堪えきれず、零れたもの
ボクは元からカラッポだ。
中身など、何も伴なわない。
唯、時間の流れに引き摺られ、
愚かしい生を紡いでいる。
強いてあげるなら
憎しみは、憎しみなら
ボクの中にも存在していただろう。
「死んだの…?」
小さな彼女の亡骸が安置されている部屋で、
ポツリと呟く。
血の気の失せた白い頬を見つめ、そっと触れる。
ひんやり、血の通わない冷たさがした。
―― …シンク、シンク。アリエッタね、アニスと戦うの…。
彼女の行動も想いも
総ては、導師のため。
イオン様、イオン様とあいつに固執するアリエッタは、
いつもひどくボクの心をかき乱す。
アリエッタの口からイオン様、と言う単語が紡がれるたび、
苛々した。
ねえ、最期に誰のこと考えた?
返事など、返ってくる筈も無い。
空 (くう) に響き、消えていく言葉。
ま、君のことだから
返事なんてなくてもわかるけど…。
「どうせ、アイツのことだろう…」
アリエッタの冷たい体を抱きしめながら
ふと、己の頬にも冷たいものが伝っていることに気付いた。
なに、これ…?
次から次へと溢れて
パタ、パタパタ、とアリエッタに落ちていく雫。
「……なに、これ…?」
零れ落ちる液体に対してか、
それとも胸中を支配する、いつもとは違う喪失感に対してか、
ボクは心の中で呟いた言葉を、声に紡ぎ出し、呆然とした。
憎しみ以外の、芽生え掛けた感情。
しかしそれを与えてくれたアリエッタは、
…もう居ない。
そう思った瞬間、
やはり世界は絶望に塗り潰されている、と思った。
「…きっ、消えろ…ッ!」
心と体がバラバラになりそうで、
感情を振り払うように、金切り声を上げた。
すると声が響き渡り、消えていくように、
芽生えかけていた感情もいとも簡単に霧散した。
荒い息を整え、
長い間、抱きしめていたアリエッタを下ろす。
「…もう行くよ」
もう一度アリエッタの白い頬を撫で、
「きっとすぐボクもそっちに行くから」
そう伝えて、部屋を後にした瞬間から
ボクの心は、前とおんなじ
憎しみという感情だけが息衝いていた。
end
ええと、アリエッタの前だとシンクは感情を抑えられない、と良いな、と思います。
でも、アリエッタの前じゃなくなると、いつもの彼に戻ると言うか。
感情とかまるで無かったかのように虚無なシンクに戻ってしまうと言うか。
妄想です!妄想、捏造ばんざーい!
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