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PERSONA2

思い出には温度がありません

 思い出には触れることができない。温もりもない。

 だから、手放したくなかった。

 だから、帰したくなかった。

 だから、キスをして温もりを確かめた。

 だから、掻き抱いて想いを刻み込んだ。

 いずれ離れ離れになるだろうと、最初からわかっていた。

 でも、この温度のない思い出でさえ、誰にも渡したくなかったんだ。

 この声が届いたら、お前は笑うだろうか。
 なぁ、達哉…。


 [ end ]

罰克哉→罪達哉
これの達哉バージョンも近いうちに書きたいです。
08.03.09 up






オトナになりたい

 炎につつまれ、大切なものを失った。

 多分ふたつ失った。

 それがなんだったのか、決して思い出せないのに、ひどい喪失感。
 胸に大きな空洞でも空いたかのようだった。

 覚えているほうの、失くした大切なものは、
 優しい家族。

 何処かに行ってしまった。

 あの日から少し経って、父さんはおれを見なくなった。

 母さんは壊れ物を扱うようにおれに接するようになった。

 兄さんは、兄さんは……、

 おれを叩いた。

 どうして、どうして、あんな時間まで神社になんかいたんだ。
 どれだけ心配したと思っているんだ、て…。

 じん、と痛む頬に感情がぐちゃぐちゃになる。

 …もういいッ。
 …もういいよ。

 みんな、おれが嫌いになったんだろ。

 おかしい力を持ったおれが!

 叫びたかった。

 でも、うまく声が出ない。

 言葉が喋れない。

 そういえば、病院の先生が、ショックによる一時的な言語障害だと母さんに話していた気がする。

 意味はよくわからなかったけど、おれは言葉もなくしてしまったってことなのか…。

 もともと喋るのは得意じゃないのに最悪だ。

 声にならない言葉のかわりに泣きたくもないのに涙が溢れた。

 止まらなくなる。

 喉から変な息がもれて、何度も何度もしゃくり上げる。

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のおれはとても汚い。

 カッコ悪い。

 背中も痛い。

 痛くて痛くてたまらない。

 も、いやだ……。

「ひ、……くっ、ッ……」

 泣きやまないおれを、兄さんがじっと見ている。

 もう見ないでほしい。

 ほっておいてほしい。

 おれのことなんか…、

 絶望を抱えて、そう思った。

 その瞬間 ――

「達哉……」

 ぎゅう、と温かなぬくもりに包まれる。

「…もう何処にも行くな」

 耳元で響く声は震えていた。

 それに気付いて、なんでかな…。

 さっきとは違う感情が吹き上がる。

「に……、ちゃ……」

 おれみたいな弟は、きっとめんどくさいだろう。

 バケモノみたいな力を持つおれはいつか兄さんも傷付けるかもしれない、のに…。

 でも、それでも、
 あの日、傷だらけのおれを強く強く抱きしめてくれた、

「…良かった、お前が死ななくて…」

 泣きそうな声で、そう言ってくれた兄さんの想いを、今も覚えている。

 だから、たとえ何も話してくれなくても、
 どれだけ、厳しくされても、
 あんたが変わってしまったのは、

 おれを想う気持ちがそうさせているのだと、

 信じたいと思えるんだ。


 [ end ]

罪克哉←罪達哉
オトナになりたい。走って、飛んで、早く早く、あなたに追いつけるように ――

さいしょは小学生達哉で始まって、途中から、成長した高校生達哉になる独白 (わかりにくいですね…)
達哉は兄さんの厳しさから垣間見える優しさに戸惑っていれば良いと思います。
そして、あちら側から帰還後は、信じたいと思えるようになっていればいいなぁ。
08.02.10 up






魂さえはなさない

 海が呼んでいる。
 いや、そう思いたいだけなのかもしれないけど。


 切り離された青い海を見渡して白い砂浜に立つ。
 となりにいた克哉の側から離れるように達哉は歩き出した。
 距離をとって、くるり、と振り向く。
 つけた足跡を見つめて、

「俺が死んだらここに流して兄さん」

 ぽつり、と零した。

「何故だ?」

 そういう話を表情の伺えない位置からするのは卑怯じゃないか、と克哉は思う。
 理由を問い掛けた。

「…この海じゃないけど……海は俺の大切なひとたちの場所に繋がっているから」

 ―― だからいつか俺は、あいつらの許に、あのひとの許に行きたい

 達哉は懐かしいものでも思い出すかのように、そう言った。

「……そうか」

 海で繋がっている…。
 意味がわからない、とは思う、…が聞かない。
 弟がこういった話をするのは今に始まったことではないからだ。

 克哉も砂浜に足跡をつける。
 そして、達哉の側に。
 俯いている顔を無理やりあげさせる。
 長い睫毛が縁取る鳶色の眸を覗き込み、

「兄さ、……んっ、……」

 口付けた。

「ふ、……ぁ…」

 達哉の口腔を舐め尽くして解放する。
 ぼう、と焦点の合わない、力の抜けた体を抱く。

「すまないな達哉」

 耳元で囁く。

「その願いは叶えてやれない」

 ―― 僕はお前を手放す気がないのでな

「……ケチだ」
「ケチで結構だ」
「……いじわる」
「なんだ今頃気付いたのか?」

 拗ねたような声音に、間髪入れず返してやる。
 まさに、ああ言えばこう言う状態だ。
 達哉は小さく微笑った。

「……ううん、知ってた」

 知ってて、言ってみた。

 ―― ありがと、兄さん…

 海からはもういつものさざ波しか聞こえなかった。


 [ end ]

罪克哉×罪達哉
みんなのところに行きたいタッちゃん。でも兄さんに離さないでいてほしい達哉。
この二人に限らずですが、ペル2のキャラは海 (とか夏) に絡めた話が書きたくなります。
08.01.19 up