あ な た は い つ も 白 河 夜 船 を 漕 い で い る (ロス&カノ→サガ)


 一つ誓いを述べるなら、

「オレはサガには殺されん」

 聖衣を纏って生身の体を殴られようと、
 岩牢に閉じ込められようと、
 絶対にそれだけは譲れなかった。

「もしもあの時、そうしてオレが死んでいたら、あいつはずっと苦しんで、罪の意識に苛まれて、女神が与えてくださった今の生すらも、うっかり胸を突いて終わりにしかねないからな」

 言い捨ててカノンはそっぽを向いた。

「カノンの優しさはちょっと回りくどいな」

 射手座のごーるどせいんとは微笑う。

「サガの弱さはオレが誰よりもいちばんよく知っていたのだ」

 言葉を続けるカノンは何だか不機嫌そのもので、

「ほいほい殺されるお前とは違う」

 しまいにはそんなことを言われる始末。

「…ほいほい、って失礼だな」

 微笑うときはあまり似ていないけど、怒った表情はサガそっくりだな、と思いつつ頭を掻く。

「聖域の英雄さんは少々根性が足りないんじゃないか? と言っているだけだ」
「カノンは俺が嫌いなんだなあ…」

 隠そうともしない刺々しさに、思わずため息。

「……嫌いだ」

 きっぱりずっぱり切り捨てられたかと思ったら、

 ―― お前はオレからサガを奪っていったくせに。

 怒り以外の感情が凪いでいたカノンの瞳がさみしそうに揺れた。

「そんなことは…」

 言い掛けるも、

「ないとは言わせん。お前はオレからサガを奪ってサガに呪縛を掛けて、そして死んだ」

 遮られる。

「お前があの時、サガを殺してでも止めていれば……あいつが13年も罪を重ね続けて苦しむことはなかったんだ」

 言葉を続けるカノンの表情は険しく、勝手なことだと理解した上の発言のようだった。

「…それでも、カノン。俺にサガは殺せないんだ」

 そして、これも真実。

「…分かってる。オレにだってサガは殺せない」

 俺たちは何処で間違ったのかな…、と女神の呼び掛けにも応えず眠り続けるサガを二人は見つめた。

 本当はね。わかりすぎるくらいわかっている。

「サガが勝手なんだ」

 でも、そんな身勝手な兄が好きなのだと、目覚めなかったらやっぱり嫌なのだと、カノンは泣いていた。



聖戦後、目覚めないサガ様を見守るカノンとロス。
09.03.08 up
















 周 り を よ く 見 て 、 と て も 綺 麗 な 世 界 だ か ら (ロス→サガ)


 それは黄金に煌めく聖衣を継承したばかりの頃のことだ。
 サガと行った、図書館で見つけた絵本の一節にそんな言葉があった。
 サガはふと苦しげに眉根を寄せる。
 そして、見たくない…と言った。
 その言葉が彼には珍しいほど存外に強い響きをしていて、俺は内心ぎょっとしたものだ。

「どうしてだ?」
「この世界にはどうにもならないほど汚いものもあるだろう」

 それが目に入ってしまうから。だから、綺麗なものも見れなくて良いと。

 それは確かに正しいのかもしれなかった。

 でも、サガ。俺は思うんだ。
 それを見て知ったあとにこそ、世界の綺麗なところにも気付けるんじゃないかって。

「大丈夫。サガが見たくない綺麗じゃないものも、俺も共に見るのだから」

 そうして二人でさ、どうしようかって、悩んだり考えたりしよう。

 俺の言葉に紺碧の瞳が驚いたように数回瞬き、綺麗に微笑ってくれた。

 あのとき、どうして気付いてやれなかったのだろう。

 サガは既にもう、見たくもない現実に一人立たされていたのだと。

「片割れと、宿星を、聖衣を奪い合わなければならなかったサガの目から見える世界は歪んでみえたんだな…」

 今だからこそ、そう思う。



幼少時の回想ロスサガ。
目を逸らし続けていられる現実でもないけど、直視するにはあまりに痛々しい現実かなと思ったり。誰かといっしょなら堪えられるかもしれないのに、その誰かを突き落さなきゃいけない現実だから、余計にサガは追い詰められるばっかりじゃないと思ったり。ロス兄も万能では決してないと思うので、なんかこう、真っ直ぐ過ぎてサガと擦れ違っていれば良いなと。サガもある意味では真っ直ぐなんだろうけど…。こう、真っ直ぐの種類が違くて。サガ様は不器用すぎるんだと思います、うん。
下の小話と対になっています。
09.02.27 up
















 き み の 目 隠 し に な っ て あ げ る (サガ←カノ)


 月が煌々と輝く、明るい夜のことだった。
 闇は色々なものを覆い隠すのに、それすらも覆すような夜だった。
 明るすぎる夜は嫌いだ。

「…ふーん。じゃあ、こうしたら良い」

 カノンが両の手のひらでソッとわたしの目元を覆う。

「見たくないものがあるなら、無理に見ないほうが良いんじゃないか?」

 見なくて良いよ、と優しい声が響く。

「ただその代わりさ、オレがいないとお前の手を使って目隠しをしなきゃいけなくなるぞ。それは困るだろう?」

 ―― だから…、ずっと、いっしょにいようサガ…。

 カノンの最後の言葉は嗚咽にまみれて聞こえた。



幼少時双子。
上のロスとは反対のことを言っているカノン。
09.02.27 up
















 e g o i s t (ロスサガカノ)


 双児宮の住居スペースにすよすよと穏やかな寝息が落ちている。

「なぁ…」

 それを見下ろしながら、双子座 【弟】 のごーるどせいんとがポツリ。

「手が掛かる子ほどカワイイと言うが実際可愛いか?」

 絶対可愛くないとオレは思う、とぶつくさカノン。

「なんだか失礼極りないことを言っているな」

 ハッハッハと笑ったのは同じくごーるどせいんとの射手座だった。

「だってサガは可愛くないだろ。つーかめんどくさい」
「まぁ、サガはちょっと傲慢だからな」
「こいつはちょっとじゃない。……て言うかお前が言うな」
「何故?」
「身内を他人に馬鹿にされると腹が立つ」

 カノンの場合身内うんぬんではなくて、サガを悪く言われるのが気に食わないだけだろうに。
 ブラコンだなあ、と知っていたけど改めて思う。

「馬鹿にしているわけじゃないよ」

 そして誤解を解くべく、射手座は首を振った。

「じゃあ、なんだ?」

 カノンはむーとまだ少々納得していない様子でアイオロスを見た。

「そういうところも含め、かつ手が掛かって目が離せなくて可愛いじゃないかと思ってな」

 アイオロスはスリーピングビューティー状態のサガを示してニコニコ。
 反対にカノンはちょっぴりげんなりしたご様子。

「……お前、マゾなのか?」

 その質問に顎に手を宛がい、ちょっと思案。

「いや、どちらかと言うとサドだと思うが?」
「どっちにしても英雄サマは良い趣味をお持ちだな」

 ふふん、と鼻で笑われるのを、

「カノンには負けるさ」

 華麗に一蹴。

「……やっぱりお前、オレに喧嘩を売っているのだろう?」

 目の前の美人なかんばせがもう一度顰めっ面に変わる。

「いやいや、そんなことを言いながら、サガにしっかり毛布を持って来てあげたりするカノンほどマゾじゃないと思うぞって話だ」

 むぅむぅしているカノンが可愛かったので、さらに追い討ち、ついでにとどめも刺してみる。

「…ムカつくっ」
「うん。眉間にシワを寄せるとサガみたいで可愛いぞカノン」

「っ、お前出て行けーーーーッ!!!!!」

 小宇宙を爆発させそうになったカノンに、

「カノン、人が寝ている横でやかましいっ!!!!!!」
「ぐはぁっ!!!?」

 寝起きで機嫌極悪のサガの強烈なアッパーが炸裂した。

「おー」

 空高く (おや、天井は?) 飛ばされたカノンを見やったアイオロスは、寝起きの脳を覚醒させるために緩く頭を振っているサガに視線を移動させた。

「ああ、アイオロス。来ていたのか?」

 起こしてくれたらよかったのに、と先程の不機嫌さを微塵も感じさせない
 ニッコリ極上笑顔の双子座 【兄】 に、

「…やっぱりカノンのほうがマゾだよなあ」
「何か言ったか?」
「いいや」

 苦笑い付きでコッソリと呟いた後に、おはようサガ、と本命のほうの蒼の髪をそっと撫ぜた。



ごめんカノンたん…!(笑)
この三人のこういうノリが好きです。まぁ、13年前が哀しすぎるので。
下の小話に続いてます。
09.02.23 up
















 欲 張 り な 両 手 (ロスサガカノ)


「ひでぇ!! オレ毛布まで持って来てやったのに…!」

 アッパーで空中に舞い、せいんとのお約束で顔面から着地したカノン (ちなみに掠り傷ひとつ皆無) は盛大にいじけていた。

「カノンがわたしの安眠を妨害するのが悪い」

 ずっぱり言い捨てるサガに、

「それはアイオロスが!」

 ぎゃあぎゃあと反論カノン。

「ロスが何かしたのか?」

 サガがキョトンとしたので何があったか訴えようとしたら、もががっ!! と素早く口を塞がれた。

「そうだぞカノン、お兄ちゃんは大事にしないと」
「もがー!!! はひゃせこの人馬ー!」
「あ、いてっいてっ」
「………」

 じたばたと大暴れのカノンに手を焼いていると、なんだかサガの周囲に冷たい空気が立ち込める。

「アイオロス」
「うん?」
「あまりカノンにべたべた触らないでくれないか?」

 唇は微笑を湛えているが、サガの双眸は笑っていなかった。

「…人をそんなバイ菌みたいに言うなよ」

 渋々手を離せば、カノンは逃げるように迷わずサガの腕に飛び込むし。
 お前たちは相変わらずだなあ、と呆れまじりのため息を一つ。

「否、そういう意味ではなくてだな」

 自分の髪よりも淡いカノンの碧を撫ぜながら、サガは言った。

「カノンはわたしのだから」

 たとえお前でもやらんぞ、と悪びれなく艶々に微笑。
 今度はほんとうの笑みだった。

「つーかオレはものじゃないぞ?」

 サガの言葉にぶつぶつと文句を言いながらも、カノンはすっぽりサガの腕に収まったままで。

「あーあ、本当に重症なブラコンだ」

 やれやれ敵わないな、と今度は諦める。

「世界中をも巻き込む仲の良さだろう?」

 サガは愉快そうに微笑っていた。



お兄様は欲張りですよ。
そしてサガ様が倖せだとカノンたんもロス兄も嬉しいよ、と主張するための小話でした。
しかし、双子の仲が良いと☆矢の物語が何も始まらないので激しく K O M A R U 。笑
09.02.23 up

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