でも、俺のシアワセはもうこの世界から消えてしまった。
だからこそ、もうひとつの世界で、俺のシアワセを凝縮して存在していた、舞耶姉と栄吉とリサと淳が笑顔で在れば良いなと思う。
そして、俺ひとりの力では、それを確かめることが出来ないので、兄さんに微笑っていてほしいと思うんだ。
「どういう判断基準だ」
だって、俺の兄さんが微笑うと、向こう側の兄さんも笑顔でいてくれるような気がして、向こう側の兄さんは舞耶姉が好きだから、兄さんが微笑っているのは、きっと舞耶姉が笑顔でいるからだろうって思えるんだ。
「滅茶苦茶な上に非常に遠回りだな」
克哉がやれやれと呆れたようにため息をついた。
「僕には分からないが、お前の話を信じるとして、達哉、お前が微笑えば、その向こう側にいる僕とやらも倖せになれると思うぞ」
なんで?
「向こう側とやらの僕がどうかは全く知らないが、今お前の目の前にいる兄さんは、お前の微笑った表情が好きだからだ」
克哉の言葉に、難しい話を聞かされたときの栄吉のように頭がプスプスしてきた。
「だから簡単に言うとだな」
―― 微笑ってごらん、達哉。
鳶色の眸を大きく数回瞬いて、
「兄さんも遠回りだ」
達哉は困ったように、ふわりと微笑った。
[ end ]
カワイイ弟
達哉、僕はな、お前がかわいい。愛しい。そして疎ましい。
お前は、私の大切で、何よりも壊したい弟だよ。
赤い眸の兄が愉悦の笑みを浮かべて、そう紡いだ。
[ end ]