恋 と 変 は 似 す ぎ て い る
三橋はとても変なやつだ。
こっちが普通にしゃべっているのに、
怯えるし、
キョドるし、
どもるし、
何度も何度もごめんなさいと謝るし、
わけの分からない理由で泣き出すし、
だーっ!
うっとうしい。ウゼェ!
と思ったことは実は一度や二度では決してない。
かと思えば、
オレがなんにも思いもしなかったような、
至極当然簡単なことで
微笑うんだ。
いっしょに部室に向かうのを待ってやったり、
弁当のおかずを分けてやったり、
辞書を忘れたのを貸してやったり、
そんなのは普通だ。
オレたちはバッテリーだしチームメイトだし特別なことではない。
でも、三橋は微笑うんだ。
今にも泣き出しそうな表情で、
「あべくん、ありがとぉ」
そう言って、宝物をもらったみたいにあいつは喜ぶ。
そんなとき、胸のあたりが妙にくすぐったくなる。
あったかいよな、こそばゆいような感覚に、らしくもなく顔に血がのぼる。
三橋はスゲェ変なやつだ。
「あべくっ?」
「な、なんだよっ!」
「顔赤い、よ。だいじょうぶ?」
「!」
でも、お前といるときのオレのほうがきっと大概変だと思う。
[ end ]
アベミハ
拍手送信後のお礼画面に載せていた小話でした。ぐるぐるしている阿部さんが好きです。
08.12.18 up
頬 に 手 を 添 え て 、 次 に す る こ と
手をつないで、
キスをして、
離したくちびるの間に銀糸が引いて、
握り締めた手の甲に、ぱたり、と涙が落ちるのだ。
「…三橋」
呼べば、涙は余計に溢れていく。
「オマエ、なんでいつも泣くんだよ」
「ごめっ、なさ…」
慌てて目許をきつく擦る三橋の手をとり、べつに怒ってないけど、と訂正してやる。
べつに怒っているわけではないのだ、ただ、いつもいつも泣かれると嫌なのかと、
不安になる。
「違いくてっ」
三橋は弾かれたように顔を上げ、
「お、オレ、うれしいよ」
拙く、
それでもいつもよりかはしっかりと、
「でもね、いっぱいたくさん、うれしくて、とまんなくなるんだ」
言葉が紡がれる。
いつまで経っても倖せに慣れない三橋の頬を包み込み、
「あのなー、嬉しいときは泣くもんじゃねーだろ」
額を引っ付けあわせて苦笑する。
「嬉しいときは笑えって」
命令のように言ったのは、そうすれば三橋が気兼ねなく微笑えると、さいきん知ったからだ。
「うんっ」
ほにゃ、とゆるい弧を描く口許と、涙に濡れた瞳に、
ちゅっと口付けて、
倖せの数だけ、泣いて、微笑って、オレの傍で ――
強くそう望んだ。
[ end ]
アベミハ
拍手送信後のお礼画面に載せていた小話でした。振りにハマってかなり序盤に書いたものの予感…。
更新日不明 ?
き み の 言 葉 が 無 敵 の 呪 文
出逢ったばかりのひとだった。
きっと名前しか、ううん、名字しか知らなくて。
おれは彼のことを何も知らなくて、
なんで、首を振る投手が嫌いなのかも、
どうして、西浦のような野球部が新設のところに来たのかも、
知らなくて…。
けど、ただひとつ。
『オレはおまえが好きだよ…っ!!』
その一言がおれの心を揺らした。照らした。
ずっと、誰かにマウンドにいて良いんだと言ってほしくて、
ずっと、誰かにおれのことを必要としてほしくて、
でも、誰でもよかったわけじゃないよ。
あのとき、おれの心を揺らしたのは、
涙ぐんでくれたあべくんだから、
だから、あの言葉はずっと、
ずぅっとおれの中の無敵の呪文。
[ end ]
アベミハ
原点に戻ってみました。あのシーンは本当に伝説だなぁと。
わたしが振りを知ったのはあのシーンを抜粋してみたのが切っ掛けです。
08.12.16 up