ンクチュアリ


 ちゅう
 くちびるとくちびるが重なって間の抜けた音がした
 薄く開いたくちびるをぺロリと舐め、くちびるを離す

 「ロイドくんさー」
 「んー」
 「キスするとき、目ェ閉じねーよな」

 ロイドの頬に手のひらを宛てて、包み込む
 キスするときは普通閉じるのよ、と呆れたようにゼロスが言った

 「あ…。なんか勿体無くてさ」

 ロイドは一瞬視線を彷徨わせ、ごにょごにょと答えた

 「勿体無い?」

 言葉の真意を測りかねて、きょとりと問い返せば

 「ゼロスのこと見てたいんだよ」

 お前綺麗だからさ ―― と口説き文句
 赤い髪を一房引っ張られて、もう一度くちびるが重ねられた
 予想外の出来事にゼロスも眸を閉じ忘れて、
 至近距離にある鳶色の眸を見つめ返した

 いつも迷わない
 自分の選び取った道を真っ直ぐに見据える
 透き通った眸が綺麗だ
 すこし前までは、
 この何もかも見透かすように自分を射抜く眸がとても嫌いだったけど
 今はとても好きだと思う

 しかし自分が見つめている分には良いが、
 キスしながら見詰め合うのは妙に気恥ずかしいらしい
 ロイドの頬が見る見る紅潮した

 (ハニー可愛いなぁ…)

 くくっと込み上げてくる笑いを必死で堪えながら
 ぽわぽわ倖せに包まれて、そんなことを考えていた


*  *  *  *  *


 ロイドは逢引き (と言っても先生やリーガルはきっと気付いている) を
 終えて、自分に割り当てられた部屋に戻ってきた
 ブーツを脱ぎ捨て、ぼふっとベッドに沈む
 はあ、と深いため息が洩れた

 嘘を吐いてしまった

 綺麗だから見ていたいのも本当だけど
 それ以上に見ていないと不安なのだ
 ゼロスは護らなきゃいけないほど弱くないし
 か弱い女の子じゃないし
 相手が自分より5つも年上だと言うことも 『ロイドくんってば色恋沙汰に疎いなー』 と
 常日頃からかわれまくっているのだから嫌と言うほど理解している
 でも ―― それでも
 彼の過去の傷に触れてしまって
 ああ、だから自分のこと大事にしないのか…とわかってしまって
 ほんとうは怖がりなのだと知ってしまった
 ないがしろにすれば、人並み以上にしょぼしょぼ凹むし
 構えば嬉しそうに目を細めて、嘘の笑顔じゃない、ほんとうの笑顔を
 ようやく見せてくれるようになったのだ
 もう傷付けるものか、誰にも傷付けさせたりもするものか

 お前が自分のこと、大事にしないから

 「…俺が大事にしたいんだ」

 お前から目を離したくないよ、ゼロス


end



ゼロスはフラフラ居なくなるし傷付いても表に出さないので
ちゃんと見ていないと危なっかしい
ロイドくんはいつもハラハラどきどきってお話でした



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