだな、って改めて思う。
もちろん、好きなのは手だけじゃないけど。
あとべ、だいすき。
オレに幸いばかりを与えてくれる優しい腕の中で揉みくちゃにされるのを、きゃっきゃっと喜びながら、じゃれあうオレたちの様子を見守っているみんなにも悪戯っぽく舌を出してピースをしておいた。
もちろん、みんなにだってオレのあとべはやらないかんね!!
[ おしまい ]
ジロ跡
だれにもあげない。だって、きみはオレの友達でヒーローでキングでお姫様で最愛のひとだから。
最近、やっとジロ跡と言えるものが書けるようになってきた気がします。
でも、なんかジロたんが黒くなるという不思議です。
機嫌の悪い忍足と樺地の辺りを書くのも楽しかったです。笑
今日もべ様は氷帝のみんなに愛されています。
12.06.02 up