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OOFURI

スパイシーバニラビーンズ

 榛名は短気だ。
 わがままだしおれ様だし顔は良いのにやたら目付き悪いし口悪いし…。
 ひとたび口喧嘩になって相手を口で負かせないと悟やいなや右ストレートが飛んで来るのだ。
 (本気で怒っているときは左手まで出そうとする。我に返るとすぐ引っ込めるし、まずあることではないが)
 今回もそうだった。
 ほんの些細なことからカッとなった榛名の鉄拳を食らった秋丸は、いて、と小さく呟いた。
 衝撃で眼鏡が外れた。
 かしゃん、と部室の床に転がったそれをぼやける視界の端でとらえて、

「榛名さー」

 知らないだろ、とため息交じりに問い掛け。

「あ?なんだよ?」

 返って来るのはやっぱり尊大な態度。

「眼鏡って高いんだよ?」
レンズ割れたらどうしてくれんの?

 請求するよーと手のひらを突き出せば、

「うっせー!」
オレの機嫌損ねるお前が悪いんだよ!

 その手も発言もばっさり切り捨てられた。
 いつも強い光を湛えている眸がやはり鋭い眼光で秋丸に噛み付く。

「はいはい」

 適当に流して眼鏡を拾おうと手を伸ばす。
 するとその手を掴まれ、引き寄せられた。
 互いの距離がぐんと縮まる。
 吐息の触れ合う近さで、

「眼鏡より先になんかあるんじゃね?」

 口を尖らせ、むーと不満を訴える榛名に、秋丸は思いきり噴き出した。

「なっ、テメ!秋丸!なに笑ってやがる!」
「アハ、ハハッ…ごめ、いや、でもだってさー」

 そんな口尖らせて頬っぺた膨らませて子供みたいだよ、と言いそうになって、慌てて手のひらで口元を覆った。

「ううん、なんでもないよ」

 訝しげにこちらを見てくる榛名をニッコリお得意笑顔で誤魔化して、

「なんだよそれ!」

 いや、誤魔化し損ねて、
 やっぱりぎゃんぎゃん噛み付いて来る榛名のくちびるにくちづけた。

「ん、むっ」

 まるく見開かれる眸に、ああ、驚いてるな、と思う。
 くちづけからすぐ解放したのに榛名は静かになってしまった。

「はるなー?」
「………」

 落ちるのは沈黙ばかり。

「機嫌なおった?」

 表情を隠している少し長い前髪をそっと払い、顔を覗き込む。

「……まだ」
「うん」
「…まだ直ってねー」

「もういっかい?」

 赤い頬を撫でながら問えば、
 お前は聞くなよ!いちいち!と逆切れされて、

 でも

「…あと100万回」

 小さくそう告げた榛名をとても可愛いと思った。


 [ end ]
アキハル
榛名を大事にしている秋丸がとても好きです。
彼の台詞にはすごい榛名への愛を感じるんですよ。素敵 (キュン)
さいきんとても榛名受けが好きでして (笑)
コミックスの3巻を何気なく読んでいたら

「 お こ ら え て ね ェ よ ! 」

と秋丸さんに向かってほえているアホの子が居ました。
榛名、おまっ、なんて愛しい!アホ子はとても可愛いので大好きです。
07.07.25 up