慰められません、けれどせめて、傍にいます
雨は好きだけど、雨の降る日は少しさみしい。
だって、あなたの表情が雨雲のように灰色に曇るので。
それは、まるであの墓参りの日のように。
外はシトシト雨粒メロディー。
ボクは兄上のお屋敷で、いつもの定位置のソファーに腰を掛け、キャンディを舐めていた。
(…あれ?)
ふと違和感を感じて、アンティーク調の時計に視線を向ける。
(兄上、まだ寝てるのかな…)
作業効率が悪いな。仮眠をとる。一時間で戻る。
そう言い残した、兄上の背中を寝室に見送ったのはちょうど一時間前。
寝室の扉を見つめてみるが、開かれる気配は無さそうだった。
扉をガン見しながら、ボクが食べ散らかしたお菓子の包み紙で遊んでいたベヒモスが膝に飛び乗ってきたのを、条件反射のようによしよしと撫でる。
「ベヒモス、ちょっとおりてください」
ボクの言葉に従順に従うベヒモスを一旦その場に置いて、ボクは寝室への扉を開いた。
雨音だけが響く室内の、まだベッドの中にいる兄上のお顔を覗き込んでみる。
ボクはギョッとした。
兄上の翠の瞳が閉じることなくパッチリと開いていたからだ。
「…兄上、起きていたんですか?」
兄上はなんだか機嫌が悪そうだった。
具合でも悪いのだろうか?
「アマイモン」
「ハイ?」
「雨音がうるさくて眠れない」
「……」
雨足は兄上が言うほど酷いものではない。
でも、兄上はひどく耳障りだ、と眉を寄せていた。
ボクは口の中のキャンディを噛み砕く。
白い棒切れだけが、ポトリと絨毯の上に落ちた。
すぐに窓際に足を進め、遮光カーテンをピッタリと閉じてみる。
それでも、雨音を完璧に遮断するのは難しいようだ。
寝室は未だにサァサァと控え目な雨音で満ちていた。
兄上はぐったりとしたままで、ベッドから起き上がる気配はない。
さて、どうしようかな…。
まだ昼間とも言える時間帯なのに雨のせいで薄暗い外の景色を眺めながら、思案する。
…よし、決めた。
くるり、と体の向きを変換。
ベッドの上で眉間にシワを寄せたままの兄上の隣に寝転ぶことにした。
「あにうえ…」
藍色の頭を胸の中にぎゅっと抱きしめる。
「おやすみなさい」
「ああ…」
程無くして兄上の寝息が聞こえ始める。
ボクは兄上とは正反対に眠気などちっとも訪れそうもない、嫉妬に吹き荒れる心の中で思う。
やはりボクは人間が、特にあの神父 (オトコ) がキライです、兄上。
[ end ]
メフィアマ
以前書いた、ほうき星と雨音と悪魔と微妙にリンクしています。
弱り切っている兄上と、どんなときでも兄上がいちばんで、兄上の傍にいるアマたんのお話。
11.11.19 up