鏡の前、くるりと一回転。
兄上が好むものよりも淡いピンクの裾がヒラリとひるがえる。
赤と黒と白のストライプのリボンをきゅっと結んで。
「ベヒモス、変じゃないですか?」
足元にいる友に話しかけてみた。
「がるがる♪」
スースーする脚が落ち着かないなあ、とソワソワしていたけれど、いつも通り、ぴょーん、と腕の中に飛び込んできてくれたベヒモスが可愛くて、そんなことはすぐに忘れた。
ぎゅむぎゅむう、スリスリーとめいっぱい頬擦りをして。
「よし、兄上に見せに行こう」
黒のニーソックにブーツだけは普段と変わらずのままで、扉を開いた。
ことの始まりは、
―― 理事長さんに支給して頂いたの。
可愛い彼女のそんな一言。
「兄上、ずるいです」
「は?」
正十字学園理事長室 ―― 相も変わらず、扉ではなくて窓からこんにちは。
弟は杜山しえみの言葉を何処から聞きつけてきたのか、突然そんなことを訴えてきた。
棒付きキャンディを咥えたせいだけではない大きさに膨らんだ頬。
…これは完璧に拗ねている。
どうにも面倒なことになりそうだ、とメフィストは手元の書類を一旦机の上に置いた。
「とにかくずるいです!! あの女、兄上から施しを受けるなんて許せません!」
「いや、施しって言うか、杜山しえみは生徒だからなアマイモ…「兄上、ボクにもください制服!」
「アマイモン! 人の話はちゃんと最後まで聞きなさい!」
話を途中で遮られて思わず叱り付けてしまうが、アマイモンも興奮しているのか言葉は止まらない。
「兄上が制服をくださらないなら、その辺にいる生徒から剥ぎ取ります!!」
しまいには脅迫めいたことまで言い出す始末。
「やめて!! その生徒がその辺で全裸になってしまうだろうがああ!! その子が次の日からいじめの対象にでもされたら、お前どう責任とるつもりだ!!」
「えー…それはちょっとめんどくさいですね」
「そうだろう。だから、諦め…「それはいやです!!」
「……女子の制服しかないから」
「それで良いです!」
「ちょ、おま! なんだと!?」
この言葉のキャッチボール(ほとんどドッヂボールであるが)が数十分前までの悪魔兄弟のやり取りである。
そして、話は冒頭に戻り、アマイモンは着替えるためにこもっていた化粧室 (無駄に広い) から出てきたわけだ。
「兄上、どうですか?」
ちゃんと着れていますか? と先程、鏡の前でやったようにアマイモンは一回転。
「……んなッ!!?」
ひらりと翻った桃色のスカートに、メフィストは口にしていた紅茶をパソコンモニターに向かって盛大に噴射した。
「…どどっ、どッ、どどどどうと言われてもな…」
―― 待て待て待て。なんだこれは予想を裏切るというか上回る可愛さではないか。そのスカートとニーハイの絶対領域は分かってやっているのかアマイモンンン!!
口元を拭いつつ、思わず心の中で叫んでしまう。
それくらいに正十字学園制服姿 【女子】 アマイモンは可愛かった。
「兄上、凄い汗ですけど、風邪ですか?」
さらに、キョトンと首を傾げる姿も愛らしい。
「…これは気にするな」
無駄に噴き出した汗もついでに拭って軽く笑う。
「……兄上」
すると弟は突然眉を顰めた。
トトトッと執務机の内側まで小走りで来て、メフィストの体を自分のほうに向かせる。そのまま足元に跪いた。
「兄上は休憩なさらないから、ボク心配です」
メフィストの膝にそっと手を置いて、見上げてくる弟 【心配げに潤んだ瞳。屈んだために短いスカートがさらにずり上がりギリギリまで露わになった太腿の特典付き】 の威力に気のせいではなく鼻の奥がツンとする。
「………アマイモン」
「ハイ、なんでしょう兄上」
「お前がそんなに心配するのなら、私は少々休憩をとろうと思う。お前も一緒にくるか?」
「ハイ、何処までもお供します兄上」
休むという言葉に、ぱああ、と笑顔になる弟の腰を抱き寄せる。
パチン☆
と一度、指を鳴らして、あっという間にファウスト邸に辿り着いた悪魔兄弟の姿は高速でベッドに沈んだ。
「ひゃ…ァ…あンっ! これは、ぜんぜん休んでない気がしますぅあにうえぇええ…」
そうして、寝室にはしばらくの間、アマイモンの甘ったるい声が響いていたという。
[ おしまい ]
メフィアマ
先日、ぴくしぶのほうの絵茶お題の提出物です。*にょた女装アマたん2011年夏。と言う宿題でした。笑
わたしはアミダくじでセーラー服をひいたのですが、正十字学園の制服でもOKとのことだったので全力で趣味に走りました。
予想以上のギャグになってしまいました。ごめんね兄上。
11.08.20 up
逆らう術など持たない
アマイモンの愛らしい制服姿に理性と欲望が悪魔落ちした (既に悪魔だが、それは横に置いておいて) メフィストは、パチンと指をひとつ鳴らして空間を歪めてみせる。瞬時にファウスト邸へと移動した。
そして、弟の細身の身体を息つく暇もないほどの勢いで、寝室のベッドに押し倒す。
「うはーい!」
アマイモンはきゃっきゃっと嬉しそうだった。
「愉しそうだな」
えらくはしゃいでいるな、と不思議に思いながら、己以外の前ではあまり動かない緩んだ頬を撫でてみる。
「兄上がゆっくりお休みできればボクうれしいです」
へにょ、とゆるい笑みを見せ、アマイモンも兄の頬を撫でた。兄のかんばせは逆光になっても綺麗だと思った。
「……」
しかし、対するメフィストは困っていた。そんな風に言われると、これからいやらしい方向に話を持って行きにくい。
さて、どうしたものか。
「…兄上?」
思案し、自然と寄っていた眉間にアマイモンの指先が触れる。
「眉間にシワが寄っています。大変だ。やっぱり疲れているんですよ兄上」
そして見当違いのことを言い出すから、またまた困ってしまう。
「いや、アマイモン私がここに来たのは…」
休憩をとるっていうか、ぶっちゃけお前と運動 (下の方向の) したくて来たのだぞ☆
などとは勿論言えない。絶対に。
何故なら、己は紳士であるから。
常日頃からそう在ろうとしているのに、特にこの溺愛していると言っても過言ではない弟の前では尚のこと紳士でありたいわけで、
(いや、待てよ…)
そこでふと、メフィストはひとつの答えに辿り着いた。
(つまりスマートにそういう展開に持っていけば良いのだろう!)
そう、スマートかつ紳士的に。
そういう行為がしたくてそっち方向に頭の中がいっぱいの時点で、紳士的ではないと言えるのだが、このときのメフィストはちょっと頭が残念な兄上全開仕様だったので気付かなかった。
「あ! あにうえ、ボク兄上のために子守歌を唄って差し上げます!」
日本の歌も勉強したんですよ、とアマイモンはアマイモンで純粋に兄に充分な休息をとってほしいので、いろいろ考えて提案してみる。
「いや、それは今は遠慮するが」
アマイモンの歌声なら聴きたいと思ったが、今はそれでは目的達成への道が遠のくので却下した。
「…ダメですか」
しかし、しゅん、とみるみるしょげる弟に胸が痛むのも事実。
しかも、今は格好が格好だ。
押し倒された拍子にスカートは捲れ上がってパンチラしているし (しかも、アマイモンは気にしていないを通り越して気付いてすらいないので、先程からそのままの状態だ) 首元のリボンは裾の先っちょが唇の近くにあってなんだかいやらしいし (勿論、狙ってやっているわけではないのが、この弟のおそろしいところだった) ムラムラするなと言うほうが無理な話だ。
「待てアマイモン。私はべつにお前の歌が聴きたくないわけではないぞ」
ただ、今はいらない。欲しているのは子守唄よりも啼き声。ただ、それだけなのだ。
「…えー、でも、ボク、せっかくいっしょに連れてきて頂いたのに兄上のお力になれないです…」
役立たずです…、としょんぼりする弟の頭を慌てて撫でる。
「そんなことはないさ。私はお前といるだけで満たされるぞ、可愛い地の王」
よしよしと甘い言葉であやして、うるうると潤んでいた目元にもキスを贈る。
「あにうえ…!」
すると、曇っていた表情はみるみるうちに晴れていき、まるで好物の甘味を与えてやったときのように輝くものに変わった。
「あにうえーあにうえー」
「どうした?」
「では、膝枕とかはいかがですか?」
起き上がりたいです兄上ー、と身動ぎするアマイモンを抱き起こしてやって、その口から飛び出した提案に思考が一瞬だけフリーズ。次にピンク色に染まる。
「ひざまくら、だと…?」
そのミニスカート姿で?
それはなんというか、こう、非常に良い!!
「…そっ、それなら、良いかもしれないな」
膝枕! それは王道! まさに萌えるシチュエーションじゃないか! と内心浮かれまくって思わず声も上擦ってしまった。
「本当ですか! じゃあ、ボク膝枕します。兄上、横になってください! さあ早く!」
「ブングル☆」
そして、浮かれたのはメフィストだけではなかった。アマイモンはようやく自分の提案が通って嬉しかったのか、もの凄い勢いで兄の肩を掴み、それだけでは足りないとばかりに顔面に愛情パンチを贈ってまできた。これは痛い。
「ってちょ、おい、アマイモン…!」
強引に膝に顔を埋めるハメになり、やりすぎだ、と咎めようとしたが、
「あにうえ、きもちいいですか?」
見上げた先の弟の表情があまりに嬉しそうだったので、
「……ッ!」
メフィストは咎める言葉の替わりに息をとめた。
「ああ、きもちいいな…」
「それはよかった。ボク、嬉しいです」
満足気に笑みを深め、黒く光る爪のついた指先が丁寧に青紫の髪を梳く。
メフィストは下から嬉しそうなアマイモンの顔を見つめながら、少しの間思案した。
一瞬、このまま眠りにつくのも良いかもしれないな…、と思ったのだが、太腿の柔らかさがそれを許してくれないというか、ぶっちゃけると勿体無い。こんな幸せチャンスをみすみす逃すなんて勿体無さすぎる。
やっぱり歪みなく残念な思考でそう思い、ニーソとスカートの間を撫でた。
「えっ…?」
太腿を撫でられてアマイモンの手の動きがピタリと止まった。
「…………兄上、おやすみになるんですよね?」
「ああ、お前と休息をとると私は言ったぞ」
僅かに頬を紅潮させたアマイモンに舌舐めずりをして、そのままスカートの中へと手を差し入れていく。
「あ、あにうえ!」
アマイモンが慌ててスカートを押さえようとしても、兄の頭がそこに乗っているのだから、当然そんなことは叶わない。
「い、今っ、兄上がしていることの先の展開は休憩にならないと思いま、す…!」
その口から甘い吐息が零れ始めたのに今度はメフィストのほうが深く笑んで、
「どうして?」
「…ひゃっ!」
「私を癒してくれるのだろう? 可愛い地の王」
「あッ、ぅ…!」
もうっ、あにうえ、ちゃんと休んでくださいいいい、と嘆きながら、それでも、兄の言葉にアマイモンが逆らえるわけがなかった。
[ おしまい ]
メフィアマ
ベッドでの休憩の詳細を! と言って頂いたのが嬉しくて書き始めたんですが、R指定にできなくて中途半端に。
前回と変わらず兄上が壊れている…。
11.08.27 up