軌 跡



 金色の聖衣、
 そして陽の当たる場所を歩ける自分。
 ずっと焦がれていた。


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「カノン…」

 サガが呼ぶので、億劫に瞼をもたげた。
 金色のきらめきに目を眇め、サガを見る。

「おかえり。ご立派なお姿だな」

 立ち上がり、歩を進め、サガの前に立つ。
 己とおなじ顔を見つめて、手を伸ばし、柔らかな頬を撫でた。
 心の内側で燻っていたモノが爆発するのに時間は掛からなかった。
 頬に爪を立て、もう片方の手はグッと握り締め、固い聖衣の上からサガの胸を叩き、叫ぶ。

 どうして、お前だけなのだ!
 オレも双子座の聖闘士ではないか!
 何故お前だけ!

 次々と口をつく言葉は、どれだけサガを傷付けただろう。
 サガの痛みは、わからない。
 いや、その頃はまだわかっていたのかもしれない。
 それでも目を逸らし、わからないフリをした。

 そうしてオレが泣き叫べば、サガは繰り返し繰り返し紡ぐのだ。

 ―― カノン。このサガに何かあったときは…

 サガの言葉は鋭利な刃物のように、ざっくりとオレの胸に突き刺さる。
 なんて酷いことを言う兄なのだろう。
 サガに何かあったとき?
 つまり死んだときってことかよ。
 オレはそれを待ち望んでいるとお前は言いたいのか。
 片割れを憎み、疎み、消えてしまえと願うこと、
 それがおなじ星を宿して生まれた者たちの定めなのか。
 可哀相なオレ。可哀相なサガ。

「ハ、ハハ…そんな日は来ないさ、兄さん…」

 渇いた笑いが零れる。
 後から後から溢れ続けて止まらない涙が、オレの視界を滲ませていく。
 サガが纏う焦がれて止まない金色のきらめきも歪んで見えた。


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 あれから十三年とすこしの時が流れた。
 サガの小宇宙が、かりそめの灯火が、静かに消えていく。
 カノンは十二宮の階段を駆け下りていた。
 双児宮に着き、双子座の聖衣の前に跪く。

 ―― カノン、カノン、私に何かあったときはお前が…

 ああ、わかっている。わかっているぞ、サガ。
 双子座の聖闘士であるカノンはわかっているのだ。
 サガの弟であるカノンはわかりたくないと叫んでいるがな。
 オレはお前と一緒で弱いのだ。

「すまないな、次の持ち主もこんなヤツで」

 苦笑と共に語り掛け、そっと聖衣に触れた。
 双子座の聖衣はふわり、と浮き上がり、カノンの体を覆う。
 サガの小宇宙が染み付いている聖衣に、カノンの心はあたたかくなった。

 ―― なあ、カノン

「なんだよ」

 ―― 私は、双子座の聖衣をお前に託すことの出来る星の定めに、感謝さえしていた

「馬鹿サガ。そういうことは直接言えっつーの」

 聖衣に残された小宇宙が伝えてくる言葉。
 カノンは不満を露わにごね、双児宮を後にする。
 朝陽に照らされ出した十二宮の階段を見つめて、双子座のヘッドパーツも見つめた。
 二つともカノンが焦がれていたものだ。
 ただ滲んだ視界の先に、サガが纏う金色のきらめきを見つけることは、もう出来ない。
 それでも ――

「共に行こう、サガ」

 お前の想いも持っていく。
 もう一度二人でおなじ道を歩こう。


end



ひとつの道に残る足跡は二対
途中で一対消えてしまいますが、時を経て、再び二対に戻るのです
タイトル変えました


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