しとしと雨音
突然泣き出した空に、パーティメンバーは顔を見合わせ、青褪めた。
「ケッヘイ!やだやだ!サイアクだよ〜」
「まぁまぁ、リサ、落ち着いて。とりあえずこれ使って」
舞耶から優しい香りのするふわふわのバスタオルを受け取り、いちばん大騒ぎしていたリサはようやく文句と涙目を引っ込めた。
「ったくギンコはうるせーな」
「何よー!アンタだって化粧落ちて困るでしょーが!」
「あいにくボクの化粧は水ごときじゃ崩れないね!」
「げぇ。どんだけ高いの使ってんのよ…」
二人の会話に耳を傾けて、でも雨にいち早く気付いたのも真っ先に舞耶のマンションに駆け込んだのも栄吉だった気がする、と髪の先から落ちる滴をぼんやり見つめながら達哉は思った。
「たまたまとは言え港南区に居たのがせめてもの救いよね〜。あ、リサ、シャワー使って良いよ」
「ほんと〜?舞耶ちゃんありがとう!」
わーい、と脱衣所に向かうリサを見送って、舞耶は達哉と栄吉を振り向く。
「達哉クンたちはどうするー?」
リサのあとにお風呂使う? と首を傾げる舞耶に、ふるふると首を振る。
「いやいや、舞耶ネェが使えって」
レディなんだからさ、と栄吉が自分の気持ちを代弁してくれて、同意を示すためコクンと頷いた。
「でも風邪引いちゃうぞ?」
あ、私は丈夫だから風邪引かないよ、と付け加えて胸を張る舞耶に、たしかに舞耶姉相手じゃウイルスのほうが逃げ出しそうだ、と軽く微笑って、
「俺たちは近くの銭湯にでも行く」
「おお、たっちゃんナイス!ミッシェル様も異議なし!」
尚も心配する舞耶を宥めて、傘だけ拝借することになった。
「…なんつーかさ。可愛い傘だな」
オレらには似合わねーと笑う栄吉に、
「まぁ舞耶姉のだから」
舞耶のルームメイトも女性だから仕方ないことだろうと思った。
先程と違って弱まった雨音は、しとしと、と静かに世界を包んでいる。
静かだな、と思った。いつも賑やかな栄吉もリサがいないとけっこう大人しいものだ。二人揃うと、ゆきのが止めるまで (舞耶はにこにこと楽しそうに見守っているだけ) あのど突き合い漫才のようなじゃれ合いがノンストップなのだ。
視線を横に走らせると、栄吉はやっぱり傘の柄が気になるのかやたら上ばかり見ていた。
雨に濡れたせいで前髪が下りていて、見慣れない雰囲気に一瞬戸惑う。
「んぁ?」
すると達哉の熱視線に気付いたのか榛色の眸が不思議そうにこちらを見た。
「どうかした、たっちゃん?」
「え、ああ…」
返答に困ってしまい沈黙が流れる。
「もしかして見惚れちゃった?」
ボクがあんまりいい男だからって惚れるなよ〜! と調子に乗りまくる栄吉のスネを蹴って、
「いてっ!そこはマジ痛いって!」
涙目で訴える姿に声をたてて笑った。
「調子に乗るからだ。ばーか」
乱暴な言葉とは裏腹に、ほんのり微笑を織り交ぜた表情と声はとても柔らかくて。
むしろ栄吉のほうが達哉に見惚れていた。
「…たっちゃんってさ」
「んー」
「いろいろ反則だよな」
触れるとわかる見た目よりも細い肩を引き寄せて、澄んだ鳶色の眸に吸い込まれるように、顔を寄せ、くちづけた。
達哉の手からするり、と傘が落ちたことに気付いて、自分の傘をそっと傾ける。
傘に隠れて、触れ合う吐息の甘さに、くらりとして。
「反則なのはお前だ」
真っ赤になりながらもまだそんな口をきく達哉の唇をもう一度強く貪ってやった。
今なら突然の雨もなかなか悪くないと思う。
[ end ]
栄吉×達哉
なんかお熱い二人になってしまいました。
や、栄達の二人はけっこう無意識にばかっぷるになりそうかなーて気もします。
しかし淳君加入後っぽいつもりで書いていたのに彼の出番が (あわわわ)
07.09.08 up