危 う い 君 (リアシャカ) 拳によって受ける傷より、言葉によって受ける傷のほうが、君には遥かに辛かったのだろう。 泥だらけ、傷だらけの顔を見せたくないのか、すこし俯いて‘シャカ’と小さく呼ばれる。 そう ―― 別に助けを求められたワケではない。ただ名前を呼ばれただけだった。 けれどわたしはその度に君の手をとった。 初めの頃、汚れている手にわたしが触れることを、君は嫌がっていたな。 それでも君は、わたしから触れれば、ちゃんと握り返してくる。 だから共にわたしの園に駆けた。 そうして人の気配が消えるまで、二人で過ごした。 繋いだ手は離れない。離せない。離したくない。 どちらがそう思っていたのかは、今でもよくわからないのだよ。 ただ… 「シャカ」 「なんだね」 「お前の手はあったかいな」 泣き出す寸でのような表情で、微笑む君に、こちらのほうが泣きたくなった。 無力な自分よりも ひとつでも良い 君が‘辛い’と、 ‘悔しい’と、 ‘泣きたい’と、 吐き出せる世界でないことが、わたしには哀しかった。 愛 の 力 (リアシャカ) アイオリアは十二宮の石段を上っていた 処女宮の前でピタリと立ち止まる 陽射しを受け、きらめく金糸が碧の眸に映った 「こんなところで何をしているんだ?」 首を傾げれば、 処女宮の主は石段に座り込んだままアイオリアを見上げる 「君が、」 「うん」 「来る予感がした」 少し考えて、 ああ、小宇宙か、と納得すれば 「君は馬鹿かね」 エクスカリバーよりも鋭い一撃で一蹴された 「私は予感がした、と言ったではないか」 むーと頬を膨らませるシャカに、今度は間違えないように納得 「そうか、じゃあ愛の力だな」 思ったとおりのことを口に出しながら 相手の視線に合わせてアイオリアは屈む 閉じられていたシャカの眸がぱっちりと開かれた 彼は本気で言っているのだろう ニコニコと満面の笑みが輝いていた 「…やっぱり君は馬鹿なのだよ」 アイオリアは先程と同じく一蹴されたが、 シャカの頬は膨む替わりに少し赤かったと思う そ の 愛 が 真 実 で あ る こ と を 証 明 し な さ い (デスアフロ) 「とりあえず手っ取り早くベッドにダイブしてみるか?」 「…君は相変わらず最低だな」 「だって証明なんかできっこねーだろ?」 「そこでこう愛の言葉を囁くとか、そういった選択肢はないのかね?」 「あー、おあいにく様そういった甲斐性はねェな!」 「…胸を張って言うことか!」 「いってェな、薔薇を刺すな!」 「ああ、私はどうしてこんな男と共にいるのだろう…」 「そりゃあ、あれじゃね?」 「なんだ?」 「ダメな男ほどいい女にモテモテっつー少年漫画の王道パターンだ」 「……デス」 「ア?」 「自分が駄目な男と言う自覚があったのだな」 「しみじみ言うんじゃねェ!」 大体、そこじゃねェだろうが、とデスマスクは頭を抱えた。 ―― まぁ、確かに女ではないのだけれど! 空 か ら 降 る 魔 法 (デスアフロ) その日の夕暮れ、空が突然泣き出した。 双魚宮の主は数々の薔薇が咲き乱れる庭園を見やる。 水をやる前で良かった、と思うと、ふと馴染み深い小宇宙に気付いた。 「…何をしているのだ?」 傘を持ち庭園に出れば、ざあざあと降り頻る雨の中に立ち尽くす悪友と出くわして、アフロディーテは長い睫毛を揺らし何度も眸を瞬いた。 「よう」 遊びに来てやったぜ、と湿気た煙草を咥えたまま笑う彼に、傘を差し出し、宮に入ろう、と促す。デスマスクに傘を傾けた分だけアフロディーテは傘からはみ出すことになった。 「こんだけ濡れりゃ今更だろ」 それに気付いたデスマスクは、アフロディーテの手からひょい、と傘を奪うと、それを再びアフロディーテのほうに傾けた。 「でもお前は濡れてないんだから濡れないほうが良いだろうよ」 デスマスクの科白はアフロディーテの心にことんと優しく落ちて、さあさあと先程より緩くなった雨音を遠くに感じた。 「デスマスク」 「お、わっ!」 びしょ濡れの体に真っ直ぐ飛び込めば、馬鹿!意味ねーだろ、と叱られて、 「今日の君は水も滴る良い男だと私は思う」 「へ、当然だろ」 素直に告げれば、予想していたものの調子付いた返答が返ってきて、 でも今日は本当に良い男かな、と雨の魔法にかけられ思っている。 勝 敗 の 行 方 (デスアフロ) 花なんて、 なんの役にも立たねーよ、と君は言う そんなことはない、とわたしは答える 価値観の違い 言い合いはエスカレートして、 次第に激しくなっていくのだけれど それも良い 君と喧嘩が出来る それも倖せ 「ほら、だから役に立っているではないか」 胸を張ってそう言ってやれば、 今回はそういうことにしておいてやる、とデッちゃんが笑った 前 途 多 難 ! (デス→アフロ) アフロディーテは双魚宮の前の石段に座り、聖域を見つめると、 はあ、と深いため息を吐いた 「なんだよ」 その様子に、珍しい、と首を傾げるデスマスク 「……遠い」 ぽつりと呟かれた言葉にデスマスクは余計首を傾げた 「何がだ?」 「サガの双児宮が」 わたしは ‘ごーるどせいんと’ なのだから遠い遠いと言うほどでもないかもしれないが、 やはりこうしてみると遠いし淋しいのだ、としょんぼりしたアフロディーテに デスマスクはガックリ たっぷり2分は項垂れてから、半ばヤケクソに言い放った 「恋愛は障害があればあるほど燃えるって言うけどな!」 その言葉にアフロディーテは表情をパッと明るくし 「デスマスク、たまには良いことを言うのだな」 とても嬉しそうにニッコリ天使の微笑みを浮かべる 再び、下の宮に視線を戻したアフロディーテの横顔を見つめながら 「……本当に障害だらけだぜ」 デスマスクは小さく小さく呟いた 移 り 香 (デスアフロ) 悪友は、いつも煙草と酒の臭いがする。 朝帰りのときは、女物の香水の匂いもする。 そして時折血のにおいがした。 彼は、わたしの髪を一房掴み、くんと鼻を鳴らす。 薔薇くせぇ、と笑うので 「血のにおいが消えて良いだろう、デスマスク」 と言ってやる。 彼はやはり愉しそうに笑って 「違いねーな」 と、 わたしの体を抱きしめた。 そうして今度は、わたしの香りが君に移っていくのだろう。 最 上 級 の も の (デスアフロ) 「偶には手土産くらい持って来い。気の効かない男だな」 いつもいつも陽が落ちた頃にやってくる来訪者にそっぽを向きながら言ってやる。 「手土産っつってもなぁ。お前が育てた薔薇より綺麗な花なんて見たことねーし」 ―― 恋人にやるものなら最上級じゃねーと駄目だろう 悪びれることなく彼は答えた。 運 命 の 流 れ に 逆 ら っ て (デス→サガ) 記憶の中のあんたは いつも苦しげに そして淋しげに 微笑んでいた気がする 淋しい微笑みの理由 (わけ) は ずっと わからなかった ま、知ろうともしなかったが… ただ あんたの 苦しみの、淋しさの、根本を知り それを消してしまえるなら 俺は消しに行ったと思うんだ たとえそれを あんたが望まなかったとしても ―― |