HOME >>

BlurExorcist

ほうき星と雨音と悪魔

 ―― 人間の生とは、まるで瞬くほうき星のように消え去っていくものだ。それを一つ一つ哀しむなど、人間ゴッコにもほどがあります、兄上。



 ざあざあと降りしきる雨の中に立ち尽くしている兄上を、ただ待っていた。
 長い、長い間、お墓の前で微動だにしない兄上のピンク色の傘だけがひどくその場に不釣り合いで。

「あめあめー、ふれふれ父さんが〜♪」

 ベヒモスを抱えたまま、勉強した日本の童謡を口ずさめば、ピンク色の傘が少しだけこちらに傾いた。

「そこの歌詞は‘母さんが’ではなかったか? アマイモン」
「ハイ。でもボクは兄上と父上しかよく知らないので」

 思ったままのことを口に出せば、兄上はフッと微かに笑って、水滴の滴るボクの前髪に掻き分けるように触れた。

「お前がびしょ濡れになることもなかっただろう」
「ボクは傘を持っていません」

 額に触れていた優しい指先の感触がソッと離れていくのを残念に思いながら、水滴を散らすようにぷるぷると首を振る。
 下のほうに飛び散った水滴に、腕の中のベヒモスが嫌そうに身動ぎした。

「ああ、すみません。ベヒモス」

 よしよし、と黄色い肌を撫でてやって、兄上の顔を見上げる。

 兄上はまた、墓石のほうに視線を動かしていた。

 そうして、普段とは違う冷たく動かない表情にわけの分からない焦燥感がこみ上げる。

「がる?」

 ベヒモスから手を離して地面に下ろし、白いスーツにぎゅう、と抱きついたのはほとんど衝動的なものだった。

 びしょ濡れのボクが抱きついても、兄上は怒らなかった。
 それがまた兄上らしくなくて、ボクの焦燥は先程よりも募る。

「…突然どうしたアマイモン?」
「あにうえ」
「なんだ?」
「あにうえ、お可哀相に…」
「……何がだ?」
「…ボクにもよく分かりません」
「それでは、私にはもっと解らないな」

 言いながら、やはりひどく冷めた感情の見えない表情で兄上が嘲笑う。
 わけの分からないことを言い出したボクを嘲笑っているのか、今や何も語らない墓石の下で眠るものへ対してなのか、悪魔らしくない感情を抱いておられるだろう自分自身へ向けてなのかは、やはり分からなかった。

「…兄上、ボクもう帰りたいです」
「だから、ついてくるなと言ったのに」
「雨は嫌いじゃありませんが、ここは寒いしお腹が空きました。帰りましょう? 兄上」
「…仕方ないな。では、戻ろうか」

「ハイ兄上」

 兄上の返答に少し安心して、隙間なく引っ付いていた体を離す。
 ベヒモスの鎖を持ち直し、墓地を歩き始めた。

「…また来ます」

 最後に墓石に向けられた消え入りそうな声は、聞こえなかったことにした。


 [ end ]
メフィアマ
獅郎←メフィ←アマっぽいお話になりました。
メッフィーは神父さん死んで哀しかったのかなあって凄く気になります。
11.08.06 up