ゆ び き り げ ん ま ん


 ねえ、カノン。約束だよ。
 うん、約束だ。兄さんこそ破るなよ。

 幼い頃
 そういって、二人でゆびきりげんまんをした。

 私たちはふたりでひとつ。
 お前はけっして私の傍から離れてはいけないよ。

 カノンは私が護ってあげる。
 だから危ないところにひとりで行かないで。

 そういって抱きしめると、
 カノンは私の背を抱き返し、綺麗な笑顔で頷いてくれた。

 他人は同じ顔というけれど
 私にはこんな表情はできない。

 いや、もしかしたら
 昔は出来ていたのかもしれないけれど
 今の私では到底無理な話だった。

 自分の感情を曝け出すなど、出来るものか。
 この世界で信じられるものなど、どこにあるというのだ。

 私が唯一信じていた
 そして護りたい、と思っていた者も
 もう
 消えてしまった。

 「カノン」

 鏡に映し出された己を見て、居なくなった者の名前を小さく紡いだ。

 返答は返ってくる筈もない。
 部屋には私しか居なかった。

 どうして
 カノンは此処にいないのだろう、と思う。

 あの子は私が護ってやらなくては、
 聖域 (ここ) でカノンの存在を認め、知っているのは私しかいないのだから…――

 「…カノン」

 もう一度名前を呼び、鏡を倒す。
 室内に大きな音が響き渡り、硝子の破片が床に飛び散った。

 本物のカノンを探しに行こう。

 岩牢から消えてしまった
 カノンの行方なんて
 わからないけれど
 あいつは約束を違えたのだから
 見つけて、叱ってやらないといけない。

 そう思い、私は教皇の間を後にした。


+  +  +  +  +


 海の底からカノンは煌めく海面を見上げていた。

 「…なあ、サガ。早く気付けよ。約束を先に違えたのはお前だってことに」

 サガの心にはもう届かないことを知っていたけれど…
 どうしてだろう。
 返事がなくとも
 あの大馬鹿兄貴に
 呼び掛けずにはいられなかった。


end



病んでいるサガが好きです (こら) むしろ、病んでいてこそ‘サガ’みたいな。
カノンにサガの声は届いていて、サガにカノンの声は届いていません。
擦れ違う双子ラブ!


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