く ち び る ば か り 嘘 つ き
みんみんと、7日間の命が鳴き喚く。
ジリジリと、オレンジ色を通り越した白い太陽が照り付ける。
真夏の勉強会。
自分の家だろうが俺の家だろうがお構い無しに、榛名が扇風機の前を占領する。
「髪うぜぇ」
人工風に揺れる、真っ直ぐで綺麗な黒。
テーブル上のテキストに向けていた顔を上げて、榛名のとなりに移動した。
「大分伸びたもんね」
そっと掻き上げて、うーんと呟く。榛名の、しっとりと汗ばんだ額があらわになった。
「クーラー入れようか?」
「や。いい」
俺の提案に首を振り、前髪だけ暑い、と榛名は言った。
「ちょっと待ってて」
立ち上がり、自室を後にする。階下の洗面所に向かった。
目的地に到着して、二人の姉と母が使っている小さめの小物入れを手にとる。
中から、飾りっ気のない黒いヘアピンを手に取り、しばし停止。…やっぱり止めた。ピンをもとの位置に戻す。
代わりに、今はもう使われていないと思われる、ちょっと可愛い装飾のヘアゴムを摘まんだ。
「お待たせー」
「おせーよ」
どこ行ってたんだよ、と榛名が拗ねるので、ごめんごめんと二回繰り返す。
先程と同じ場所に腰を降ろすと、暑いのも構わず、榛名が擦り寄ってきた。
「榛名、ちょっとこっち向いて」
肩に埋められそうになった顔を導く。
きょとんと傾げられる首。大きく瞬く瞳。
存外愛らしいそれに深く微笑んで、向かい合い、手櫛で榛名の前髪を纏める。
あー、やっぱり手櫛だとちょっと難しいな。榛名の髪はさらさらなので余計に纏め難い。
「榛名、ここ押さえてて」
「ん。おう」
俺の言葉に素直に従い、左手が伸びてくる。
榛名が髪を押さえたことを確認して、俺は立ち上がった。棚の上にある櫛をとる。
もとの位置に膝立ちして、もう良いよ、と榛名の手を引っ込ませる。艶やかな黒髪に指を差し入れた。
髪を梳く度に榛名が気持ち良さそうに目を細める。
ああ、そういえば頭も性感帯だっけ、と明後日のこと思い、髪を纏め終えて、顔を寄せた。
鼻先にちゅっと口付ける。
「わっ!」
不意打ちに、榛名の瞳がぎゅっと閉じられて、そっと開く。
「…ううっ。くそっ」
やられた、と膨らむ頬に、尖るくちびる。
油断大敵だよ、とそっちも塞いでやった。
「で、秋丸。なんだよ、これ?」
一纏めにした前髪を指差し、榛名が言った。
ちょこんと位置する、ヘアゴムの飾りを俺は突っつく。
こーゆーのってなんて言うんだっけ。小さいコがよく着けてる。えっとボンボン飾り?
「前髪、鬱陶しくないだろ?」
「ああ。うん」
髪を結んでやった理由を告げる。
榛名はコクンと首を縦に振り、それといっしょに髪飾りが揺れる。
なんかホントに小さいコが (いや、体はでかいけど) いるみたいだなー。
抱き寄せて、よしよしと額を撫でる。
榛名はおでこも可愛いね、と褒めてやれば、
「ば、バカじゃねー!」
可愛くない口がそんなことを言い、でも頬っぺたは夏の暑さとは違う理由で、赤く染まっていた。
[ end ]
アキハル
なんでしょう。こいつら恥ずかしいな (笑)
キョトン受けを書こうと頑張ったのですが、あんまり榛名がキョトンしていない!(致命的) すみませっ (のおお)
そして榛名は髪弄ると可愛くなりそうだなーと思います。アホ毛もかわいい。
榛名はモモカンと同じ顔立ち、つまり美人ってことで飾りたくなります (ごっついけど女装も似合う筈ー)
08.05.18 up