低温火傷
「なあなあ加具山センパイがさー」
時に心底嬉しそうに楽しそうに、
「さっき宮下センパイがさー」
時に恥ずかしそうに締まりのないカオで、
「あっ!そういや昔、タカヤがよー」
時に頬を盛大に膨らませご立腹の様子で、
榛名の唇が俺以外のものの名前を紡ぐのだ。
「…榛名」
「あン?」
それが時に嫌で嫌で仕方なくなる俺は、
榛名の口を塞ぐ手段を探して見つけて、
「ん、むっ」
こうなる。自分の唇で榛名の口を塞ぐという手段に辿り着く。
「…ふ、 んんっ」
閉じていた唇を割って、舌を差し込めば、
「んっ、んー…っ」
くぐもった声を上げて逃げようとするから、
それを許さないように舌を擦り合わせて軽く吸ってやる。
途端、俺の肩を押しやっていた腕の力が緩くなって、
榛名は観念したように俺の首に腕を回してきた。
唇を重ね合わせた数秒後はお互い口の中がびちゃびちゃだ。
口の端を伝う飲み込みきれなかった唾液を拭う。
「ちょ、テメ、なんなんだよ」
上気した顔で俺を睨む榛名。
さっきの余韻がまだ残っているから迫力がないよ。
むしろ可愛い。
そんな本音をうっかり口に出した日には、剛速球ならぬ剛左ストレートが飛んできそうなので我慢我慢。
「キスしたかっただけだよ」
理由を述べれば、
「ウソつけっ!!」
ぎゃん、と噛み付いて来た。
「いや、ホントに。嘘じゃないって」
榛名とキスするのが好きなのはホントだ。
と言うより榛名以外とキスしたいなんて思わない。
「あーっ!」
こら榛名。うるさいよ。近所迷惑。
「お前のせいでなに言おうとしてたか忘れたじゃねーか!」
ああ、そうなの?
それは良かった良かったと心の中で密かにガッツポーズをしておく。
…ってやばい。
いまのは感情がカオにそのまま出た気がする。
「…お前さ、やっぱキスしたかっただけじゃねーだろ」
目敏く気付いた榛名が端整な眉をつり上げた。
「あはは」
ちょっと笑って無理やり誤魔化すと、訝しそうな視線を向けられた。
「…えーと榛名。怒った?」
「べつに怒ってねーよ。怒る理由ねーもん」
でも榛名さ、自分の話途中で遮られんの嫌いだろ?
「…お前な、わかってんのに遮るなよ」
うん。ごめんって。
「…まあ良いけどよ」
そう?
なんかえらく機嫌良いな。
「んーオレ、お前とキスすんの好きだしー」
………。
「だから今回は許してやる」
えっへん、と胸を張る榛名の肩を掴み、抱き寄せる。
「う、え?」
「…榛名ごめん。キス以上もしたいかも」
「……はあ!?」
あ、やっぱ駄目か。
「テメ、調子乗んな」
…すみません。
「いや、退くの早ぇよ」
いや、だって今から部活だしさ。
言ってみただけだよ (半分くらい本気だったかもしれないけど)
「…オレの本気の球捕れたら考えてやっても良いぜ」
ええっ?!
「あれ?いいの?」
「だから捕れたらだっての!捕れなかったらなしだかんな!
つか捕らなかったら一週間エッチ禁止にしてやるっ!」
うわ、ちょっとそれひどくない?
つか榛名さ。お前の声でか過ぎ。
他のひとに聞かれる。
「うるせー!大体お前が言い出したことだろーが!」
…まあそうだけどさ…。
ってなんか榛名の言い分って 『捕ってほしい=エッチしたい』 みたいに
聞こえんだけど
(オレの耳がおかしいのか)
「捕って欲しいみたいに聞こえるけど?」
「……」
「ハルナー?」
「やっぱ二週間禁止にしてやる」
ちょ、待て!それは困る!
「困んなら捕りゃ良いんだよ」
「…あ、そっか」
「そうだよ」
そうだね。わかった。
「うん、捕るよ。絶対に」
「おう、捕れよ。絶対に」
お前が嬉しいこといっぱい言ってくれて、ヤキモチも何処かに飛んで行ってくれたしね。
[ end ]
アキハル
タイトルはヤキモチを焼く。じりじり燻る的な意味で低温火傷です。
この二人の会話のキャッチボールはほんとうに書いていて楽しいです。
しかし拙宅の秋丸は榛名にベタ惚れ過ぎ。
07.10.22 up
愛するには支障ありません
セックスするなら胸の大きい美人がいいに決まってる。
可愛い子もいいよな。
でも胸は絶対でかいほうがいい!
少なくともオレは。
ってかそんなの当然の考えだろ。
「そりゃ全然まったくもって掠ってもなくて悪いなー」
荒い息をついた後に秋丸が棒読み口調でそう言った。
「べつに悪いなんていってねーよ!」
平らの面白みもなにもないだろうオレの胸に這う指をはね退ける。
「…榛名さ。なんで今そういうこと言うの?」
オレの発言に、流石に萎えるよ、とでも言いたげに大きくため息をつく秋丸の腰を、開いていた足で蹴ってやる。
ちょ、マジで痛いって、とかなり本気の訴えが返ってきた。
うるせー。我慢しろ。ふん、と言い放ちオレはそっぽを向いた。
「どーした?」
余所を向いたオレの頬を、やれやれ、と両手で包み込んで、ずいと顔を近付ける秋丸。
言葉と裸眼の双眸がオレの態度の不思議を問い掛けてきた。
「…べっつに」
さっきと同じように答える。
べつになんでもない。
ただオレのセックスしたいのは、って考えと、一般男子の考えは一緒だろ、と思っただけだ。
でもオレは全然まったくもって掠ってもないのだ。
秋丸は自分が掠ってもなくてごめんねーと言ったがむしろそれはこっちのセリフだ。
こんな鍛えまくりのごっつい体を見て、勃つ秋丸の体がオレは不思議でならない。
かと言って、勃たなかったら勃たなかったで、この不能ヤロウ!使えねぇ、とか言ってしまう自信がオレにはある。
言った後に、もう秋丸とセックスできねぇ、て凹む自信もあったりする。
…ってそれは自信って言わないか。ま、どっちでもいい。
「ハルナ?」
「え、わ、わり。なに?」
我ながらホントしょーもないことばかり考えていたら、うわのそらだよ、と額を小突かれた。
「そんな巨乳が良いのかー?」
手加減されていたので痛くなんてない。でもいちおう気になったので額をさすって、どうやっても巨乳にはなれそうにないなーと笑う秋丸を見つめた。
「…オレも」
「ん?」
「オレもなれねぇ」
ぽそっと洩らしてしまった本音にハッとして、きつく唇を噤んだ。
秋丸は髪の色と同じ少し薄い色の眸をまるく見開いている。
「あーやっぱなんでもねぇ!忘れろ!」
今すぐ記憶から消去しやがれ!と叫んでから、秋丸の頭を掴んでガクガク前後に揺らす。
うえ、止めろってハルナ。気持ち悪くなる、と咎められて、腕をそっと掴まれた。
その手がつ、と腕を辿り、するり、と手首を撫でられる。
んっ、とオレの声とはとても思えない甘ったるい声が洩れて、肩がはねる。
こいつの触り方はいちいちエロくて困る。
秋丸はオレの手のひらに自分の手のひらを重ねてきた。
「榛名は大丈夫」
「は?」
言われた意味を最初は図りかねて、
「榛名はちゃんと美人だから」
続けられた言葉にようやく全て理解する。
「それに…」
そういうこと言ってくれるここが可愛いしね、と囁いて、指先でオレの唇を撫でた秋丸に大きく眸を瞬いて、
「オレ、美人か?」
自分を指差しながら真剣に返してしまった。
「うん、美人美人」
それにかわいいよ、ともう一度囁かれて、頬っぺたつっつかれて、触られた箇所から顔に火が点る。
きっと今のオレの顔は風邪をひいたときのように真っ赤だろう。
「榛名、カオ真っ赤」
くすくす笑う秋丸に、やっぱりか、と熱い頬っぺたに手を当てて、先程の自分の質問の内容に今更ながら、ああ、もうなに聞いてんだ!アタマ悪過ぎだろ!と後悔しまくった。
そんなオレを呆れもせず笑顔で宥めて、
「榛名が恋人でオレは嬉しい」
秋丸はいつも通り口説き文句を捧げてくれる。
だからオレの心はふわふわ舞い上がちまって、
目の前の恋人けん親友けんキャッチャーの背に腕を回して、ぎゅうと抱き着いてやるくらいしか
上手い返事が思い付かなくてけっこう真剣に困ってしまった。
[ end ]
アキハル
榛名は美人だと思う。あと原作を見れば見るほど榛名は童貞くさいよね、とも思ったり。
や、かわいいので全然バッチコーイなのですが (笑)
07.08.20 up