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うんとたくさんの

 傍にいたい。
 そして隣にいたい。
 いさせて欲しい。
 おれに自由をくれたあなたがだいすきだよ。



 +    +    +    +

 突然ですが、天から問い掛け。

 ―― 自身がいちばん居たい、幸福な場所を述べよ。

 と降ってきました。

 えー、そうだなぁ。
 てんとう虫クンの中、おれは普段からあまり回転の速くない脳ミソをうーんうーんと働かせてみる。

「蛮ちゃんの頭の上とか背中とかー」
「それはタレたとき限定だろうがッ!」

 指折り数えていたら、ポカッと頭を叩かれた。

「もうッ、いったいよぉー!」

 蛮ちゃんはすぐ手が出るんだからなぁ…。
 心で呟きながら、後頭部を押さえて涙目で訴えるも、オメーの頭が軽すぎて叩きやすいのがいけねェ、とかなんとかスゴく失礼なことを言われた。

「むー」

 頬っぺたを膨らませると、突っつかれて空気を抜くように潰される。

「…で、何処がいちばん良いんだよ?」

 そして冒頭の質問の回答思案に戻る。

「あっ、うんとね。となりっ」

 おれは両手のひらをパチンと合わせて 『やっぱりとなりがいちばん良いよね!』 と蛮ちゃんに伝えた。

「…へぇ?」

 サングラス越しに夜色の瞳が細められる。
 優しい光を放つそれに胸が忙しなく高鳴り出して、ちょっと苦しい。

「…蛮ちゃんはどこが良い?」
「ここ」

 ドキドキしながら聞いたら、コンマ一秒って感じの即答が返された。

「ここ?」
「ああ。ここ以外に居てぇ場所なんかねェな」

 言葉とともに肩を引き寄せられて、蛮ちゃんにグッと近付く。

「ぎーんじ」

 甘く呼ばれると、腰にギアが当たるのが気にならなくなるから、すっごく不思議だ。
 てかその呼び方は蛮ちゃん反則…!

「どうした?」
「な、何がッ?」
「……いや、たまんねぇってツラしてるぜ?」
「…、んなこと、ないっ」

 反論する声はちょっと掠れてしまった。
 ああ、どうしよ。
 絶対まずいって。
 蛮ちゃんが艶々に微笑ってる。

「まァ、前でも良いんだけどよ」
「うわぁっ?!」

 そうして言われるやいな、膝裏に手を差し入れられて、お姫サマ抱っこで運転席に移動させられた。
 もちろん運転席には蛮ちゃんがいるわけだから、おれは彼の膝を跨ぐように座るはめになる。
 蛮ちゃんの言葉通り “前” に来ちゃったわけである。

「…となりが良いって言ったのに〜〜っっ」

 せっかく良い話で終わりそうだったのに、なんで蛮ちゃんはこうなのかなぁ。

「イヤじゃねーくせに」
「…うぁ…っ!」

 でも耳朶を食べられながら、吐息といっしょに吹き込まれた言葉には反論できなかった。

「ばん、ちゃ…ん…」

 意識せずに蕩けた声が出て、背中にギュ…っと腕を回す。

「永遠にここにいろ、銀次」
「…うんっ!」

 そして、甘く低く囁かれる言葉には胸がいっぱいになってどうしようもないよ。
 おれは力いっぱい頷きながら、やっぱりここがいちばん幸福な場所だと確信していた。



 (その腕の中には、うんとたくさんのシアワセが満ちている)


 [ end ]
蛮×銀次
銀ちゃんの口調がおんにゃのこみたくなった!(笑)
書いててデレデレしちゃっていけません。銀ちゃんかあいいなぁ!!
08.12.24 up






アンジェリカ

 銀次はいつも甘っちょろい。
 それでも、他者を救う。
 砂糖菓子のような甘さも優しさもあいつの武器だし、俺もきっと、多分に救われている。



「蛮ちゃんっ」
「あン?」
「えへへっ、あんね、だいすきー!」

 銀次のそれはいつも突然かつ唐突。
 常なのでもう慣れっこだが、脈絡ねェなァ、と笑ってやる。
 銀次は俺の発言を気に留めず、
 満開の笑顔を向けて、ぎゅうぎゅうと抱き付いてきた。

「いっつも思うから脈絡なんて要らないのですっ!」

 言いながら、しゅぴっと右手を挙げて一瞬タレる。
 相も変わらず 『すき』 のバーゲンセールだ。
 (勿論口に出せば 『蛮ちゃんにだけだよ、安くないよっ!!』 と可愛いことを言いながら、盛大に拗ねるだろうから、あくまで心で思うだけに留める)
 ったくこいつホントに同い年なのかよ。ガキくせーな、と思う反面、日溜まりの匂いがする子供のような体温が心地好い。
 ギュ…っと腕の中に閉じ込めて。
 他者のぬくもりなんて、世界で一番嫌悪してた筈だったのによ。
 人は変わりゆくものと言えども、一人の人間に逢っただけでこんなにも変わっちまうとはな。

 咥えた煙草に火を点けぬまま、金髪のつむじを見下ろした。
 銀次は俺の胸元に頬を引っ付けて、ひたすらニコニコとしている。

「あっ!」

 けれど、それがハッとしたように曇って。
 本当にころころ変わる表情だな、と思う。
 見ていて飽きない。

「蛮ちゃん、オレ重たい?」

 キョトンと首を傾げながら問われて、

「当たり前だろ」
「あぅっ!」

 オメーのほうが重いんだしよ、とでこピンを一発。

 色気より食い気。花より団子 (いや、花=女も好きなやつだけどよ) の銀次は、俺が甘やかしすぎたのも加わり、無限城を出た当初より、なんつーか頬っぺたがふっくらとしてきた気がする。
 ふにふにとした手触りのそれを、むにっ、と引っ張ってやった。

「んあああ〜っ、蛮ちゃん何ーっ?」

 またタレてビチビチとのたうつので、

「タダで俺サマの上に乗れると思うなよ銀次ィ?」

 口角をつり上げる。

「蛮ちゃんはお高そうだね!」

 銀次は俺の言葉を真に受けて、どうしようガビョン!! と上体を起こそうとした。
 それを、まぁ待て待て、と捕まえる。

「金払えや良いんだよ」
「えっ? ……ぶふっ!」

 ……って色気のねぇ声だなオイ。

「んっ、ンぅぅーっ、……ぷはっ!」

 くちびるを塞いで舐めて貪って。
 最後に濡れた音をたてて離す。
 銀次は顔を真っ赤にして、金魚みてぇに口をパクパクさせていた。

「へっ、毎度あり」
「もぉ、蛮ちゃんっ!」

 不意打ちは止めてよー、と噛み付きながら、嬉しそうに抱き付いてくるのを、言ってることとやってることが噛み合ってねェっての、と笑った。

「…ねー、蛮ちゃん」

 そして、もじもじしてたかと思ったら、耳元でそっと囁かれる。

 ―― もっと、弾んでもいいよ?

「………」

 不覚にも一瞬思考が停止した。
 ヤベェ、やられた。
 銀次のクセに。

「チップってか?」
「うん、蛮ちゃんにだけ…」

 先程の色気のなさは何処に行っちまったのか、琥珀色の瞳をトロンとさせて俺を誘う銀次はかなりキた。

「…ね、欲しい?」
「ああ、くれよ」

 つーかむしろ寄越せ、と金糸に手をくぐらせ引き寄せれば、

「蛮ちゃん、えっちだぁ…」

 銀次は恥ずかしそうにしながらも、愛らしく微笑った。


 [ end ]
蛮×銀次
アンジェリカ 【 天使 or ふきの砂糖菓子 】
銀ちゃん砂糖菓子のように甘いし天使みたい!! という妄想から、発展しました。
なんだろう、このバカップル、恥ずかしい…!!!(笑)
銀ちゃんを甘やかす蛮ちゃんがすきです。
08.12.26 up