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OOFURI

17p

 その眸から見える世界はどんな色をしているのだろうと思った。


「今日もあっちーなぁ」

 容赦なく照り付ける日差しに思わず練習着の襟を摘む。パタパタとはためかせて少しでも風を送り込もうとした。取り込む風自体が生温いのであまり涼しくないのだが気分の問題である。あーホント夏だよな。わかりきったことをぼやきながら花井は眩しい空を眇めた。

「あ、飛行機雲だー」

 すると同じように空を仰いでいたらしい田島の声が耳に届く。顔をさらに天上に動かした。青い空に白い線がくっきりと描かれている。

「すっげー!はっきり見える〜」

 子供のようにはしゃぎながら小さな体の西浦野球部のヒーローは花井の背に飛び乗った。

「おわっ !? こら!田島!」

 暑ぃし重い!と訴える花井の言葉など何処吹く風の田島は、さらに背中をよじ登り、ほとんど肩車の位置まで来てしまった。お人好しの花井は田島が落っこちないようにと彼の脚を掴んでやる。流石に額には青筋が浮かんでいたが。

「おおー!!」

 怒りに震える花井とは対照的に頭の上の人物から発せられる声は軽い。

「…お、おま えっ…なぁ!」

 人に肩車させておいてなんだその能天気声は!いい加減にしやがれ!と捲くし立てそうになった花井を遮り

「ふわー高いなぁ。広いなぁ…」

 今度は先程よりずっとトーンの落ち着いた声が届いた。まるで試合の時の声のようでふと戸惑いを覚える。

「…どうしたよ?」

 田島の声に合わせて控えめに聞いてしまった花井の顔を覗き込み
 ううん、と首を振り

「なんでもねー」

 ニカッと明るく笑う。西浦高校野球部の、そして花井の追い掛けるヒーロー。

「…そ、そっか?」

 青い空を背負う田島を真っ直ぐ見つめながら、あーそろそろ下りるか、と問い掛ける。さっさと下りろ、と言わなかった花井を田島は意外だと言いたげにキョトンと見つめ返した。

「あれ?さっさと下りたほうが良いんじゃね?」
「…うるせー」

 田島の反応にちょっとムッとした花井は、危ねぇだろう、と言う本音の心配を飲み込んで、その代わりに、やっぱ落とすぞ、と凄む。でも花井は言葉と裏腹に自分の脚を離さない。

「やべー。花井、怖ぇ」

 オレらの主将って優しくね、と密かに誇らしく思いながら言葉に合わせて業とらしく肩を竦めてみせる。田島はもう一度大きく天を仰いだ。


 常の自分より17cm高い場所から見る世界は、空は、宝物みたいに眩しかった。


 [ end ]
花井 + 田島
初ハナタジハナ?わたしはどちらも好きです。
お友達としても良き好敵手としてもカプとしても好きだなぁって思います。
07.07.13 up





手におえない!

 西浦高校硬式野球部のエースは体が小さい。
 けれど食欲のほうは体積と似合わず豪快且つ旺盛だ。早食いプラスよく食べる。
 聞こえよく言えば育ち盛り。聞こえ悪く言えば食い意地が張っている。
 同じく小柄だが野球センス溢るる四番バッターと早弁なんてしょっちゅうだしマネージャーに手作りクッキーを恵んで貰っている光景もよく目にする。
 挙げればキリがない。

 いや、まぁそこまでは良い。そこまでは ――

「ったく…零すなっていつも言ってんだろ」
「う、うんっ、んっ…」
「だから誰も取りゃしねぇよって。落ち着いて食え」
 
 しかしこれは如何なものか。
 甲斐甲斐しく投手の世話を焼く捕手。傍から見れば微笑ましい光景もこいつらがやると洒落にならない。二人の周りにハートが飛んでいるように見えるからだ。

(って今三橋の口の端の米粒食ったぞ阿部が!)

 二人のやり取りを見る花井の背景には雷フラッシュが描かれていた。
 ああ、知らぬは当人たちばかり。
 三橋の口周りを拭いてやっている阿部を視界の端にとらえて、

(なんでこれでデキてないんだよ)

 花井は赤いようで青褪めた顔になる。

「花井、ヘンな顔ー」

 どかっと背中に飛び乗ってきた四番バッターの頭を重いから退け!と叩き
 ホントありえねー。ありえねぇよ!と心の中でごちる。
 このバッテリーを三年間見続けるのか、と田島風にゲンミツにげんなりしていると

「あ、あべくんっ。花井君と田島君」

 三橋がこちらを指差した。
 あァ!てめぇら邪魔すんじゃねぇ、とばかりにこちらを睨み付けて来るタレ目はともかく
 チームメイトに気付いてパッと表情 〈かお〉 を綻ばすピッチャーは愛らしい。
 苦笑いだがハハと笑い返すしかない。

 未だ背中に引っ付いて離れる気配のない田島をずり落ちないよう背負い直して、
 あーせめて出来れば見えないところでやってくんねぇかな。この無自覚バカップルめ、と野球部主将は
 もう一度苦く笑った。


 [ end ]
花井 + 田島 + アベミハ
わたしの中で花井主将はこんなポジのイメージがあります。なんていうかこう西浦の日常風景ちっくに。
07.07.10 up





行け オレら!

 オレらのエースは弱くて卑屈で泣き虫で

 捕手の阿部に怒鳴られては泣き ←かなり怯えて
 捕手の阿部に褒められては泣き ←嬉しさの余りに
 捕手の阿部とキャッチボールしては微笑って ←とっても幸せそうに

 そんなエースの後ろをオレらは力いっぱい精いっぱい守ってみせるぜ!


 [ end ]
にしうらーぜのみんな
最初は田島のモノローグ用に書こうとしていたんですが途中からにしうらーぜに変更。
コミック一巻裏表紙の 「行け、オレら!」 は最高です。大好き!
07.07.05 up