ポ プ ラ が 色 付 く 頃 に 芸術の秋、食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋… 楓が赤く色付く季節にはいろいろあるけれど? * * * 片手にハタキを、そしてエプロン姿でわたしは深いため息を吐いた 自宮には、弟カノンの規則正しい寝息がすぴすぴすよすよと響く わたしの心中など露知らずにだ 寝顔は堪らなく愛らしいが流石に我慢ならん 「カノンいつまで寝ているのだ!いい加減起きなさい!」 とうとうわたしは手にしていたハタキでカノンの頭を小突いた 柄の部分で小突いたのはわたしの最後の優しさだった 「痛ッ…」 叩かれた箇所をさすりながら 「あ、あう…サガぁ…?」 むにゃむにゃ、と寝ぼけ眼のカノンがわたしを見上げる 「休みならば、少しくらい掃除を手伝え」 まったく…と小言をぼやきながらも 寝起きのぽわぽわカノンは可愛かったので、寝癖の付いた髪を、くしゃ、と撫ぜてやり、 わたしは中断していたリビングの掃除を再開した 大体だ わたしは、ばたばたハタキを掛け、ゴウゴウと掃除機も使っているのに この大騒音の中でよく惰眠など貪れるものだ カノンの神経の図太さは呆れを通り越して感心してしまう… わたしは本日二度目のため息を吐いた ちなみに当の本人はそんな失礼なことを考えられているとは露知らず 脳が覚醒するまでソファの上でぼんやりとしていた カノンは完全に目を覚ますと ‘睡眠の秋だろう。しゅんみんで眠いのだ’と言い残して、庭の掃除に向かった …カノンよ、それは春だろう 春眠と言いながら秋だからと言うカノンに、わたしの弟はおつむが足りないと真剣に心配になった * * * わたしがリビングの掃除を終える頃 ふいに庭先からの香ばしい薫りが鼻腔をくすぐった そういえばカノンは庭に出た後もキッチンを行ったり来たりしていたな、と思い出し、 香りの元が気になったわたしは庭先に出てみた カノンは枯れ葉を集めた焚き火を前に、火箸と箒を手に立っていた 手には軍手もしている 何をしているのだお前は… 「掃除終わったのか?」 カノンの質問に、ああリビングの掃除はな、とだけ答え、焚き火に視線を向ける これは、と問い掛ければ、カノンはニッと口角をつり上げ言った 「腹が減っては戦は出来ん」 えいえい、と言いながら火箸で焚き火を突っつくカノン しばしその姿を見守っていると銀色のホイルに包まれた物体が現れた 「サガにも分けてやろう」 ホイルを拡げながらカノン 中から出てきたものは熱々の焼き栗だった オーブンを使えばこんなに大変ではないと思うのだが… ちょっと (いや、かなり) そう思わなくも無かったのだが 焼き栗には栗が弾けないように切り目まで入っていたので、もう何も言わないでおこうと思った こんな知識誰から教わったやら… 「老師と星矢に教わったのだ。日本の秋は食欲の秋だって」 自分の分の焼き栗も焚き火から掘り出しながらカノンは言う カノンよ、此処はギリシアだ、と突っ込むべきか… ちょっと悩んだ しかもこの話を汲むと先程の春眠うんぬんも星矢の入れ知恵か 道理で、と脱力しながら間違った知識をわたしの弟に植え付けた後輩を今度しごいてやろうと決めた 「な、な、美味い?」 わたしを味見係りに決めたらしいカノンは、剥いた焼き栗をわたしの口に放り込み質問してくる 「………むっ」 もぐもぐもぐ 「さ、サガ?」 少し間を置いて 「ああ、美味いぞ」 正直な感想を述べる カノンは‘流石オレ!’と自分を絶賛してから、いただきます〜と自分の分の焼き栗を口に放った 「待てカノン。少しは冷まさないと…」 「あ、熱ッ!あちぃ!」 お約束のごとくカノンは口の中を火傷してしまったようだ 熱さと痛さに、涙目でわたしを睨んできたが…ってわたしのせいではないだろう 忠告が遅過ぎるとでも言いたかったのだろうか 口の中が落ち着いたのか、カノンは再び焼き栗を食べ始めた 今度は火傷しないように気をつけながら そんな姿も可愛らしいと思った * * * 「御馳走さま、カノン」 「んー…どういたしまして」 焚き火の残骸を片付け終わったカノンにお礼を言う カノンはふあ、と欠伸を噛み殺しながら、うん、と答えた 「…まだ寝たり無いのか?」 「だって一仕事終えたから疲れた」 呆れながら問えば、カノンはテクテクと住居スペースに戻っていった 焼き栗を作るついでに枯葉を集めただけに見えたがな、と思いながらわたしもその後を追った 「おやすみー」 再び指定の位置=リビングのソファにもそもそ寝転ぶカノン わたしもそのソファの端に腰を下ろした 「掃除はまだ終わっていないのだぞ」 カノンに圧し掛かりながら言ってやる 「うん、頑張れ兄さん」 重い、とわたしの背を軽く叩き、棒読みで答えるカノン わたしは本日三度目のため息を吐いた 「お前はこんな煩い中でよく眠れるものだな」 先程も思ったことがつい口に出た 「………」 カノンは今度はすぐ答えなかった 返答が無いことに、まさかもう寝たのか、と内心ぎょっとしながら カノンの顔を覗き込む そこにはパッチリと開かれた藍の双眸があった なんだ起きているではないか… 「…煩いのは良いのだ」 ―― 静かなのは嫌いだ ポツリと答えたカノンに眸を瞬く 十二宮に赴くサガの帰りを待っていた頃も海底神殿に辿り着いたときも ずっとひとりだったから静かなのはもう良いよ 小さな呟きと共に、声にならないカノンの心の声が聞こえた 「……カノン」 「…ん、なに?」 夢と現の世界を行き来して、うつらうつらしているのに きちんとわたしの呼び掛けには応えるカノンの頬をよしよしと撫でる 「優しい兄さんが絵本でも読んでやろうか?」 「読書の秋だから?」 「そうだ」 わたしの提案にカノンは、掃除に飽きたんだろう兄さん、といたずらっぽく微笑った end
アキノフタゴマツリ様に参加させて頂きました。 カノンがアホ子全開になってしまったり (汗) 秋の味覚を入れようと思い、秋刀魚か焼き芋か焼き栗かと、双児宮の迷宮に迷い込む勢いで迷走したのでした。 back |