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OOFURI

 

 元希さん元希さん、とタカヤが頭一つ分低い位置からでっかいタレ目でおれを見上げた。
 なに、どうした? と聞くと、あのっその、とちょっと言いにくそう、つか恥ずかしそうにくちびるをむぐむぐさせる。

「きっ、き、きっ」

 木ぃ?
 園芸の話でもしたいのかタカヤ?

「きっ、キスしたいとかっ、えっちしたいとかっていけないことだと思います、か…!」

 言い切った、とばかりにタカヤが肩で息をする。
 おれは言われた内容に、ぽかん、とお間抜けに大口を開けた。

「元希さん?」

 だ、大丈夫ですか? と心配そうな表情の、タカヤの右の手のひらが、おれの目の前をヒラヒラと舞う。

「…あ、おう」

 ちょっとビックリして、思考がフリーズしちまってた。

「スンマセン…オレが変なこと聞いたから」

 今度はしおしおと不安そうなタカヤ。
 いやいや、ちーがーうーぞっ!
 慌てて、柔らかな頬っぺたをぎゅうぎゅうと両手で包み込んでやった。

「なひゃ、ひょかったれす」

 ……たぶん 『なら、良かったです』 ってタカヤは言ったつもりなんだと思う。
 あと続けて、いひゃいれす、もときひゃん、とも言われた。これはきっと 『痛いです、元希さん』 だな。
 すげぇおれ。プロだけじゃなくてタカヤの通訳になれる (口に出したら、そんな職業ないですから、元希さんはしっかりプロになってください! ってタカヤにおこらえそうだけど)
 つか自分でやっといてなんだが、タカヤの顔が潰れたフグみたいになってんだけど。
 やばい。ちょっと、いや、すっごい面白い。
 けどここで大笑いしたら、タカヤの質問の本題からずれまくるだろうことは必至だった。
 どうしようもなく込み上げる笑いをなんとか堪えて、少し屈む。

「誰としてェの?」

 おでこをコツっんこして、真っ黒な混じりけのない瞳に聞いた。

「…っ、それは…」

 タカヤの顔が茹で蛸みたいに真っ赤っかになる。
 漫画とかなら、ぶしゅーって蒸気も出てるな、きっと。

「…誰としたいンだよ」

 中学で、かわいい女子にでもコクられたんだろうか?
 …あー…、なんか想像して、すんごい嫌だと思った。
 もしおれの予想が当たっていたら、このままタカヤのデコ目掛けて頭突きをかましてしまうかもしれないと思うくらい嫌だった。

「…も、…さん…」
「ア?」

 声がちっちェよ!
 目も耳も歯も良いおれなのに、よく聞こえなかった。

 も一回、タカヤ。
 ちゃんとでかい声でな?

「…だからっ」

 タカヤはおれの要望に答える代わりに、胸元のシャツをぐいーと引っ張った。
 さらにタカヤと顔の距離が近くなる。

「…ん、むっ?」

 あの、て言うか顔が近付いただけじゃなかった。口が当たった。
 タカヤにちゅーされた。

 ………あっ、おれファーストキス!?

 本来なら頭が真っ白になる筈の出来事。
 でも、不思議なことにおれの頭はちゃんと動いてた (変な風にハイになってたのかもだけど)
 授業で勉強しなきゃいけねェときよりいっぱい動いてた。
 たぶん嫌じゃなかったから。

「たかや?」

 ちょん、と触れるだけのキスが終わる。

「元希さんとしたい、です…」

 それってむしろ、したかったんです。で、しちゃったンです、の間違いじゃないか。…ま、良いや。

「タカヤはオレと、キスしたりえっちしたりしたいのか?」
「……そ、です」

 へ〜、ふーん。ほー。
 なんか、今のおれって、緩んだ締まりのない顔してる。

「じゃあ、良いンじゃね?」
「えっ??」

 だっておれたち ‘そーしそーあい’ の両思いみてェだから。そういう者同士なら、きっとして良いことだろ?

「へっ?!」

 胸を張って伝えて、おれからもタカヤのくちびるに自分のくちびるを引っ付けてやった。
 すると今度は、触れるだけじゃない。
 深くチュウチュウされた。されまくった。

「元希さんっ、元希さん!」

 身体もぎゅうっとされて、耳元で元気な声が響く。

「大好きですっ」

 ばぁか。おれのほうがもっともっとダイスキなんだよ!
 センパイに勝とうなんて100年早ェよ。

「ンなことないです。オレのほうが好きです!」
「なに言ってんだよ。オレだっつの」
「いや、オレです」
「オレだっ」
「オレですってば。元希さんしつこいですよ」
「なんだと?!」

 オレだ、オレです、オレ、おれ、オレ! って永遠に終わらないおれおれ詐欺を繰り返しながら、
 いっぱいタカヤとキスをした。

 きっと、あしたもすると思う。
 その次も、そのまた次の日もいっぱいする (で、いつかエロいこともする!)


 [ end ]
ショタカハル
拍手ログ。青少年真只中のショタカヤと、そんなタカヤにデレデレな元希さんが可愛くてしかたない模様。
08.08.11 up