めでたしめでたしのその先 (ロス→サガ→カノン) ※ 一 方 通 行 な の で 後 味 悪 め で す 。 絶対的な強さを持つようにはとても見えない、まるで女性のもののようにいつも綺麗に整えられた爪を見つめた。そっと握る。 「アイオロス?」 どうかしたのか、と軽く首を傾げられたのでニコリと笑った。 「好きだよ」 紺碧の双眸がパチパチと瞬く。 長い睫毛が大きく揺れるのさえ綺麗だ。 少しだけ巡回するような間があって困ったように微笑んで、彼は答えた。 「…ああ、わたしもだ」 それが俺の欲しい「好き」ではないことは、十三年前から分かっていた。 「悔しいな」 「何がだ?」 「もっと早くに出逢えていればとか思ってもそもそもスタートの時点から負けてるし、どうしたものかな、と思ってな」 「では、次はわたしの弟として生まれ変われるよう祈っておくのだな」 「しかしなぁ、たとえ生まれ変わっても、お前の片割れが星の宿命ひとつとして誰かに譲るなんてありえない気がする」 「……そうだろうか」 「なんだ。やけに自信が無いのだな、サガ」 「わたしはそんなに良い兄では無いからな」 どちらかというと駄目な兄だ、と淋しそうに微笑むサガに、生まれ変わったらと言わず、今すぐ抱きしめてしまいたくなった。 「おい、何してる」 けれど、その白い頬に手を伸ばしかけたところで執務室にぴしゃりと響く声。 サガとまったく同じ声。 いつの間にか扉の前にカノンが立っていた。 「カノン、ノックくらいしなさい」 「ノックしなきゃいけないようなことしてたのかよ」 カノンはツカツカと苛立ちを隠さない足取りでこちらにやってきて、手にしていた書類の束をサガのテーブルに叩き付けるように置いた。 「邪魔して悪かったな」 それだけ告げると、俺をギンっと睨み付けてから、真っ直ぐ出て行ってしまった。 「…っ、カノン!」 バタンと大きな音をたてて閉ざされた扉に堪らずサガは立ち上がる。 しかし、すぐにハッとしたようにまだ残っている仕事の山を見た。 ぎゅっと唇を噛み締めて、再び席に腰を下ろす。 「追いかけたほうがいい」 「べつにわたしは…」 「サガ、後悔するくらいなら気持ちは伝えないと」 「……」 もうお前はひとりで何かを抱え込んだり我慢したりしなくていいんだよ、と扉を示す。 「…すまない。ありがとう、アイオロス」 サガはもう一度立ち上がり、扉に向かった。 「サガ」 長い髪が靡く背中に声を掛ける。 「もし、カノンが居なかったら俺を見てくれた?」 突然の質問にきゅっと法衣の上から胸を押さえる仕草がまたとても綺麗だ。 「…わたしにはカノンがいない世界なんて、考えられない」 「それもそうか。変な質問をして悪かった。早く行っておいで」 喧嘩するなよ、と笑うと、サガはまた困ったように微笑んだ。 その表情が先程とは違う嬉しそうな困った微笑みなのが俺の胸をひどく突いた。 サガの消えた執務室で凝り固まった背筋をほぐすように伸びをして、天井を仰ぐ。 「……この痛みこそ生きてる証か」 お前が奪って、そしてまた俺に与えてくれたもの。 |