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BREAHT OF FIRE X

 このままおれは死ぬのだろう、と思っていた。

 しかし沈んでいた意識が浮上する。

「リュウー!」

 君の幼い聲が聴こえる。

 おれの名前を呼んだ。

 漆黒の瞳から数的の涙が零れた。

 ああ、ニーナが泣いている。

 そう感じた瞬間 ―― 視界に広大な青が広がった。



 生きている?



 先の戦いで確かにおれの命は燃え尽きたと思っていたのに、

 パタパタという足音に、数回瞳を瞬く。

 視線を動かせば、風になびく黄緑の髪と、きらきらと煌く朱色の羽根と、透き通った真っ白なニーナの服が見えた。

 グッと手に力を込めると、血が巡る。

 手摺りに乗り出しているニーナに手をかざした。

「…泣き過ぎだよ、ニーナ」

 闇の淵から光の世界に戻ってきたおれを迎えてくれたのは

 青く広い澄み切った空と、その煌きにも負けない君の笑顔だった。


 [ end ]
リュウ→ニーナ
EDでのリュウの心境ちっくにどうぞ。ニーナの涙と、笑顔が、凄く綺麗だったで書いてみました。
04.09.13 up





ためらい

 おれの手は真っ赤だ。
 ディクの血…。他人の血…。そして自分の血に塗れている。
 こんな手で触れたらきっと君が穢れてしまう。



 リュウは樹の下の木陰に寝転がっていた。目を閉じて、浅い眠りの世界と、現実の世界を行き来する。
 何かが光を遮ったことに気付いて、瞳を開けると、ニーナのマスカット色の髪が風をうけて揺れている。
 じっとしているのに髪が揺れるなんて、少し前までの彼等の世界では考えられないことだった。
 外の世界は何もかもが新鮮で、あり得ない事だらけだ。
 陽が昇る。風がそよそよと頬を撫でる。鳥が空に羽ばたいて行く。
 それらを映して、漆黒の双眸が瞬き、嬉しそうにきらきらと煌く。
 ニーナは何を見ても何を知っても何に触れ合っても嬉しそうで倖せそうで……。
 そんな彼女を見ていると、リュウは泣きたいような気持ちになった。
 そして彼女の傍にいると時折忘れてしまいそうになった。

 ―― 自分たちが何を捨てて此処に辿り着いたのか…。

 後悔なんてしていない。でも忘れるワケにはいかない。忘れられるワケも無いのだが…。
 リュウは手のひらをかざした。

 ―― おれの手は血に塗れ過ぎている。

「ニーナ」

 リュウは顔を覗き込んでいるニーナの髪にそっと触れた。
 しかし次の瞬間、ハッとして手を引っ込める。…しまった、と心の中で呟く。
 こんな手で彼女に触れてはいけない気がした。
 ニーナは驚いたような顔をして、リュウの手を見つめた。

「あ、ゴメン……。なんか変なことしたね」

 驚かせてしまったことを謝罪して、苦笑する。ニーナは顔を上げて ‘気にしてない’ と、リュウに微笑み掛けた。
 そして彼の手を握った。

「え……?」

 驚いて手を引っ込めようとするリュウに反して、ニーナは手を離さない。
 温かい体温と柔らかい感触が広がる。
 手から視線を動かし、顔を上げる。
 ニーナはただ微笑んでいた。

「おれの手は穢いよ……」

 ぽつりと呟くリュウにニーナはふるふると首を振った。
 そしてリュウの視界にマスカット色の世界が広がった。
 リュウはぽかんとしてしまって、ニーナに抱き付かれたのだと、少しの間理解できなかった。

(ねえ、リュウ。あなたの手はわたしをまもってくれた。…とても優しい手)

 ニーナの想いは声に生らない。
 だけどリュウには何故か ‘優しい手’ と、ニーナの声が聞こえた気がした。
 リュウは空いているほうの手でためらいがちにニーナの背を抱き返した。彼女の体はリュウが触れても何も変わらない。
 白磁のような肌と優しい笑顔にリュウは心の底から安堵した。


 [ end ]
リュウ×ニーナ
声にならない想いを心で感じる。通じ合う。
リュウとニーナはいつでも想い合いラブラブです。
05.07.25 up






ぬくもり

 いつも
 隣り合わせにあるものは冷たい死だった

 アジーンの力を借りる度に
 体は悲鳴を上げ、心臓ははちきれそうに早鐘を打った
 痛みと熱さと動悸は次第に激しくなり、躰を蝕む

 一度眠りに堕ちれば、もう二度と目覚められないかもしれない

 そんな不安に襲われることもあった

 でも
 そんな考えに飲み込まれそうになる度に、
 その暗い淵からおれを救い上げるぬくもりがあった

 ふっと瞼を持ち上げれば、

「……ニーナ?」

 至近距離におれの顔を覗き込んでいるニーナが居る

 手を伸ばせば、
 細い、そして白い手がおれの手をぎゅっと握り返してくれる

 そのとき、ようやく気付いた

 いつも
 おれの隣り合わせにあったものは
 ニーナのぬくもり

 おれを、
 きっと美しいだろう遠い遠いあの空へ
 奮い立たせる存在

 隣り合わせにあるものは
 冷たい死なんかじゃなかった


 [ end ]
リュウ×ニーナ
ニーナを助けると決めてからどんなときでも空を見ていたリュウですが、
不安が無いわけじゃなくって、ニーナが居るからリュウはその不安に打ち勝っていたのだろうなぁ、と思います。
リュウはニーナの命を救って、ニーナはリュウの心を救ったんだと思うのです。
06.10.25 up