軌 跡 金色の聖衣、 そして陽の当たる場所を歩ける自分。 ずっと焦がれていた。 + + +
「カノン…」 サガが呼ぶので、億劫に瞼をもたげた。 金色のきらめきに目を眇め、サガを見る。 「おかえり。ご立派なお姿だな」 立ち上がり、歩を進め、サガの前に立つ。 己とおなじ顔を見つめて、手を伸ばし、柔らかな頬を撫でた。 心の内側で燻っていたモノが爆発するのに時間は掛からなかった。 頬に爪を立て、もう片方の手はグッと握り締め、固い聖衣の上からサガの胸を叩き、叫ぶ。 どうして、お前だけなのだ! オレも双子座の聖闘士ではないか! 何故お前だけ! 次々と口をつく言葉は、どれだけサガを傷付けただろう。 サガの痛みは、わからない。 いや、その頃はまだわかっていたのかもしれない。 それでも目を逸らし、わからないフリをした。 そうしてオレが泣き叫べば、サガは繰り返し繰り返し紡ぐのだ。 ―― カノン。このサガに何かあったときは… サガの言葉は鋭利な刃物のように、ざっくりとオレの胸に突き刺さる。 なんて酷いことを言う兄なのだろう。 サガに何かあったとき? つまり死んだときってことかよ。 オレはそれを待ち望んでいるとお前は言いたいのか。 片割れを憎み、疎み、消えてしまえと願うこと、 それがおなじ星を宿して生まれた者たちの定めなのか。 可哀相なオレ。可哀相なサガ。 「ハ、ハハ…そんな日は来ないさ、兄さん…」 渇いた笑いが零れる。 後から後から溢れ続けて止まらない涙が、オレの視界を滲ませていく。 サガが纏う焦がれて止まない金色のきらめきも歪んで見えた。 + + +
あれから十三年とすこしの時が流れた。 サガの小宇宙が、かりそめの灯火が、静かに消えていく。 カノンは十二宮の階段を駆け下りていた。 双児宮に着き、双子座の聖衣の前に跪く。 ―― カノン、カノン、私に何かあったときはお前が… ああ、わかっている。わかっているぞ、サガ。 双子座の聖闘士であるカノンはわかっているのだ。 サガの弟であるカノンはわかりたくないと叫んでいるがな。 オレはお前と一緒で弱いのだ。 「すまないな、次の持ち主もこんなヤツで」 苦笑と共に語り掛け、そっと聖衣に触れた。 双子座の聖衣はふわり、と浮き上がり、カノンの体を覆う。 サガの小宇宙が染み付いている聖衣に、カノンの心はあたたかくなった。 ―― なあ、カノン 「なんだよ」 ―― 私は、双子座の聖衣をお前に託すことの出来る星の定めに、感謝さえしていた 「馬鹿サガ。そういうことは直接言えっつーの」 聖衣に残された小宇宙が伝えてくる言葉。 カノンは不満を露わにごね、双児宮を後にする。 朝陽に照らされ出した十二宮の階段を見つめて、双子座のヘッドパーツも見つめた。 二つともカノンが焦がれていたものだ。 ただ滲んだ視界の先に、サガが纏う金色のきらめきを見つけることは、もう出来ない。 それでも ―― 「共に行こう、サガ」 お前の想いも持っていく。 もう一度二人でおなじ道を歩こう。 |