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OOFURI

続く日々に君とありたい

 野球部員の朝は早い。
 しかしどれだけ野球大好き球児であったとしてもだ。
 あっさりすっきり早朝に目が覚めることに繋がるわけではない。
 秋丸のエース榛名は朝に弱かった (夜も大して強くないくせに)
 そのため榛名家の朝は長男のお友達の控え目な‘おはようございます’から始まる。

「恭平くんいつもごめんなさいね」

 榛名と同じ面立ちの ―― でも性格全然似てないな、と思わずにいられない優しいお母さんと、

「なに?あのバカってばまだ秋丸くんに起こしに来て貰ってんの?」

 トイレにでも起きたらしいこれまた榛名と同じ面立ちの ―― 迫力美人で口のきついお姉さんの呆れた表情を見る。

「あがらせてもらいますー」

 それに対して、あははー仕様がないやつですよね、と笑いながら応えて、彼の部屋に向かった。

 くうくう寝息に合わせて規則正しく揺れる肩を掴む。
 すう、と大きく息を吸い込んで、

「榛名起きろ!」

 耳元で叫ぶ (でもいちおうご近所のことも考えて声量は少し抑え気味である)
 ぎゅ、と眉間にしわが寄って、瞼がホンの少しだけ持ち上げられて、寝惚け眼が秋丸を見る。

「うー…やだ。あと5分…」
「またそんなこと言って!5分で起きた例なんてないだろー!」

 今度は耳朶を軽く引っ張って怒鳴った。

「だー!あきまるのくせにうっせー!…耳元で叫ぶ…なぁ…」

 最初はいつも受ける速球のように勢いよく放たれた言葉だったのに最後はまた眠気に負けている。

「あーもう榛名!ちゃんと起きろってば」

 オレまで朝練遅刻するだろ、と布団を剥ぎ取る。
 上体だけでもなんとか起こしてやれば、ぼーとしているものの榛名の黒目が開いた。
 よしよし起きたな、とハンガーから制服を放ってやる。
 早く着替えなよ、と言い付けて、そういえばちゃんと教科書揃えてんのかな、となんでもかんでも突っ込みっ放しの鞄を引き寄せた。
 そう。秋丸は榛名から目を離してしまったのだ。

 ―― ごつん

「痛て…!」

 背を向けたベッドから鈍い音がしたのはすぐだった。

(え…?)

 慌てて振り返る。
 そこにはせっかく起きたのにまた眠りの世界に舟を漕いで、ベッドから、それも頭から落ちたらしい榛名がいた。

「は、榛名!ちょっと大丈夫?」
「ダイジョブじゃねーよ!いてぇ…」

 マジ痛ぇ!と涙目で喚く榛名の寝癖付き前髪を掻き上げ額を見る。
 少し赤くなっていたものの大したことはなさそうでホッと胸を撫で下ろした。

「うん、ちょっと赤いね。だいじょぶだいじょぶ」

 よしよしと額を撫でて、再び中身がカオス化している鞄に視線を戻した。

「はあ?そんだけかよ?」

 榛名は秋丸の反応が不満だったらしく、もっとあるだろ!労れー!と絡み付く。
 じゃれ付いて来る榛名に、何もこんな時間のないときに甘えたモードにならなくても良いだろー!と心の中で大いに嘆きながら、でも結局振り向かずにはいられない自分はホントに我ながらどうしようもない。
 正面から向かい合って、黒髪に指を差し入れその頭を引き寄せる。
 まだ少し赤く熱を持った額にちゅ、とくちづけた。
 倖せそうにそれを受け止める榛名を見て、秋丸もまた満たされていく。
 最後に ‘いたいのいたいのとんでいけ’ と唱えて手を離した。

「ほい。もう大丈夫だろ」
「ん」

 コクンと素直に振られる頭を見て、

「あ、メシ食う時間なくなるよ」

 もうひとつ榛名の行動スピードが上がる魔法の呪文も唱えてやる。

「うお!マジやべぇ!」

 昔から役に立たない目覚まし時計を、ぎゃあ!と放り投げて、榛名は洗面所に走って行った。





「いってきます!」

「ちょ、ちょっと榛名!ドアもうちょっと静かに閉めろよ!」

「んなこと構ってらえねーよ!」

「…… ‘れ’ がまた言えてないよ」

「うるせー」


 白み始めた空のしたで、君と自転車を跨いで、
 今日もまた暑い一日が始まる。


 [ end ]
アキハル
一度途切れて、また繋がって、いつまでもどこまでも続く日々に君とありたい。

捏造過多もここまでくれば、て感じですみません。
榛名のお姉さんはもしかしなくてもモモカンそっくりの予感。
美人できっつい性格だと良いなーと勝手に希望しております。
07.08.03 up





傲慢な本音を隠している

 ぺたぺたと前を進む広い背中を見つめ歩く。
 おー入道雲だぜ、と無邪気に夏の空を指差し、立ち止まったこと幸いに榛名を後ろから抱きしめた。
 目の前の肩に額を預ける。
 もちろんこいつの身体は彼にとってもオレにとっても大事な大事なものだから負担は掛けないように極軽く。

「…あきまる?」

 どうしたんだよ、とハテナを飛ばす榛名に、

「なんでもないよ」

 ううん、と首を振り、小さく応えて、でも抱擁は緩めなかった。

「…ヘンなやつ」

 榛名の声が少し近くなる。
 きっと首をひねってこちらを見ているのだろうと思った。
 変に捻るなよ、と思いながら顔が上げられないのは、
 今見下ろされてるだろうこの6センチ差が悔しいからで、
 いつも前を行く
 いつも先を見据える
 お前が眩しいからで、

 振り向かなくていい。
 待ってくれなくてもいい。
 ただ忘れないで欲しいと願う。

 今はまだ追いつけないけど
 お前のことをいつも見ている ――


 [ end ]
秋丸→榛名
切ないのも好きです。
榛名の左手に夢をかけている秋丸だと良いなぁと妄想。
だからこそ余計追い付けないのが切ないかなと思ったり。
07.08.07 up