「カノン」 「ん…?」 心地良さそうに目を細めるカノンの頬を撫で、くちづけの合間合間に囁く。 「先程のつまみ食い…」 「う、んっ…」 音をたて唇を啄ばめば、カノンはさらにうっとりといった様子で、眸を閉じた。 「許してやろう」 しかしカノンは、わたしの言葉を聞くと、うっとりしていた表情を一変させた。 「…叩いた後で言うなよ」 今言われるとすごく損した気分だ、と頬を膨らませ、ずい、と右手を突き出してくる。 なんだ、と視線で問えば、痛いのだ、と視線で返される。 ああ、先刻おたまで叩いたからな。 よしよし、と手の甲を撫でてやり、オマケに舌も這わせてみる。 「なっ!サガ…っ」 身を退こうとするカノンを制し、舌先を甲から指先に滑らせる。 小指、薬指、中指、そして人差し指…。 順々に舐めあげてやれば、カノンは焦った様子でわたしの肩を押しやった。 「サガ!オレは腹が空いているのだ!」 「ああ、わたしも空いている」 「なら離せ!」 ムキになるカノンに、冷静に、淡々と返す。 「カノン、」 「な、なんだよ?」 たじろいだカノンの髪を梳き、耳に掛けてやる。 露わにしたそこに、唇を寄せて、カノンを落とすべく攻撃開始。 「夕食は勿論頂くが、お前もとても美味いとわたしは知っているのだ」 そっと囁き だから仕方あるまい? と、追い打ち。 「あ、ぅ…いやだ、っ…」 止めに、耳朶を食み、吐息を吹き込めば、カノンの膝が砕けた。 ズシと腕に掛かる重みが増す。 テーブルの上には夕食が並んでいるので、そこにカノンを押し倒すことは出来ない。 さて、どうするか。 考えを巡らせていると、カノンはわたしの肩に縋り付き、ふるふると首を振った。 駄目だ、嫌だ、と拒絶の意を示す。 しかしそんな風に可愛らしく言われてもな。 やはり止められそうもない。 すこし濡れている睫毛を指先でつつき、もう一度囁く。 ―― カノン、わたしはお前が欲しい。 カノンはそっと瞼を持ち上げ、今度は観念したように、わたしの首に腕を回してきた。 * * * * *
食欲と情欲 ―― どちらも堪え難いものだ しかもわたしの場合 カノンが居ないと、どちらも満たすことが出来ないらしい |