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BlurExorcist

おろかなままであなたをおもうしかできない

 どうも、こんにちは。ボク、アマイモンです。
 ボクには心からお慕いしている兄がいます。
 強くてカッコいい兄上がボクはいつでも大好きです。
 だけど、ほんの稀にどうしようもなく嫌になってしまうことがあります。

 例えば、

「兄上、構ってください」
「私は忙しいんだ、アマイモン」

 兄上が執務机に向かったままボクのことを振り向いてもくれないときや、

『人間は実に興味深い』

 とボク以外のものに夢中になっているときだ。

 そういうときの兄上は、構って構って、としつこく纏わりつけば、うるさい、と一蹴されるし。
 それにちょっとカチンときてしまったボクが、兄上の大事にしているフィギュアをばしっと払い除けたり、お菓子を食べ散らかしたり、窓ガラスを割ってみたりと、おいたをすれば、

「こらああああ、アマイモン!」
「…ぶへっ!」

 当然のように怒られて顔面をブングルされるから。うーん、すごく痛い。鼻血がボタボタと垂れた。
 ちなみに時にはそのまま逃げ切れることもあって、でも、そのかわり、そういうときは夜に大変なお仕置きをされるんだけど。

 物質界に来て、ボクは兄上とずっとそんな日常を送っていた。

 そして、今日も今日とてボクは兄上に纏わりついてみる。

 書類を眺めている兄上に背中からぴとっと抱き付く。

「アマイモン…」

 呆れたような声音に、

「だって、兄上が構ってくださらないから」

 と、頬を膨らませて返す。

「…あーわかったわかった」

 視線も向けられないまま、適当過ぎる手付きで頭を撫ぜられた。
 ………気持ちが一つもこもっていないのが明らかなそれは、いくら兄上に触ってもらえたとは言え、全然まったく嬉しくなかった。

 ぶわ、と胸の中を支配したマイナスの感情を抑えることが出来ず、ボクはガッ、と足を踏み鳴らす。

 一瞬、グラリと地面が揺らいだ。

「アマイモン、癇癪で地震を起こすな!」

 流石にいい加減にしろ、と兄上の双眸がきつく細くなる。

「兄上、ちゃんと構ってください」
「構ったではないか?」
「今のは構ったって言いません。ボク、全然うれしくないです」

 じとっとした視線を向けるボクに、兄上の口から深い深いため息が零れる。

「ならば、もう知らん。勝手にしろ」

「………」

 そうして、最後には突き放される。

 ボクが兄上にされて一番怖いのは、無関心を向けられることだ。
 兄上の心が他のもの、…主に物質界のものに奪われることと、ボクを見てくれなくなること、ボクにはそれが一番耐え難い。

 兄上が虚無界から居なくなってしまわれた200年前を思い出してしまうから。

「ぁ………」

 声も出せず、真っ白になった思考回路で呆然としていると、

「馬鹿が……」

 突然、兄上にそんなことを言われた。

 同時にぎゅう、と抱きしめられる。

 頬も指先できゅ、と拭われて、あれ? これはなんだろう? と思う。

「声も上げずに泣くな…」

 昔のように大声で泣きじゃくるならまだしも、と兄上はなんだか困ったようなお顔をされた。

「ボク、泣いていたんですか?」
「泣いていた…じゃなくて、今も泣いているだろう」

 馬鹿が、ともう一度、優しく抱きしめられた。

「あにうえ、ごめん、な…さ…ごめんなさい、ッ……!」

 温かな胸の中で、ようやく、えーん、と嗚咽がちゃんと零れ出す。

「わかった。わかったから、もう泣きやめ」
「あにうえぇ……」
「なんだ?」
「…ボク、ここにいても、いいんですか?」

 ずっとこんな調子で、物質界に来ても、良かったのだろうか? と思う。
 兄上は何も言って下さらないから、いつも分からない。

 そろそろボクを呼び付けたことを後悔されているんじゃないかと思ってしまって…。

 また捨てられるんじゃないかと、不安に押し潰されそうだ。

「ぅ…、ぇっ、くっ……ボク、ジャマですか?」

 ぐずぐず鼻声で問えば、

「…確かに仕事の邪魔ではあるな」

 と兄上は答えをくれた。

「そうですか……」

 しゅん、としょげて、じゃあ、外に行こうかな、とぼんやり考える。
 ボクは兄上といたいけど、兄上のジャマになるなら仕方ない。

 このとき、虚無界に帰るという選択肢は、ボク自身が兄上に会えなくなるのが嫌なので、無意識に頭の中から排除していた。

 そして、兄上から離れようとしたボクを、

「待て」

 邪魔だと言ったばかりの兄上の手が引き止める。
 ぐい、と今度は膝の上に乗せられた。

「…あにうえ?」

 きょと、と瞳を瞬けば、

「お前、何処に行こうというのだ」

 片手に持った書類に目を通しながら、もう片方の腕で兄上はボクを抱いて離さなかった。

「…ボクには兄上のお側以外に行くところなどありません」

 本心をそのままお伝えすれば、

「当然だ。他のところに行くことなど許さない」

 書類から視線を外した兄上の双眸がボクを映し出す。

「お前はここにいて良いんだ。いなさい」

 ちゃんと視線を合わせた状態で告げられた言葉に、胸の奥が熱い。

「ハイ、わかりました兄上」



 あにうえ、あにうえ、ボクはあなたがだいすきです。

 ボクを縛りつけて動けなくさせる、あなたのその絶対的な言葉こそが至上のシアワセ。


 [ end ]
メフィアマ
スパークへ向けて絶賛原稿中ですが、ついったーのほうで萌え話をして頂いて、キュンキュンしたので、思わず。
癇癪と起こすアマたん可愛いなあ、て。兄上がそれを甘やかしてくれるともっと可愛いなあ、て。アマたんは欲しいものや兄上に関してはすごくすごくワガママだと良いな、て思います。そして、そんなアマたんを手に負えるのは兄上だけならもっと良いです。
勢いだけクオリティ。
11.09.27 up