いつかみた夢。遠い夢 (サガカノ)


 双児宮のリビング。
 テーブルの上の置かれたバースディケーキ。
 数日前のサガの言葉をぼんやりと思い出しながらカノンはそこに突っ伏していた。

「カノン、欲しいものはあるか?」
「なんで?」
「いや、なんで、と言われると困るのだが」

 サガの反応を不思議に思いながら
 今欲しいものは特に無いぞ、と答えた。
 サガは少し困ったように微笑っていたっけ。

 (そりゃ欲しいものはないって言ったけど…なんで居ないんだよ)

 今日は 5/30 サガとカノンがこの世界に生まれ落ちた日だ。
 しかしサガがちょっと出掛けてくる、と言ったきり帰って来ない。
 兄を呼び出した人物はわかっている。射手座の黄金聖闘士アイオロス。
 サガの親友で、サガがオレの次に心を許している。
 ロスがサガを特別に思っていることも知っている。だからこそ余計に呼びに行きたくなかった。
 聖域に居ることは小宇宙でわかっているので、
 まぁそのうち帰ってくるだろうとも思っていた。

 でも誕生日にひとりで過ごしていると昔の記憶に捕らわれてしまう。
 13年前の 5/30 にサガがカノンの傍に居ることはなかった。
 カノンはひとり隠れ小屋で過ごしていた。
 聖域のものに見つかなければ外に出ても良かったのだが、
 サガのいない誕生の日にひとり出歩く気にはとてもなれなかった。

 今思うと、

 (…オレは淋しかったのかな)

 きっとそうなのだろう。今だからわかる。カノンは淋しかったのだ。
 共に生まれて来たのに、その誕生の日に、片割れのサガがいつも居なかったから。

 (…でもオレは待ってたんだよな)

 こんな風に
 今と同じように
 サガが日付けの変わる前に必ず帰ってきてくれることを信じていたから。

 もちろん今でも信じている。

 ―― サガ、サガ、サガ、サガぁ…

 呪文のように繰り返すと、

「カノンただいま」

 扉が開く。

 擦れ違い。憎み合い。
 別離を越えてカノンはサガと共に居る。
 これからもいっしょにいたいとそう思っている。

「サガ遅い!」

 おかえりの言葉もなしに、ぎゃん、と噛み付くカノン。
 サガは困ったように微笑ってカノンを抱き寄せる。

「遅くなってすまなかった」

 ああ、あと小宇宙が丸聞こえだったぞ、と小さく笑う気配がした。

「…う、うるさい!」

 それに頬が熱くなるのを乱暴な言葉で誤魔化して、
 ぎゅう、とサガを抱き返す。

 女神を護る聖闘士で在れて、
 サガが傍に居てくれて、
 昔欲しがっていたものは今全部この手の中に在る。

 だからカノンはサガの問い掛けに欲しいものは何もないと答えた。
 でもサガが居なければ、カノンの欲しいものは、いちばん欲しいものは、ひとつ失われてしまう。

「…だからなサガ」

 お前はオレの傍に居なきゃ駄目!



遅刻してしまった2007年の双子誕小話でした。















 はじまりの日 (サガ)


 誕生の日に
 おめでとう

 伝える術がなければこの想いは意味を持たない
 だから今共に在れる奇跡を女神 〈アテナ〉 に感謝している

 カノン、こんなわたしの傍に居てくれるお前にも心から感謝している

「カノン。誕生日おめでとう」
「…お前もおめでとうだろ。サガのあほ」

 共に生まれて、
 わたしを追ってきてくれて
 ありがとう



こちらは当日にアップしたもの。サガ様バージョン。















 はじまりの日 (カノン)


 誕生の日に
 おめでとう

 お前の傍に居れなきゃこの想いは伝えられない
 だから今共に在れる奇跡を女神 〈アテナ〉 に感謝する

 サガ、お前が生きていることがオレの隣に居てくれることが嬉しい

「カノン。誕生日おめでとう」
「…お前もおめでとうだろ。サガのあほ」

 共に生まれて、
 オレを待っていてくれて
 ありがとうな



上のカノンたんバージョン。















 兄さんの弟自慢と隣人さん (サガカノ+デスマスク)


 指を絡ませたり、
 額を引っ付け合ったり、
 そんな双子の様子を目の当たりにした隣宮の聖闘士は

 「なぁ同じ顔愛でて楽しいか?」

 げんなりとそう言った。

 「…同じ顔か」

 その言葉をぽつりと確認するように反芻して、
 サガは片割れのカノンにくちづける。

 「む、 うっ?」

 流石に驚いたのだろう。ぱちぱちと双眸を瞬くカノンと

 「げっ!」

 目の前で嫌がらせか!と戦慄くデスマスク。

 デスマスクの様子など一切無視して、
 カノンの口腔をたっぷり蹂躙してからサガは唇を放した。

 「…お、おい、サガ」
 「これを見ても先程と同じことが言えるかデスマスク」

 なんのつもりだよ、と続けようとしたデスマスクを遮り、
 サガは口を開いた。

 「あぁ?これって…」

 ぴっと指先でカノンを示すサガ。
 最初のうちは抵抗しようとしていたカノンだったが
 いつの間にやらとろんと恍惚の表情でサガの胸に凭れ掛かっている。

 「わたしのカノンは可愛いだろう」

 ニッコリと13年前によく見せていた神の微笑みとは違う
 勝ち誇った微笑みを見せるサガに、

 「……へいへい。俺が悪かった」

 お前らは確かに違う表情 〈かお〉 してるよ、とデスマスクは両手を挙げた。



サガとカノンは表情が全然違うので好き。
なんとなくサガ様のほうが美人度が高い気がします (そういう話じゃないだろ)
デッちゃんと双子の絡みも好きです。















 手を伸ばしてあげる (サガカノ)


 「わたし達はどうしようもなく弱いから
  まずひとりで立てるようになろうか」

 穏やかに発せられたその言葉に、

 「またオレをひとりぼっちにする気か?」

 オレは思わず意地悪く応えることしか出来なかった。

 サガはその答えにも怯まずに、違うのだ、と首を横に振る。

 「2人で支え合うのも良いと思う
  だがわたしは今度はお前が転んだときに
  手を貸してやれる関係でありたい」

 なぁサガ。流石にこの年になってオレは転んだりしないぞ、と思いながらきちんと耳を傾ける。

 「ああ、もちろん
  わたしが蹴躓いたときはお前が手を貸しておくれ
  カノン」

 そう言えるようになったお前は、
 前よりずっとずっと強くなったと思って、
 オレはな。それが嬉しくて安心で少し淋しいよ、サガ…――



カノンたんは‘転ぶ’表現。自分は‘蹴躓く’表現。
そんなサガ様が書きたかったがための小話だったりする (笑)















 追復曲 (カノン)


 いつもいつも
 お前のように在ろうとしていた
 オレは双子座の影だから

 お前の旋律ばかり模倣して追い掛けて、
 お前の心がぐら付けば同じように振り回されて、

 ああ、もうこんなのうんざりだ

 名は体を現すと言うけど
 ほんとう過ぎて嫌になる

 今直ぐにでもこんな名前捨ててしまいたい

 ああ、でも

 「カノン、おいで」

 お前が紡いでくれる
 その優しい響きが世界でいちばん好き



クラシック音楽の技法のカノンの意味からとってみました。
(と言ってもカノンの名前はギリシア語 kanon からなんでしょうが)
カノンが居たからサガが本当の自分で居れたように
サガが呼ぶからカノンはカノンで居れたのかなぁ、とも思うのです。
パッフェルベルのカノンも大好き。聴くとほんとにホッとして癒されます。
しかしあの旋律はなんであんなに心地良いんでしょうか。いつも不思議です。


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