かぽか揺れる


 「ちょ…誰か助け…て」

 なんかもう戦闘不能一歩手前って感じなんですけど
 マナも尽きてるから回復魔法使えないんですけど

 「敵停止。先を急ぎましょう」

 淡々とプレセアちゃんの声がする
 ああ、相変わらずクールってかマイペースっつーか

 「行こ行こ〜」

 ついでにロイドくんとがきんちょの声
 だー!ガキんちょ!マジふざけんな!
 ってかハニーも冷たいなぁ……

 「あ、それちょっとひどすぎじゃね…待って…」

 あ、やばい…
 ホントに置いて行かれるかも
 ひらひら揺れるロイドの白い帯を見送りながら
 やっぱり足に力が入らなくて
 ズルズルその場にへたり込んだ
 もう良いや
 どーせ俺さま、裏切り者だしね
 って自分で言うと凹むな、これ……

 「あーもう何やってんだよ」

 とりあえず体力だけでも回復させようと
 ぼへーと空見上げてたら
 いつの間にか戻ってきたハニーが呆れたように深ーいため息を吐きながらこっち見てた

 「ロイドく〜ん、俺さまもう動けません」
 「あーはいはい。ほら、アップルグミ」

 ハニー?レモングミくらいくれても罰当たらないと思うよ
 ケチだなぁ。誰のおかげでアイテムざくざくだと思ってんだぁ?
 俺さまが女の子に貢いでもらってるからですよ!
 そう思いながらアップルグミに手を伸ばす

 「……」

 あ、でも…

 「ゼロス?」

 アップルグミを受け取らない俺さまにハニーがきょとんとした

 「ハニー」
 「ん?」
 「はい」

 「……は?」

 「だから抱っこして」
 「アホか」

 ロイドに向かって両手を伸ばして、にっこり微笑んでやると
 バシッとその手を叩かれた
 ぐはっ!ハニーってば極悪!
 俺さま、今のでなけなしの体力に止め刺されたぜ!

 「ハニー冷たいなぁ…」

 ふてくされながらアップルグミを口の中に放り込む

 「さっき置いていくしー…」

 ブツブツ文句言いながら
 あー甘いよな、これ。しかも歯にくっ付くし、と罪のないアップルグミに八つ当たりしてみた
 ふーすこし回復したからもう立ち上がれそうだ
 よっこらせ、って膝立てて顔上げたらハニーがすごい神妙な面持ちで俺のこと凝視してて
 今度はこっちがきょとんとする番だった

 「ハニーどーしたのよ?」

 珍しい顔してさ

 「あ、ゴメン!ゴメンな!」

 しかしロイドは俺さまの言葉なんて気にも留めずって感じで平に謝って来た

 「……はい?」

 なんで謝罪してんの、こいつ…
 頭上にハテナ飛ばしまくってると
 ハニーは俺さまを軽々担ぎ上げやがった

 「―― は、はいぃッ!?」

 え、ええっ??
 いや、本当に抱っこしてくれるとは思ってなかったんですけど…
 俺さまより背丈も体重もちびっこのくせにハニーは馬鹿力だなあ、そんなことを考えながら
 ゆらゆら揺れる不安定さが怖くて、いちおうハニーの首に腕を回しておいた

 「…置いてってゴメンな」

 すると小さく小さくそんな言葉が俺さまの耳に届いて

 「…あ、ああ、そのことか」

 たしかに置いていかれるのは嫌いだ
 ぶっちゃけトラウマになってると思うし
 だからさっきも実は結構マジに凹んでいたのかもしれない
 ああ、でもハニーってばちょっと天然タラシ過ぎる…
 単純馬鹿だからなんも見ていない、と思ったら足元すくわれる
 こういうとき ―― ロイドはちゃんと俺自身を見てくれてるんだなぁ ―― と心が揺らぐ
 そんなふうに想って貰う資格なんてないのにな…
 俺はお前を裏切っている

 「ゼロス?」

 考え出したら心も頭もグチャグチャになってきて、ハニーの首に回している腕に力を込めた

 あーもう止めてくれ
 これ以上俺さまの心に踏み込んでくるなよ
 ハニーは微温湯みたいだ
 後からじわじわ浸透して、ポカポカしてくる感じ

 「……俺さま、お前のそういうとこ好き」

 いや、嫌いだとも思うんだけど好きだなとも思う
 ロイドは不思議だ
 ハニーの白いひらひらをつんつんと引っ張りながら素直に告白してやると
 キラキラ満面の笑顔が返ってきた

 「あはは、そっか」

 ぐはっ!眩し過ぎる
 さっき手叩かれたときより断然凄い威力だ
 もう俺さまってばホントに駄目かもしれない…


*  *  *  *  *


 「ゼロスくんとロイドさんラブラブです」
 「だーもうなんなのさぁ!あの2人は!」
 「良いなぁ〜〜…ゼロス。わたしもロイドに抱っこされたい」
 「な、なぁ!あの2人と歩くの恥ずかしいのはあたしだけかい?」

 プレセアちゃんとガキんちょとコレットちゃんとアホしいなの言葉を聞きながら
 かわいい女の子泣かすのはちょっとなぁ、と思いつつ
 それでも ―― この場所を譲りたくない。失いたくないんだ…
 そう思い始めている自分が、変わり始めた気持ちがとても怖かった


end



ギャグなのかシリアスなのか。中途半端ですね (汗)
冒頭の会話は戦闘後のやり取りで本当にあるもの。
わたし自身が 「なぬっ!ゼロス置いていくなんてひどい!ハニー」 と憤慨したものです (笑)
ロイドのぬるま湯温度に惹かれて、迷い始めた頃のゼロスくん。
タイトルが気に入っております。
ぽかぽかしながらゆらゆら揺れる恋心ってイメージなのです。



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