救いなんだと君は知らない
柔らかに射すのは太陽の光
まどろみの中 ―― 幼い頃の夢を見る。
在りのままの自分でいられる時間。
掛け替えのない思い出。
でも栄吉はいつも最後尾で皆の背中を追い掛けている。
かけっこなんて大の苦手だ。
皆になかなか追い着けなくて、情けないことに涙と鼻水が出そうになる。
「み、みんなっ 待ってよぉ…」
こんな声では届かない。ホントはわかっている。
でもあの頃の栄吉にはその声を出すのも相当の勇気を振り絞らないといけなかったのだ。
遠くなる3つの背中に見る見るうちに滲んでいく視界。
孤独と焦燥が込み上げて来て、
―― もうこのまま立ち止まってしまいたい
諦めが胸中を支配する。
「栄吉ー」
暗い淵に思考が捕らわれ掛ける。
しかし堕ちる寸前に必ず赤いお面の彼が栄吉を呼ぶ。引き止める。
後ろを振り返ってくれるのはいつもたっちゃんだった。
たたたっと軽やかに栄吉の元に戻って来ては、
「ほら」
その手で栄吉の手を引いてくれる。
達哉は真夏の眩しい太陽の光を背負って、優しく手を差し伸べる。
その姿を双眸に映す度に栄吉は思うのだ。
「…ねぇ、たっちゃん」
「何?」
「たっちゃんってさ。いつも太陽みたいだ!」
想いを伝えることは自己主張するってことだからあまり得意じゃないけれど
一生懸命心からそう告げてみる。
「…ばーか。早く行こ」
達哉は赤いお面を少しずらして、こそばゆそうに微笑み返してくれた。
その頬は暑さのせいだけではない朱色に染まっていて、
いつもカッコいい達哉がなんだか可愛く見えた。
あれから辛い辛い別離を経て10年の時が流れた。
達哉の家に来訪して、バンドのことや他愛も無い話をたくさんして、
居心地の良い空気に気付けばまどろんでいた。
栄吉は、ころん、と体を仰向けにする。
膝枕なんて俺らラブラブじゃん、と沸いたことを考えながら
優しい眼差しでこちらを見ている彼を見上げる。
やっと起きた、と苦笑しながら青い髪をくすぐる達哉。
「…なぁ、たっちゃん」
「ん?」
「俺、懐かしい夢見た」
その時間が何物にも替えられなかった。
大切だった。
そんなせつない夢を見ていた。
「仮面党の夢か?」
問い掛ける達哉に頷いて起き上がる。
背丈のわりに細い腰に腕を回し正面から抱きしめた。
「んー。仮面党の、つーかたっちゃんは昔っからカッコいいけどやっぱ可愛いって夢だったぜ」
その肩に額を預けて、栄吉は答える。
達哉はきょとん、と鳶色の眸を瞬くばかりだ。
達哉が呆けたままの隙に存外白い首筋にくちづける。
「あっ、 …っ…」
慌てて身を退こうとするのを制して、
「やっぱたっちゃんは可愛いよ」
あとエロい。
くすくす笑いながら吐息と共に耳元で囁いてやった。
「…っ ばーか。何言ってんだ」
赤くなる達哉と昔から変わらないその返答が堪らなく愛しい。
栄吉はもう一度達哉を抱きしめた。
「たっちゃんはあの頃から俺の太陽」
今も昔も変わらず本当に心からそう思っている。
―― それはきっとこれからも変わることのない真実
[ end ]
栄吉×達哉
さいきん栄達フィーバー中です (淋しいことにひとりでだけど…)
膝枕ラブなのでたっちゃんにやって貰いました。
まぁ多分栄吉が勝手にたっちゃんの膝に転がって最初のうちは邪魔って落とされてたんだけど
栄吉が完璧に寝入ってからはしょーがねぇなぁ、って膝枕してあげるたっちんとか本気でMOE
07.05.07 up
耐えきれないのは醜い熱情
栄吉!
「たっちゃん!」
兄さんとうららさんのシャドウが待ち構えている部屋でお前が叫ぶ。
だめ。駄目だ。思い出すな。思い出しちゃいけない。
そんな必死に懐かしい呼び名を紡がないでくれ。
心の奥の奥に封じ込めて、固く蓋をしていた筈の感情が溢れ出す。
なぁ栄吉。お前が無邪気に呼んでくれるその愛称が俺は結構気に入ってたんだ。
嬉しいなんて一瞬でも思っちゃいけないって
そんな資格ありはしないって、
ずっと思って抑えていたのに ――
でも弱くてずるい俺の心は歓喜してる。
勝手だ。自分自身に吐き気がする。
栄吉ごめん。ごめんな…。
せっかくほんとうに、こちらの俺じゃない俺の名前を呼んでくれるお前に逢えたのに、
涙で滲んだ視界の俺にはお前の顔がよく見えないよ…。
[ end ]
栄吉←達哉 (っぽい?)
罰のモナドの裁きの間のお二人です。あのシーン好きなんですよね。
なんで俺に言わねぇ!って怒る栄吉も好きです。ラブ。
その後の 「あんな辛い思い…思い出すことなかったのに」 のたっちゃんも好き。
相手が大事だから想っているからこそしていることだと互いに痛いほどわかっているから
余計に辛いんだろうなあ、って思うのです。
07.04.27 up
叶えたい。でもとても難しい
周りをふと見回すと、
前にはてくてくと先頭をきって進むタッちゃんの背中が見えて、
隣りではぎゃあぎゃあとかしましいギンコが地団駄踏んでて、
後ろには俺らの喧嘩をなんでか楽しそうに観戦する舞耶ネェと戸惑い勝ちに見守る淳がいる
きっといつか終わるこの瞬間を、
ずっとずっとこれからもって
そんな風に思う気持ちが止めらんねぇや
[ end ]
罪栄吉
予感ってあったのかなぁ、とか思いながら書いてみました。
ずっと一緒に、ってとても難しいことだと思うのです。
で、全然関係ないですが最初のころ栄吉のことは絶対ホモ視点で見ない!と誓った筈なのに
今では栄達が克達の次に好きだと思ったりする (うわぁ)
07.03.05 up