不純かつ純粋な気持ち
外はミンミンと蝉が騒がしい。
適温が保たれた理事長室のソファーで横になりくうくうと寝息をたてているのは弟であり、この大地を統べる王でもあるアマイモン。
ええい、兄である私がこんなに書類の山に追われていると言うのに、惰眠を貪っているなど。ギリギリ。
アマイモンの体に対してソファーは少し小さい。弟はソファーからはみ出さないように体を小さく丸め、その腕にベヒモスを抱きしめている格好だった。
ええい、あの小鬼も羨まし……じゃなくて、人が仕事に追われているというのに忌々しい。
今度は握ったペンをミシミシいわせていると、
―― べろん。
突然そんな擬音が聞こえてきそうな長くゴツゴツした舌がアマイモンの顔を舐めあげた。
「…んん? べひもす?」
顔への違和感に丸い眉を寄せて、トロリとした碧い瞳が瞼の下から現れる。
「がるぅ♪」
「ボク、眠いですよベヒモス…」
ほらいっしょに寝ましょう、とベヒモスを抱きかかえ直すアマイモンだったが、
「ガルガル!」
「わぷっ」
ベヒモスは退屈らしく抗議するようにアマイモンの顔を舐め回し始めた。
「がぅぅ♪」
「ちょ、ベヒモス待って。わは、くすぐったいです」
じゃれ合っている間にアマイモンの眠気は飛んだのか、きゃっきゃっと楽しそうな一人と一匹の様子に微笑ましいような、苛立たしいような、不思議な感情の嵐が吹き荒れる。
駄目だ、こんな状態では仕事など出来ん。
「……アマイモン」
「え? ハイ兄上」
「おいで」
私は手にしていた書類を机の上に投げ置き、その手を弟に向けて差し出した。
驚いたように碧の瞳をパチパチと瞬いたあと、ソファーから素早く下り、ベヒモスを抱っこしたままのアマイモンがこちらに早足で駆けてくる。
私の手をとったアマイモンを勢いよく抱き寄せて膝上に乗せた。
「あにうえ?」
ぎゅっと抱きしめれば、間にいる小鬼が潰れる前にアマイモンはベヒモスを解放した。
「お前が足りないアマイモン」
「ぁッ…!」
そのまま目の前の喉仏に噛み付いてみると、甘ったるい声が届き私の心と聴覚を満たす。
「それなら、あにうえ…」
顔を上げれば、頬を紅潮させ情欲の色を濃くした瞳が私を見下ろしていた。
「ボクと愉しいことしましょう?」
私の脚を跨いだ腿を擦り合わせ、黒く彩られた爪がいやらしい仕草で自らのネクタイの結び目を解く。
「ああ、それはとても良いな」
「ハイ」
「では、私を愉しませてくれアマイモン」
「ハイ、兄上の望むままに……」
舌舐めずりをする弟の手が机の上の書類の山を払い落とした。
[ おしまい ]
メフィアマ
11.09.03 up