恋 を し ま し た
「オレ、お前のこと好きみたい」
ちょっぴりお馬鹿で鈍くて天然なやつに変化球は効かない。
とにかく直球で投げなければ届かない。
いや、だからといってこれはどうだろう自分。
ほら、勝ち気な瞳がまん丸に見開かれている。
その反応に遅れること数秒、頬っぺたも真っ赤に染まった。
「えっ、あ、 …おっ おお、そだな。オレも」
きょどきょどと視線がさ迷って、珍しくまったくかち合わなくなる。
「榛名」
ちょっと可哀想になって呼ぶも、榛名は視線を反らしたまま捲し立てるように言葉を連ねた。
「いや、つか、マジ声で言うなよ、ビックリすんだろ」
それ以上は何も聞きたくないと、こちらの言葉を遮るように繋がる言葉がつき刺さる。
…痛いよ榛名。
叩いたり、蹴ったり、豪速球をぶち当ててきたり (ってこれは俺の力が足りないのがいけないけど)
お前はいっつも俺に痛いことばっかりするな。
「はるな」
胸の痛みに比例して、こっちもついついむきになっちゃって、思った以上にきつめに彼を呼んでしまった。
「……びっくりすんだろ」
榛名はビクッと肩を竦めて、噛み締めるようにそれだけ零して、黙り込んだ。
「…ごめん。気持ち悪い?」
静寂に耐えきれず、自虐的な言葉をはく。
自分で自分の首を絞めてどーするんだ、俺……。
大いに呆れた。
どんよりした空気が流れて、…あーフラれる。
友達でもいられなくなる。
それは榛名にフラれる以上に辛いことだと思った。
「………気持ち悪くない自分が気持ち悪ぃ…」
そう思っていたのに、
涙が出そうなのを必死で堪えていたのに、
「なんで、そういうこと言うんだよお前。
オレ、男なのに変だろ。……オレも変になるだろ」
榛名の言葉が先程とはまるで正反対に俺の心を救い上げる。
「榛名……」
「…あンだよ?」
今度はちゃんと視線がかち合った。
過去に俺は一度この瞳が怖くて、逃げて、今更だと思われるかもしれないけど。
今、お前の正面にいたい。
「好きだよ」
よかった。今度はちゃんと眼を見て言えた。
「……おー、オレ、カッコいいからな」
榛名は、あちぃ、と呟いて、頬っぺたを押さえながら、そう言った。
「そうだね」
それにちょっと微笑って、返す。
「なあ?」
榛名が俺のとなりに腰を下ろして、
「ん?」
「返事要る?」
こつんと肩が触れ合う。
「んー、どうかな」
もう胸がいっぱいになっちゃったので、これ以上榛名に何か言われたら、
心臓が止まってしまうかもしれない。
「うーん、どうしよう」
「オレが聞いてんだっつの」
「あはは、そうだった」
…でも、ホントにどうしようかな。
「あーっ!」
ぐるぐる迷う俺に、あまり気の長くない榛名がしびれを切らすのは、ちょっと無理もなかった。
「もうっ、おっせぇよ!」
「ごめっ、いて!」
ごつんとこめかみに榛名は頭突きをかましてくる。
これはマジで痛い。
耐えきれず、先程引っ込んだ涙が出てきた。
「もう、お前ね、石頭なんだから」
手加減しろよ、と文句をぼやいて、眼鏡を外す。
涙を拭おうとすると、
「…?」
ずきずきと痛む部分に、ふわりと柔らかな感触が触れていることに気が付いた。
「はる、…」
思考が止まる。声が出なくなった。息をするのも忘れた。
俺のこめかみには榛名のくちびるが押し当てられていた。
「痛いの痛いのとんでいけーってな」
固まっている俺を余所に、大きな子供はイタズラが成功したと無邪気に微笑って、
ぎゅう、と抱き着いてくる。
体に回された、大切な大切な腕を抱き返す。
ねえ榛名。
俺はいつかさ、お前の側で心臓発作起こしちゃうと思う。
[ end ]
アキハル
最後に 「だから救急車だけは呼べるようになって」 と榛名をからかう秋丸でも入れようかなー、と思って、結局それは止めておいたお話。
なんとなく中学三年生のイメージで書いていました。
アキハルは、高校に入学する少し前くらいに想いが通じ合ったのがいいな、とちょっとぼんやり思っています。
ちなみにこの話、榛名はちゃんと返事しています。思わず 「オレも」 って言っちゃっています。
榛名の、ビックリすんだろ、は自分の想いを自覚して、ビックリしたのでした。
08.04.02 up