honey
「 ―― なぁ三橋。キスしよ」
言葉を紡ぐのは苦手だと思う。
耳に届いても心に伝わらないことが多くてもどかしくなるからだ。
とくにオレと三橋の場合は尚のこと。
でも言葉以外に止めどなく溢れていくこの想いを伝える術をオレは知らない。
だから素直に告げる。
三橋のもとからでかい琥珀の眸がさらに大きく見開かれて視線が泳ぎまくったが構わなかった。
「うぁ、で、でもっ…」
あうっ、とか ううっ、とか
そんな言葉にならない声ばかり出す三橋に、なんだよ。嫌なのかよ、と少しカチン。
ムカついた勢いで、どもり声ごと唇を封じてやった。
三橋はまた大きく眸を見開いて、でも観念したのか (いや、ただ硬直して動けなくなっただけかもしれないが)
大人しくオレの腕の中におさまった。
逃がさないよう俯かせないよう顎を捉えて数回啄む。
オレたちのキスはいつも軽く触れ合わせるだけだ。
大事にしてやりたいって気持ちと、三橋がついて来れない予感に、それ以上踏み出せないでいる。
でもオレとしては触れるだけじゃそろそろ満足出来なくなって来ている。
好きだ。お前が好きだ。ピッチャーとしても三橋廉としてもお前はオレの特別だよ。
だからもっともっと近付きたい。
ふと閉じていた眸を開けてみれば至近距離に、ぎゅう、と思いっきり目を瞑っている三橋がいた。
その反応が可愛くて可哀相になっちまう。
あ、眉間にもすっげぇシワ寄ってるし。…やっぱり駄目か。
「んんっ、ぅっ…」
いっぱいいっぱいの三橋を見て、そろそろ解放してやろう、とたしかにそう思った。思った筈だった。
でもやばい。三橋の鼻から抜ける声にかなりキてしまった。
いや、本気でマジでやばい。
欲望に馬鹿正直にふつふつと沸き上がるものが頭の中で点灯する赤いシグナルを頭の片隅に追いやってしまう。
三橋、悪ぃ。…頼むから泣かないでくれよ。
祈るように心の中で先に謝ってから、眸と同じようにきつく噤まれている唇を舌先でつついた。
「ふっ、ぁ……」
まぁ当然だけど三橋は驚く。その証拠に唇が綻んだ。
開いた唇から洩れる小さい喘ぎが堪らくなる。
あーもうお前さ!実は誘ってんのか、と自分に都合のよろしい解釈さえしたくなるほどだ。
でも綻んだ唇はまたすぐ噤まれてしまって、その期待は脆くも崩れ去った。
おまっ…こ、この野郎!泣くぞ。
息継ぎに一旦唇を離す。
「馬鹿…。噛むなよ」
濡れた唇を、ちょんちょん、と指先でなぞる。
かっ、噛んでない、よ、と小さく反論する三橋を、でもここ赤くなってんだろ、と制して、今度は下唇を食んだ。
「ぁ、っ…!」
ビクリと跳ねる肩を抱き込みさらに貪る。
「あ、あべく っ…」
激しく貪りつつもいつもと同じ触れ合わせるだけのキスもする。
大きく喘いで酸素を求める隙を狙って舌先をねじ込んでやった。
「ゃ、 ぅ……ふっ、んんっ…」
鼻を抜ける声がどんどん甘さを帯びていく。
オレの服を掴む三橋の手が震えている。
胸元の服なんかじゃなくて首の後ろに腕を回してくれればもっと密着出来るのにな。勿体ねぇ。
つらつらそんなことを考えながら顎から頬に手を滑らせる。
続いて首筋を辿り、脈を掬って耳の後ろを撫で上げた。
「…ぁ、んっ…」
三橋が明らかに感じ入った反応を返してくれる。
…あ、マジで駄目だ。
全然歯止め効かねぇ。
こんなんじゃ止める気があったのかどうかすら危ぶまれるけどさ。
「みはし……」
「あ、べくん…」
吐息を触れ合わせながら呼んでやると、感じたのと涙腺が緩いために、三橋の眸から大粒の涙が零れて、オレの手を濡らした。
「…嫌がんねぇの?」
泣いてはいるものの抵抗らしい抵抗を全く見せない三橋に、つい聞いてしまう。
絶対聞かなきゃ良かったって後悔するだけだろ、って問い掛けは、
「…い、嫌じゃない。おれ、は いやじゃないよ!」
野球以外のことで強まることなんて滅多に無い力強い語尾に、聞いて良かったと思う問い掛けに変わった。
「あべくんがっ…好き、だから 嫌じゃ、ないよ…」
ふんわり微笑ってから、でもね…出来ればもうちょっとゆっくりして欲しい、です、とか細く訴える三橋に
「お、おう!オッケ。わかったっ」
オレはきっと馬鹿みてぇに締まりのない表情で応えていたと思う。
[ end ]
阿部×三橋
二人にキスさせたかったんです。チューの描写好きなのですよ (わかりやすい)
しかしこの二人が好き過ぎてアニメのおお振りを見ながらいつも鼻血が出そうです。
07.07.01 up
ほんとうの空
暑く 眩しく 照り付ける 太陽を眇める
中学の頃 しがみ付いたマウンドから見上げた空は こんな青じゃなかった
ううん ホントは真っ青だったんだろうけど
おれの眸には その色彩が届かなかったんだ
でも今は全然違いくて
見上げれば どこまでも 青い青い空
これは おれの18.44m先の君がくれた 宝物の空
[ end ]
阿部←三橋
彼がくれたものは醒めない夢。解けない魔法。三橋の欲しかったほんとうの空。
阿部くんはミハミハのヒーローだよ!!と本気で思いながら (管理人は恥ずかしいひとです)
07.06.28 up
heart-whole
八の字眉に困り顔。
阿部隆也の前のそいつの表情 - かお - はいつもこんな風だ。
琥珀色のその眸は水没してんのかってくらい涙を湛えたものばかり。
カタカタと震える肩に、ああ!もうっと舌打ちすれば、
ふえっ、と堪えきれない嗚咽と、透き通った雫が頬を伝い落ちた。
(…またやった)
阿部は表面には極力出さないように心の中でガックリと肩を落とした。
決して泣かせたいわけじゃないのに。
どうして自分たちの意思疎通はこうも困難極まりないのだろうか。
「ごめっ、ごめんな、さっ…」
はあ、とため息を吐いた阿部に対して、三橋の口から出た言葉はほとんど条件反射的だった。
わかった。わーったから!と頭をひとつ掻く。
ぐしっと鼻を啜る音と三橋の嗚咽に合わせて揺れる柔らかい色彩の頭を見つめる。
さてどうする。どうすればいい。
例えばここで、悪い。きつく言い過ぎた、と折れたとしても三橋の涙は止まらないだろう。目一杯首を横に振って、ううん。おれが悪いから、と返して来て、またふりだしに戻るだ。
良い考えがちっとも浮かばなくて、思わず三橋のつむじを睨み付ける形になっている。このときばかりは三橋が俯いていて幸運だったと言えるだろう。
とは言え黙ったままで事態は好転しない。
阿部は卑屈モードの三橋と同じくらい思考をぐるぐるさせながら癖毛頭を乱暴に引き寄せた。
ビクッと跳ねた肩は見なかったことにして額を肩に押し当ててやる。
「うおっ! あ、あっ、阿部くんっ!?」
パニックに陥った三橋の手がわたわたと空 - くう - を掻いて、すぐ硬直した。
落ち着かせるため宥めるよう頭をくしゃくしゃと撫ぜてみて、
「…今は泣きやめって言わねぇから」
泣きたいだけ泣いとけ。でも気が済んだら泣きやめ、と続けた。
(あ、やべ。結局泣きやめって言っちまった…)
阿部はしまった、ときつく唇を噤んだが三橋は言葉の矛盾に気付かなかったようだ。
「…う、んっ…ご、めんっ…ね」
しゃくり上げ、ごめんね。ごめんね、と繰り返しながら硬直させていた手をそろそろと動かした。
ようやく阿部の背中に落ち着いた手が白いシャツをぎゅうと握りしめてくる。
その手の力にほんのり心が満たされる気がして、阿部は至近距離のこめかみにそっと鼻先を押し付けていた。
[ end ]
阿部→三橋
アベミハ処女作ですね。まだまだ全然書き慣れない…。
しかし阿部は何を言ってミハを泣かしちゃったんでしょうかねー。
まぁきっといつも通り一喝しただけなんでしょうが。
ああ、しかし泣き虫ミハは か わ い い ね !
07.06.27 up