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OOFURI

 ほ か に は な に も 要 ら な い

 おおきく振りかぶって、空気をきり、この手に届けられる速い速い球を、
 十八、四四メートル先で無邪気に微笑うあいつを、
 もう二度と失いたくないだけ ――


 [ end ]
秋丸→榛名
下の榛名と対。秋丸バージョン。やっぱりこれもいつかオフラインで使いたい。
08.03.26 up





 ほ か に は な に も 要 ら な い

 そのミットに綺麗に吸い込まれる白球と、ナイスボールとこの青空に響く声を、
 オレの十八、四四メートル先で優しく微笑うあいつを、
 もう二度と失いたくないだけ ――


 [ end ]
秋丸←榛名
いつかオフラインの小説で使いたいモノローグ。
口で説明するのは難しいんですが、なんていうか、バッテリーの間にある空気がとてもとても好きです。
08.03.26 up





 つ っ か え つ っ か え の 告 白

「榛名」

 常と変わらぬ優しい声。
 でもレンズ越しの瞳は笑っていなかった。

「あ、いや、そのっ」

 秋丸の瞳があんまり怖い榛名は、視線を合わせられないまま、きょどきょどと空虚を見た。

「うん。なに?」
「え、っと…その、あのな、…」

 促されるも次の言葉が喉につっかえて出てこない。

「な、なっ、夏休みの宿題写させてくれっ」

 ようやっとしぼるように告げた告白。
 顔の前で両手を合わせて、榛名は苦く笑った。

「〜〜〜ッ!」

 青筋をたてた秋丸に、ひー、と身構える。

「なんっっっでお前は毎年毎年8月30日に言うかな!
 (31日じゃないだけマシだけど)
 なんでもっと早く言わないかな!
 榛名のバカ!
 学習能力皆無!」

 強烈な雷が落ちてくる。

「ば、バカとはなんだよ!
 てめ、失礼だな!」

「真実だろ!」

「ひっでぇ!
 オレ、バカじゃねーもん!
 オレ、バカじゃねーもん!」

「二回も同じ単語を繰り返すあたりが紛れもなくバカだよ!」

「ひ、ひっでぇ…!!
 秋丸の鬼畜!
 ろくでなし!」

「それを言うなら “人でなし” だろー!」

 ぎゃあぎゃあと長い言い合いが続いて、
 負けじと言い返していた榛名が、口では敵わないと知り、ついには、うわわわん、と盛大に泣き出した。

「あーもうっ、わかったわかった」

 秋丸は特大級のため息をつき、頭を抱える。
 広い背中をぽんぽんと叩き、ローテーブルに筆記用具、教科書、ノート、辞書と勉強道具一式を手早く拡げた。
 丸写しなんて絶対に許さないと心を鬼にしておく。
 そして、ぴとりと引っ付いてくる幼馴染みの顔を見やった。

「榛名、お前はあっちだろ」

 自分が座っている場所の真向かいを指差す。

「秋丸、怒ってる?」

 榛名はそこから動くことなく、珍しく控えめに問い掛けてきた。
 思わず、きょとん、と瞳を瞬いてしまう。

「べつに怒ってないよ」

 いつものことだと。怒っても無駄だと。体力使うだけだと。
 そう思えば、耐えられないことはない。

(それが余計に榛名のワガママを増長させているのかもだけど…)

 ただ眉間のシワはなかなか消えなかったので、榛名を見る目はきつかったと思う。
 それを気にしてか、榛名は見えない尻尾でもタレ下げているかのように落ち込んで、

「……きょーへい、怒ってる?」

 右腕にぎゅう、と抱き着いてきた。

 ぽすん、と肩に額が預けられて、細く艶やかな黒髪が首筋を撫でる。

(…かっわいいなあ)

 うっかり、そんなことを思ってしまったのが運の尽き。

「……怒ってないよ。
 勉強しようね、榛名」

 指通りの良い髪をよしよしと撫ぜて、
 ついつい思いっきり甘やかしてしまった。

「おー」

 榛名の表情が、へら、と緩んで、

 学習能力がないのは榛名だけではない、むしろ自分のほうなのか、と思い知らされる、

 毎年恒例、夏の終わりの出来事 ――


 [ end ]
アキハル
こういうノリの話がいちばん書きやすいなーと思います (笑)
相方のうささんにも 「あっまーい!」 と言われました。うん、秋丸は榛名に甘いの (笑)
08.03.26 up





 世 界 で 一 等 の シ ア ワ セ

 3月11日の深夜。
 コンビニで買った小さな安物ケーキを手土産に榛名は秋丸の家にやってきた。
 ぽっかりと浮かぶ月を背に携帯を鳴らす。
 ガチャと施錠を外す音がして、そっと扉が開く。
「いらっしゃい」
「おジャマします」
 ぺこり、と改まって挨拶をする榛名に、二人そろっておおきく噴き出す。
「もー、なんだよ榛名」
 涙が出るほどおかしかったらしい。
 眼鏡を外して目尻を擦る秋丸に榛名はぶつかる勢いで抱き着いた。
 そして、そのまま、くちびるが触れる。
 ちぅ、と可愛らしい音。
「…オレの部屋行く?」
 玄関はまずいなー、と秋丸の手が榛名の腰を抱き、
「おう。行く」
 榛名はコクンと頷いた。



 自室に辿り着いて、秋丸の手にケーキを手渡す。
「ほい」
「ん、ありがと」
 榛名がちらりと時計の針を見て、もう一度秋丸に抱き着いた。
「たんじょうび、おめでと、秋丸」
 聞き慣れた声が心地よく響く。
 嬉しそうに、楽しげに、柔らかに。
 耳元で。

 くすぐったさに肩を竦めて、
「ありがとう、榛名」
 いつも穏やかな秋丸がこれ以上ないほど柔らかに微笑った。



 コンビニのケーキを二人で突っついて、いちばんにおめでとうと、ありがとうを ――

 ただそれだけで、世界で一等のシアワセ。


 [ end ]
アキハル
秋丸おたおめ小話でした。この二人はずっといっしょにいれば良い、ホントに。
08.03.12 up