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OOFURI

 昼食を終えたばかりの授業中。
 睡魔と格闘していると、ヴヴヴとポケットの携帯が震動した。
 机の下でこっそり開いてみるとメールの着信。
 件名 『Re:』 のそれを開封すれば、
 キャッチボールしてー、と送信者の口調そのままの文面が瞳に飛び込んでくる。
 それに 『はいはい』 と心の中で答えて、むにむにとボタンを押す。
 放課後まで我慢しろよ。もうちょいだろ、と返せば、

 早く、
 いま、
 やりてーの、と

 わがまま放題の返答。

 やれやれ、と小さくため息。
 どう返そうかな、と文章に悩んでいると、あまり気の長くない (というより大いに短い)
 榛名の痺れが切れたらしい。
 もう一通メールが届いた。

 早く、
 いま、
 秋丸に投げてーの、と

 先程と似ていてちょっぴり違う内容。
 それにやばいくらい口許が緩んでいく。

 うん。
 オレも今、
 榛名の球捕りたい、と

 即行で返す。

 このメールを受信する榛名の口許も同じように緩みますように、と思い、願って、

 黒板の上にある時計の、長針の働きを活性させてやりたいとも思っている。


 [ end ]
アキハル
拍手ログです。下にばばーと表示。アキハルいっぱい。
更新日不明





「あっきまるー」
「うわっ!」

 大きな子供が背後からのっしり。
 秋丸は口許を引き攣らせた。

「榛名、重い」

 身長6p、体重8s差を恨めしく思いながら、ずるずると榛名を引き摺り気味に前に進む。

「重くねーよ。オマエが軽すぎ」
「オレは普通だって。おまえが重いの」

 はーやれやれ、と言い返せば、耳朶にくちびるが押し当てられた。

「……エッチのときはきつい体位も頑張ってするくせに、こういうときだけそういうこと言うんだな」

 囁かれた言葉に赤面して絶句した。
 程無くして、後ろから大笑いが聞こえてきたので、

「はるなっ!」

 腕を振り上げ (もちろん軽く。榛名に当たらない程度に) 後ろを振り向く。

「なんだよ。むっつりスケベの恭平」

 そこにはイタズラが成功したときの満面の笑みを浮かべる榛名。

「…変なアダ名つけるなよ」

 バカ丸ともよく言われるのに、これ以上嬉しくもないアダ名を増やされては堪らない。

「事実だろー?」

 あー面白かったと、機嫌良く、自分の教室に戻ろうとする榛名の背中に、

「今度の休み覚えとけよ」

 宣戦布告の言葉を投げる。
 榛名の足が止まり、ギシリと固まった。
 耳元が赤く染まっているのを見届けて、踵を返す。

 教室に戻り、扉を閉めて秋丸は笑った。


 [ end ]
アキハル
拍手ログ。スキンシップだいすきな榛名さん。下のに続いています。
更新日不明





 ―― 部室にて。

「……なー、昼間の」
「ああ、今度の休みの件?」

「…オレ、覚えねーから」
「いや、覚えてろ」

「やだ。つかオレお前の家行かねぇし」
「んー。オレが行くからべつに良いよ」

「…く、来んなっ」
「行く」

「来んなってんだろ!」
「嫌だ。絶対泣かす」

「…ふざ、ふっざけんなテメー!」
「榛名、オレはいつも大真面目だよー」

「ヘンタイ、鬼畜眼鏡!」
「マゾ、ノーコン」

「……」
「…榛名?」

「……オレ…ノーコンじゃね、…もん…」
(しまった。言い過ぎた)

「…」
「榛名」

「…」
「ごめん、言い過ぎた」

「…」
「もう言わない」

「…」
「約束するから」

「…ん」
「はい。ゆびきり」

「…」
「…榛名、手出して?」

「…つかべつに言ってもいい」
「?」

「ただ、それはオレがオマエの体に球ぶち当てたときに言うべきだろ…」
「…うん。そうだった…」

「…いま、今言うなバカ」
「…ごめん」

「…ん。もういいけどよ」
「…榛名、ごめんね」

「いいって。つか、なんでまたオマエのが泣きそうな面してんだよ」
「……ごめん」

「…恭平はしょーがねェな」

 ―― ぎゅうっ。


 [ end ]
アキハル
拍手ログ。秋丸のほうが上手のように見えて、やっぱり榛名のほうが強い感じのアキハル。
更新日不明





 弥生3月。
 ―― 校庭、屋上、教室、どこもかしこもお前との思い出が溢れている。
 前半は楽しいことばかりが、後半は辛いこともたくさん…。

「勝手に思い出なんかにすんなよバカっ」

 次の学舎では着ない学ランの胸元を卒業証書が入った筒で叩いて。

「またよろしくな、秋丸っ」

 榛名が太陽のように微笑った。

 お前と過ごす、何度目かの春がやってくる。


 [ end ]
アキハル
拍手ログ。秋丸と榛名はいつもいっしょ。
08.12.18 up





 ※ ア フ タ 3 月 号 ネ タ バ レ で す 。 ご 注 意 く だ さ い 。


 ↓




 ↓




 ↓


そ の 減 ら ず 口 が い と し い な ん て

 彼はとても口が悪い。知っているけど。


「着替えねーとな」

 テコテコと先を歩く10の背番号を見つめながら、ハァ…とため息を一つ。

 榛名は勢いよく振り向いて左手を伸ばしてきた。

 ぽふっ。

「やめろバカ。しあわせが逃げるんだぞ」
「めいしんだよ」

 塞がれた口でモゴモゴと答える。

「迷信でもだっ!」

 ムキになるのを珍しいと思った。

「…勝つまでは?」
「ああ」

 思い当たる理由に首を傾げれば、力強く頷かれる。

「悪かったよ」

 気を付ける、と素直に言えば、うしっ、と嬉しそうに笑う。

 眩しい。

 いつでも、
 何処に居ても。

「…でも、さっきのは無いんじゃない?」

 榛名の口が悪いのは重々承知だけど。

「あ? ARCのデータのことか」
「まぁ、それもだけど」

 でもそっちじゃないよ、とちょっと膨れっ面。

「……何かあったっけ?」

 真顔の返答に今度は脱力。

「…もう良いデス」

 思わずカタコト喋りになってしまった。

「はぁ? あンだよそれ!」

 中途半端なの気になるだろッ、と怒るので。

「胸に手を当てて、よぉぉく思い出して」

 そんなことを言ってみた。

「……胸に?」

 俺の言葉に従い、うーんうーんうーんうーん、と見事な唸り声。
 記憶を辿っているらしい榛名を追い抜かした。

「はるなー」

 頑張って思い出そうとしてくれている、その姿勢だけで十分だったから。

「置いてっちゃうよ?」

 考えることが苦手な榛名を解放してやるべく、早くおいで、と手招きをする。
 榛名は俺の顔を見るなり、ぐぐぐっ、と眉間に寄せていたシワを消した。

「あきまるー」

 やけにスッキリした顔で、軽やかにこちらに駈けてくる。

「オレ、分かったぞ!」
「ノーコンな的外れ回答じゃないことを祈るよ」

 ボカッ!

「テメェ、殴るぞっっ!!」
「…もう手出てるじゃんか。痛いって」
「ってだから、ちげっ! 分かったんだって」

 バシバシと乱暴に肩を叩かれ、抱かれた。

「うちの控えの控えの控え捕手っ♪」

 耳元で歌うように響く。

「……まだ言うか」

 今日の榛名は口が悪いと言うより、いじめっ子なガキ大将みたいだ。

「…じゃなくって、オレの、控えの控えの控え捕手っ」
「……」
「これなら良いだろー?」

 ニコーと笑む榛名の顔を凝視した。

「珍しい。的外れじゃなかった」
「だろ? …てか、珍しいは余計だ!」
「嘘だって。ごめんごめん」

 もう殴るのは無しね、と榛名の左手を捕まえる。

「でもさ」
「ん?」
「それだと余計にそんなにいっぱい要らないよ」

 榛名の面倒なんて、俺以外に見れないだろうし。

「わぁってんなら、とっとと此処まで来いよ」

 オレは待ってはやんねー、と不敵に笑む榛名はやっぱりちょっとイジワルで。

「空けといてやるから」

 ただ最後にそんな言葉をくれた。

 空けておく?
 何を?

 その光輝く道のとなりを……?

「やー、大変そう」
「せいぜい頑張りやがれ」

 棒読みで返した言葉とは裏腹に、口許の緩みがおさまらなかった。


 榛名はいつでも口が悪い。それは紛れもない事実。
 …でも、ちょっと補足。

 そんな言葉がいつも愛しい。


 [ end ]
アキハル
どつき愛のアキハルって可愛いなーと思います。そしてこの二人の会話は書きやすくて感動します (笑)
09.01.26 up