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BlueExorcist

 ※ ア ニ メ 1 7 話 関 連 の お 話 で す 。 ご 注 意 を 。


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ただ、そばに居させてください

 その日のボクは昔の夢を見ていました。

 アマイモン、アマイモン。
 光の無い虚無界を、あっちにこっちにフラフラするボクを繰り返し呼んで下さるその低音が大好きで、

「ハイ兄上」

 呼ばれたままに、きゅう、と抱き付けば、頭を撫でられ抱きとめて貰えた。

「私は近いうちに物質界に行く」

 ただ、その先に続く言葉は聞きたくなくて…。

「……え?」
「イイコにしているんだぞ」

 兄上の声が大好きなのに聞きたくないなんて、おかしな話だと思う。

「アマイモン、返事は?」

「…わかりました」
「イイ子だ」

「でも、兄上! なるべく早く帰ってきてください。兄上がいないとボクつまらないです」

 あと、きっと淋しいです。

「……そうだな」

 言葉と共に腕の中から見上げた兄上の表情は何故か困ったように見えた。
 そして、兄上は早く帰ってくる、とは答えて下さらなかった。

 ……200年以上も戻ってきて下さらないなら、ボクも一緒に連れて行ってほしかったです。

 兄上、そんな風に思ってしまう、こんな我儘なボクはお嫌いですか?





「あにうえ、置いて、いかないで…くだ、さい…」

 意識がまどろむ中、寝言半分と無意識半分で腕を伸ばすと、その手を何かに掴まれた。
 それに続いて頬を拭われる感触。

「アマイモン、何を泣く?」

「…………あにうえ?」
「ああ。ここにいるぞ」

 寝起きのボクにしてはありえない俊敏さでガバリと上体を起こす。
 浴衣姿の兄上に飛びつくように抱き付いた。

「兄上兄上兄上」

 まるでその言葉以外を知らないように兄上を呼ぶ。
 すると宥めるようにポンポンと背中を叩かれて、また涙が溢れた。

「今日のお前はえらく甘ったれで泣き虫だな」
「ごめんなさい…」

「べつに謝ることはない」
「…こんなボクは嫌いになりますか?」

「私がお前を? ―― ハッ、それは…」

 ―― 物質界と虚無界が滅んでもありえないな。

 そう言って、ボクの目元に口付けを落とす兄上に、ああ…。

 ―― ボクはもう絶対に貴方の傍から離れません。

 強く、そう誓った。


 [ end ]
メフィアマ
幼い頃の夢と、妄執のような愛と、あなたには内緒の誓い。

下の兄上視点に続きます。
11.08.10 up





ただひとり、私だけの王様

 その日、昔の夢を見た。

 それは地の王として生まれたばかりの何も知らない私の弟が、好奇心旺盛の赴くままに (興味のあることにのみだが) 広い広い虚無界をあっちにこっちにフラフラしていた頃の夢で。

 いくら大人しくしていろ、と言っても、心配させるな、と言っても、

「ボクはベヒモスといっしょなので大丈夫です」

 それに兄上が迎えに来てくださいますから、と、へにゃ、と微笑って私の言うことなど聞かなかった。










 ―― よくもボクのベヒモスをぉぉ!!!!

 ―― 兄上エエエェエエェェェ!!!!


 …ああ、喉の奥が切り裂けそうなあの声が耳の中で繰り返し響く。

「愚弟め、せめて手の届く位置にいないと、迎えに行ってやりようがないだろう……」

 ファウスト邸に帰宅して、使い魔たちの気配以外の消えた、シン…と静まり返った寝室で顔を覆う。

 ゆっくり休めと言っただろう?
 (鳩時計が破壊されたのは私の落ち度だがな…)

 どうして来た?

 私はあそこでお前を守ることが出来ないと、ちゃんと知っていただろう?

 早く帰ってきてほしいと言っていたのに、200年以上も、お前を一人にしてしまった私へのあてつけか?

 いや、よくもわるくも素直なやつだから、そんなことは出来るわけがなかったな。
 だからこそ、200年も大人しく、虚無界で私の帰りを待っていたのだし。

「馬鹿が……」

 己に向けてか、小さな愚弟に向けてか、どちらともつかずに呟いた言葉はすぐに消えてしまった。



「アマイモン……」



 それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
 いつまでもこうしていても仕方ないと思いつつも、何もする気が起きない。

 しつこく私を呼ぶ声も低めの体温も今はない。
 昨日から変わったことは、ただ、それだけの筈なのに。



 どうして…

 こんなに…

 胸が痛いのか?



 それでも、不思議と涙の一つも零れはしない己の身体が恨めしかった。
 あいつのように大声で泣けるなら、少しくらいは落ち着くかもしれないのに。

(幼い頃もそうだったが、200年経っても200年前と変わらず、よく怒るしよく泣いていたからな…)

 思考がアマイモンで埋め尽くされているな、と思いながら、顔を覆っていた腕を上げる。
 足がちゃんと地についていないような感覚で、フラフラと窓際まで寄った。

 なんとなく正十字学園の街並みを見下ろそうとして、先に屋敷の庭のほうに目がいく。
 異変に気付いたのだ。

(……なんだ?)

 普段の自分ではありえない乱暴さで窓を開け放ち、使い魔も使わず、その場に降り立つ。

 浴衣姿だった私の裸足の足の裏に土がついた。

 目に映る、月明かりと星空の下に広がっていたのは花花花。
 花畑と呼んでも差し支えのないくらい数え切れない花達。

 それも虚無界にしか咲かない花ばかりが庭を埋め尽くしていた。


 ―― あにうえ、ボクはもう兄上から離れません。


 その光景に、ふと、アマイモンが情事の際によく言っていたことを思い出す。

 借り物の身体の両腕と、両足で、苦しいくらいに私にしがみつき、泣きながら言っていたことを思い出した。

『あにうえ』

 …ああ、そういうことか。

 お前の手の届く範囲にいない私は駄目だったのか。

 だから、あんな危険を冒してまで、あそこに来たのか……。

 私の元に。

 手の届く位置にいないと駄目だったのは、お前も私と一緒だったのだな。

「…だが、その一瞬で、今、私の傍にいないなど、そんなことを私は許していないぞアマイモン!!」

『……ごめんなさい』

 私が怒鳴れば、強い風が吹き、さわさわと花が揺れる。
 それと同時に虚無界からの懐かしい声も響いた。
 私にしか届かない声で。

「馬鹿が……」

『あにうえぇ』

 怒られたときはいつもそうだな。
 ぐすぐす、と相変わらずの涙声に苦笑して、

「もういい」

『あに……!』

「もういい。しばらく、そっちにいろ…」

『…ボク、あにうえのおそばにいたいです』

「ああ…」

 花畑に身を預けるように仰向けに倒れ込む。
 結構な勢いで倒れてみたのだが、クッションのように柔らかなそこは、少しの痛みも私に与えはしなかった。

「私もお前に触れたいよ、私だけの地の王アマイモン」

 静かに囁けば、周りの花たちが喜ぶように私の身体を覆った。

 そうして、私はその場で目を閉じる。

 きっと、この花たちは朝になっても消えたりしないだろう。
 あの可愛い弟が虚無界で元気でやっているかぎり。

 しばらく、触れることはできないが、まぁ、良いさ。


 この物質界と虚無界で、ただひとり、私だけの地の王。
 お前が私を想っていてくれるのならば他には何もいらない。


 [ end ]
メフィアマ
17話はこう、いろいろと全力で無かったことにしたいので、何かを書いたりするのは止めようと思ったんですが、やっぱり兄上にアマイモンのことを想っていてほしいなあ、と思い、こういうお話になりました。
ゲヘナゲートを開くのは大変なようなので、兄上もしばらくはアマイモンに会えないかなあ、って。
離れ離れでも、ただただ愛し合うことを止めない二人でいてほしいです。
私はそろそろ、あの兄弟が悪魔ということを忘れかけているようです。
いや、違います。悪魔が誰かを愛しちゃいけないわけがないじゃないですか!(カッ)
11.08.10 up