もっと自分のために生きてほしい
ダンジョン探索中の彼はよく疲れている。
原因はひとりで頑張りすぎなんだと思う。
そういう仲間思いなところも勿論だいすきなわけだし、
カッコいいと思うんだけど、やっぱり心配だってする。
「タッちゃん疲れてねぇ?」
「?」
「いや、絶対疲れてる筈だ。疲れてるよな!」
だってずっと前線で戦ってんだし!(そりゃタッちゃんの武器は刀だし、特性ゆえ仕方ないけど)
問えば高確率で 「いや、別に…」 とか 「そんなに…」 とか返って来るので、
そうならないように先手を打つ。ずるい質問を投げ掛けた。
すると鳶色の瞳がキョトンと瞬いて、
「……そんな風に見えるのか?」
端正な眉根が困ったように寄せられる。
「いや、ぜんっぜん見えねえ!」
「…………は?」
オレは胸を張って応えて、タッちゃんの頭上には沢山のハテナが舞いだした。
「見えねェけど、オレはタッちゃんが無茶すんの嫌だから休憩!」
ずんずかと前を進む舞耶ネェと、後方で火花を散らしているギンコと淳にも休憩の旨を告げて、オレたちは暗くてちょっと埃っぽいダンジョンの床に各々腰をおろしていた。
「……栄吉、強引だな」
舞耶ネェからチューインソウルを受け取ったタッちゃんが俺の元にやってくる。隣にストンと何時もの体育座り。
「てかタッちゃんはSP高いけど、あんなにばかばか回復魔法連発しちゃダメだって」
「ああ」
「もちろん心配してくれんのはスゲー嬉しいんだぜ」
「……うん」
「でも、それでタッちゃんがさ…」
「…なぁ栄吉」
「へっ、なに?」
「お前ここ怪我してる」
うっかり説教じみた注意をしていれば、頷いた端からオレの頬の掠り傷なんかにディアをかける。
「だから、タッちゃんっ!」
「いや、ディアだし。……良いだろ」
SPほとんど使わないし。どうして怒るんだ、と首を傾げられて、
「じゃあ、自分の怪我にも頓着してくれよ!」
先程言いたかった、オレの掠り傷よりも深く傷付いている左手を引き寄せた。
「…………あ」
「…………まさかマジで素で気付いてなかった?」
「…………そういえば、柄を握り直す度に痛かったような気もする」
達哉はもしかして (シツレーだけど) 舞耶ネェ以上のボケかもしれない。
「……オレは回復魔法使えねェから、達哉が怪我すんのやなんだよ」
最近では魔法に頼りっきりで、あまりお世話になってなかった傷薬を達哉の傷口にぐりぐりと塗ったくっていく。
「…ちょ、栄吉っ、やめ。痛い…」
ちょっと乱暴にしたせいか、流石に逃げようとする達哉をギュ…っと抱き込んだ。
「えい、きち…?」
「もっと、自分のことも大事にしてくれよ…」
耳元で切実に訴えると、栗色の髪がピクリと揺れた。
「……俺のことは栄吉が大事にしてくれるから、…良いよ」
そうして、ふわりと綺麗に微笑って、とんでもなくずるい言葉。
「タッちゃんっ!」
「ほら、もう行くぞ」
クスクスと微笑う達哉は、腹が立つくらい余裕たっぷりのご様子だった。
「これ、ありがとうな…」
でもオレが手当てをした左手を愛しそうに撫でる姿を見ると、もう何も言えなくなって……。
「うーあーっ!」
セットとした髪が乱れるのも構わずに、グシャグシャと頭を掻く。
先に進もうとする強くてやさしい背中を、もう一度きつく抱きしめた。
[ end ]
栄吉×達哉
もっと自分のために生きてほしい。告げたら、きみは 「そうしてる」 と微笑うだろうけど ――
達哉は自分のために生きてると思うけど、それが他者にどう映るかは別問題かなと思います。
08.12.30 up