今 な ら 言 え る


 海がわたしからカノンを奪った、と永いこと思っていた。
 しかしそれは責任転嫁以外の何物でもない。
 

*  *  *  *  *


「カノン、あまり波打ち際に行ってはいけないよ」

 沈み行く夕陽を食い入るように見つめて、波打ち際に居るカノンを、サガは呼び止めた。
 カノンは‘んー’と気のない返事を返す。
 深い青が映すものも夕陽のままで、サガはすこし眉根を寄せた。

「海が太陽を飲み込んでいくみたいだ」

 サガの様子に気付かず、
 カノンは景色の感想を独り言のようにポツリ。
 サガはカノンが何気なく紡いだ言葉に眉間のシワをさらに増やした。
 手を伸ばし、カノンの腕を掴むと、自分のほうに引き寄せる。
 力任せに引き寄せられて、カノンは足が縺れてしまった。
 振り向き様サガの肩に顔をブツけて 「ぶふっ」 と間抜けな声が洩れる。

「なっ、サガ!何をする!」

 打った鼻の頭を擦りながらカノンはサガを見上げた。
 其処には先程の不満気な表情とはうって変わって、せつなげに、哀しげに、眸を揺らすサガが居た。
 カノンは数回眸を瞬き、サガの頬に手を当てる。

「どうしたのだ、サガ」
「…お前が悪い」

 静かに問えばそんなことを言われて、ワケがわからない、が、
 カノンは、己の行動に非でもあっただろうか、と自らの行動を顧みてみる。
 するとサガはもうひとつ言葉を重ねた。

「波打ち際に行くなと言っている…」

 太陽だけではない
 お前まで海に飲み込まれてしまいそうで不快だ。

 サガは苦しげに言い、頬に触れていたカノンの手を握った。
 もう帰ろう、とサガは、カノンの肩に額を擦り付ける。
 カノンは小さく頷き、サガの背をよしよしと擦った。



 たとえ、それが雄大な大海原でも
 わたしを照らす光を奪わないで ――


end



拙宅のサガはやっぱり海が嫌いみたいです。


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