昏い眼がときどきあまくなって、そこに映るのがうれしかった (サガカノ) 今はいない緋色の眼をした漆黒の者を偲んでそう言えば、サガは複雑そうな表情を浮かべた。 喜べばいいのか、怒ればいいのか、分からない、といった様子だった。 「つまるところ、オレはどうしようもなくブラコンなのだ」 あんまり困っているようなので、相変わらず頭の固い仕方ない兄さんだ、と助け舟を出してやる。 オレはサガであれば全部好きなのさ。 「お前はまたそのようなことを…」 呆れたように言いながら、それでも、今度はあのときとは異なる紺碧の瞳が甘くなるから、オレはまた嬉しくなれる。 11.02.01 up 相反する感情を抱えてずっと苦しみ続けていたら、 「そんなに苦しいなら、その想いを捨ててしまえば良いんじゃないか?」 と言われた。 馬鹿が。 そんなことが出来るなら、とうにやっている。 わたしが苦しさに呻きながら、それでも、その想いを抱えたまま答えれば、 「なら、オレは両手に好きを抱えて生きていこう」 目の前の半身はそう微笑った。 カノンはサガ様がだいすきだよ! っていう。 好きと嫌いを両手に持つなら、ロスサガでも良いなあ、と思ったんですが、気付いたら、やはりいつも通り双子で書いていました。 11.05.10 up うららかな昼下がりに、リビングのソファで小説を読んでいたら、ぎゅむう、と背後からわたしを締め上げる…いや、言い方が悪いな。訂正、背後からわたしに力強く抱きついてくる両腕があった。 それが誰かなどとは見なくとも分かる。 「どうしたのだカノン?」 小説に向けた視線は動かさぬまま問えば、 「うーん、なんか分からんが、今のサガの状態が非常に気に食わなくてな」 「ほう、そうか」 「ああ、そうだ」 「…で、こうやって抱きついたことによってその不満は解消されたのか?」 「いや、むしろ飄々としているお前の姿に余計に鬱憤がたまった気がする」 会話のキャッチボールを重ねていると、カノンの腕の力が次第に強まっていく。 「では、駄目ではないか?」 「むー、そうだよ」 さて、どうしようか、と今度は視線だけはカノンのほうに動かしてやる。 すると、わたしの肩口に顎を乗せ、恨めしげにこちらを睨みつける双眸と出会った。 「カノン、構って欲しいのか?」 「………違う」 「では、わたしは本を読むのに戻りたいので、この腕を離してもらいたいのだが?」 「なんかそれは嫌だ」 「つまりそれは構ってほしいと言うことだろう?」 「うー、そうなのだろうか?」 「いや、わたしが訊いているのだが」 「なんかこうあれだ」 「あれでは分からんな」 「いらないのに欲しいって言うか、欲しいけどなんかいらない、みたいな?」 「ますますよく分からなくなったぞ、カノン」 「ああっ! もうっ、とにかくとりあえずその本を置けサガ!」 最終的に声を荒げ出したカノンに仕方ないな、と栞を挟んで本を閉じる。 そうして、目の前のテーブルにそれを置き、空いた腕で後ろのカノンを手前に連れてきてやった。 「わあっ、わわっ!」 強引にソファを乗り越えることになったカノンは大慌て。 もう28なのだし、仮にもごーるどせいんとなのだから、もう少し落ち着きを持ってほしいのだが、まぁ、今お小言を言うのは止めておこう。 カノンはずり落ちそうになるのをわたしの首にしがみつくことで回避し、ホッと一息。 「い、いきなり何をする! 危ないだろう!」 そして、また、ぎゃん、と声を荒げた。 「………」 わたしは少し考えて、 「む、なんだ? お前がいきなり引っ張るのが悪いのだぞ!」 自分がいきなり抱きついたことは棚上げカノンの可愛くない口に口付けをひとつ。 「…っ!?」 カノンはぴたりと動きを止めた。 「…………え?」 唇が離れると、呆けたような表情のまま、今起こったことを確認するように自分の唇に指先で触れる。 「さて、機嫌は直ったか? さみしがりのわたしの片割れ」 今度は長い髪を梳きながら、問うてやる。 カノンはパクパクと金魚のように口を閉じたり開けたりを繰り返したあとに、 「……………なおった」 真っ赤な顔で、ちいさくちいさく、そう呟いた。 最初から、構ってほしいと言えば早いだろう、と思いながらも、わたしは素直なお前もツンデレなお前も愛しているよ、と囁いておいた。 サガ様にツンデレって言わせてみたかっただけというね!(こら) 11.05.28 up 「サガのことのようだな」 とカノンが言うので、 「カノンのことのようだな」 と返してやったなら、 「じゃあ、二人でいればさみしがりやではなくなるな」 と片割れは微笑った。 11.07.09 up 「寒いぞ!」 と言いながら、買い物袋を腕に抱えたカノンが双児宮の居住区に帰宅。 どたばたと足音喧しく、暖房のよく利いたリビングにやってきた。 「おかえり」 手元の小説から目線は上げぬまま返せば、後ろからどんっと抱きつかれる。 うーうー寒いい、と言いながら肩口にぎゅむっと押し付けられる額と、首筋に触れる髪の毛が外の寒さを直に伝えてきた。 「カノン、髪が冷たい」 「だから、寒かったって言っているだろ。外にいると息が真っ白だ」 横を向けば、肩から顔を上げたカノンが鼻の頭を赤くしたまま切々と説く。 わたしは仕方ないな、と腕を伸ばし、目の前のテーブルに置いたばかりのマグカップを手に取った。 「では、わたしのこれをやろう」 温まるぞ、と手渡せば、 「新しく淹れてはくれないのかよ…」 兄さんケチだな、と言いながら、後ろからソファーの背凭れを乗り越えたカノンがわたしの隣に腰を掛ける。 そのまま勢いよくマグカップに口をつけるから、あっ、と思ったが、一瞬遅かった。 「ってあっちいいッ!」 「今淹れたばかりだから、熱々の筈だ。気をつけろよ、と言おうと思ったのだが…」 「〜〜〜っ、早く言えよ!」 「お前がわたしの愛を疑うからだろう?」 まったくお前は本当に仕方がないな、と今度は火傷をした舌に口付けてやった。 ヒーリングの小宇宙を送ってやれば、カノンはむすりともう一度マグカップに口をつける。 「治ったか?」 問えば、 「ん……」 コクンと小さく頷いてから、 「これ美味いな、サガ」 と、カノンはようやくいつもの素直さで微笑った。 |