手を繋いで、どこまでも
絶望の始まりは母様の死から ――
無条件に慈しみ、愛してくれる存在の人は呪いの言葉を吐き捨て、絶命した。
元からあまり倖せだったワケではなかったが、その瞬間から生きることは苦痛となった。
次に教会の連中に疎まれていると気付き、王室の連中には人あらずものと怯えられた。
終いには唯一人護りたかった妹の自由さえ奪ってしまう、どーしようもない兄と成り果てた。
俺自身 ―― ゼロス ―― には未来 (みち) を照らす灯りひとつもありはしない。
差し伸べられる手も想いもすべて ‘神子’ に向けられたものだった。
怖かった、ずっと ――
だから歩くときはいつも手探り、気を張り詰めて張り詰めて……
気付けば、歪んだ笑みを貼り付けるのがお得意の道化師になっていた。
嘘でもなんでも良い。
笑ってさえいれば、敵対する連中に 『ああ神子は愚かだ』 と思い込ませることが出来る。
何より嘘の笑顔を貼り付けている間は本心を隠せる。
俺さまは自分を曝け出すのがいちばん嫌いだから
ある意味都合良かった。
しかしロイドという存在に出逢い、事態は一変する。
ロイドに出逢い、俺さまの世界は色を変え出した。
最初は
気付いて欲しくない。期待して裏切られるなんて真っ平御免なんだ
だから深い場所まで踏み込んでくるなよ
俺さま自分を曝け出すのがいちばん嫌いなんだって ―― と
神子ではない ‘ゼロス’ という存在を見ようとする鳶色の双眸から逃げていた。
しかしロイドは 『お前はお前だろ』 と言い、
高く高く築き上げてきた隔壁をいとも簡単に飛び越えてしまった。
差し伸べられた手を見つめ、呆気にとられてしまう。
何度躱しても
時に振り払っても
これでお終いだ、と裏切っても
ロイドは俺さまに向けて差し伸べる手を引っ込めようとはしなかった。
「なあ、ゼロス。お前は行きたいところに行って良いんだ。
好きなだけ逃げても良いんだ。
でも出来るなら一緒に行かないか?
俺は ‘ゼロス’ と居たいから」
ロイドから差し伸べられる温かな手に、
真っ直ぐに向けられる眩しい笑顔に、
心に染み込む優しい言葉に
あの雪の日から凍えていた心が揺らぎ出す。
その手に縋り付きたくてどうしようもなくなってしまう。
「いや、でもさ。ハニー…」
俺さま最初のいっぽが踏み出せない怖がりなんだ。
やっぱり此処から動けねーや。どうしようか…。
ハハッと力無く笑う。
ああ、いつもみたくちゃんと笑えているだろうか。
不安になりながらロイドを見つめた。
ロイドは俺さまの言葉を聞くやいなやツカツカ俺さまに近付いて来た。
え、なに…?
「だったらこうしようぜ」
ロイドくんの行動に、俺さま少しビビって後退ろうとしたけど
それより先にがしっと腕を掴まれ、きゅうと手のひらを握られた。
軽く引っ張られて、よろけて最初のいっぽを踏み出すこととなる。
「あ……」
「ほら、大丈夫だったろ?」
へへと笑いながらロイドが嬉しそうに言う。
俺さまは固まったままロイドと自分が立っている未来 (みち) を見つめていた。
それはぽかぽかと暖色の陽に照らされた、明るい未来 (みち) だった。
「よし、行こうぜ」
ロイドが俺さまの手を引き、歩き出す。
なあ、ロイドくん?もう知らねーよ。
俺さまこの先、ロイドくんが嫌だって言ってもこの手を絶対離さないから ――
end
ロイドくんはいつだってゼロスを照らす光です。
TOSはロイドくんとゼロスが響き合うRPGと銘打てば良いと思います (こら)
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