シニアで本格的に野球に打ち込みだしたオレが初めて組んだ投手は元希さんだった。
顔だけを見れば女性と見間違われるくらいキレイなひと。美形なんだ。
でも、その実ビックリするくらいの俺サマで、口が悪くて、手も早い。
ノーコンなのが玉に瑕で (いや、正確にはかなり瑕って感じかもしれない) 時にはそれさえもかき消してしまうほど魅力的な速球を放つ人だった。
あの頃捕れたり捕れなかったりだった元希さんの全力投球。今はもう、その前に座ることさえ叶わない。
でも、いつかきっとまた、あなたの前にオレは座る。
オレはそのために、時間を越えて、未来のあなたの世界にやって来た。
◆ ◇ ◆
―― ピピピピッ。
あ、目覚まし時計が鳴ってる。
「…るせっ!」
あ、元希さんキレてる。
昨日遅くまで格ゲーなんかやるからですよ。
半分寝惚けながらそう思い、それに付き合わされたオレも瞼が上がらない。やばい。眠たい。
ばちんって乱暴に目覚まし時計を止める音が響いた。
耳障りな音が止んで静かになったってホッとするけど、目覚まし時計が鳴ったってことは、もう起きなきゃならない時間帯ってことだ。
ギッとベッドが軋んで、背中のほうでごそごそと元希さんが動く気配を感じる。
「タカヤー」
オレをすっぽり包み込む腕がぎゅむっと絡んできた。
「う……」
だめだ。やっぱり瞼が開かない。弱った。
「たかやー、起きろー」
朝だぞ〜。早く起きないとチューするぞ、とわけの分からない脅し文句 (なのか?) を元希さんは耳元で喚く。
「ん、うー…」
それでも目が開かなくて、幼い子供がむずがるような声を上げていると、
―― ちゅっ。
ホントにキスされてしまった。
元希さんの柔らかい唇がオレの口に当たっている。
上唇をぺろっと舐めて口を開けるように促された。
えっと、これは開けるべきなんだろうか?
なんか開けると、美味しい展開になりそうな気がするんだけど、どうしよう…。
「ふ、…タカヤ…」
悶々と悩んでると、元希さんの舌先がオレの唇をそっと割った。
わわっ、元希さん。
「む、んんっ」
「た、かぁ…」
舌を絡め取られてくちゅくちゅと吸われる。身体中から力が抜けていく。頭も起き抜けとは関係ない理由でぼーとしてきた。
「ふぁ…もとき、さっ」
これ以上されると、本気でやばいことになる。
オレは気合いで瞼をこじ開け、元希さんの胸を押しやった。
途切れる互いの唾液と、ふ、と吐息を漏らす元希さんにドキリ。
オレよりも赤い顔で情欲に濡れた瞳をしている元希さんの下から慌てて脱出した。
「タカヤ、やぁだ」
すると途端に、元希さんはどっちが歳上なのか分からない駄々っ子ぷりを発揮して、オレを再び布団に引き摺り込む。
「だ、ダメです!」
力では敵わないと知りながら、オレはじたばた。
「なんで?」
元希さんがオレのパジャマのボタンを一つずつ外しながら、魅惑的な微笑のオプション付きでニッコリしている。
「あ、ああ、朝だから!」
「朝だから、余計にえっちなことしたいだろ…? な、タカヤ」
元希さんの誘惑にオレの理性と欲望がせめぎ合う。やばい。やば過ぎる。クラクラする。
どうしてどうして、元希さんはいつもこうなんだろう?
う、嬉しいんだけど、毎朝困る…。
「…ッ、そんなとこ揉まないでくださいっ」
そして気付けば、本当に本当にやばいところに (オレの股間に) 元希さんの左手が伸びていた。だ、ダメだって言ってんのにこのひとは!!
「いやだね。タカヤ、えっちなことダイスキだろ?」
嫌いな男なんて居ませんよ! と元希さんの腕の中で、オレはわーわー大騒ぎした。
元希さんはニマニマと大層楽しそうで、ちょっと迂闊にもカワイイと思った (オレは色々とダメかもしれない…)
「こら! 元希! タカ君! ご近所迷惑!」
そして、扉の向こうから届けられた、お姉さんのお叱り声に、ようやくノンストップじゃれ付き合いは終わりを迎える。
元希さんはちぇっ、と小さく舌打ちをしていて、ちょっと不満そうだったけど、自分で元希さんを振り解けないオレは、内心助かったとホッと胸を撫で下ろしていた。
これが榛名家の一日の始まりである ――
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ちったいタカヤとでっかい元希さんシリーズ
初っ端なので全然出せませんでしたが、文化祭のお話です。
08.09.07 up