いつかでもいいですけど誰かじゃ厭です
―― 仕事中は邪魔をするな。
アマイモンは物質界にやって来てから、兄であるメフィストに常にそう言い聞かされている。
言われてすぐに 「ハイ」 と良い子のお返事はするものの、そのまま引き下がるような性格ではないので、兄が腰を掛けている豪華な椅子の足元でベヒモスを抱きかかえたまま、口の中の飴玉を転がしていた。
邪魔はしていない。
ちょっと兄の足に擦り寄ってはいるかもしれないが、
ジャマは、していない、…と思う。
(…だって、最初のうちは蹴り飛ばされていた)
今はそれが無くなったのだから。
この場合、兄は諦めただけだが、アマイモンがそれに気付くことはない。
タイピング音や書類にペンを走らせる音が絶え間なく聞こえる。
時折、ウト…と睡魔に船を漕ぎかけると、ベヒモスが構ってほしいと言わんばかりに顔を舐め上げてくる。
「わぷ…」
ぺろぺろとか、そんな可愛らしいものではないそれに嫌悪することなどなく、いつものことだと頭を撫でてやる。
「アマイモン」
ふと頭上の音が止み、パソコンの画面でも書類の束でもなく、こちらを見下ろしているメフィストと視線がかち合った。
「ハイ?」
「お前、退屈じゃないのか?」
兄の心底呆れたような問い掛けに、
感情の色が見えぬ瞳を数回瞬いてから、
「いいえ」
と首を振った。
―― 兄上が虚無界から消えてしまったあの数百年に比べたら、今はなんてなんて…。
一瞬、心の中でそんな想いが廻ったが、言葉になることはなかった。
メフィストはそのまましばらくアマイモンを見下ろしていたが、
再び机の上のほうに視線を戻した。
外された視線にアマイモンの心の中央はなんだかポッカリする。
不満なことがあるときに出る癖で爪を噛もうとすれば、
「アマイモン」
もう一度、名前を呼ばれた。
「わ…?」
そして、そのまま膝上に抱きあげられる。
「あにうえ?」
キョトンと首を傾げれば、
「私の足を背凭れ代わりにするな」
痺れる、と咎められた。
「スミマセン」
少し、しゅん、とすれば、
「こっちにいろ」
「……」
続けられた言葉に戸惑いが隠せなくなった。
「返事はどうした」
「……はい。はい、兄上」
ぎゅう、と目の前の白いスーツに顔を押し付ける。
邪魔以外の何物でもないだろうに不思議とはね退けられたりはしなかった。
「兄上」
「なんだ?」
「お仕事まだ終わりませんか?」
「ああ、そうだな」
「……そうですか」
「まぁ、日付けが変わる前には終わるさ」
「じゃあ、終わったら、ボクと遊んでください」
「ああ、お前で遊んでやろう」
―― たっぷりと、な。
耳元で響いた兄の低音にアマイモンはうっとりと笑んだ。
[ end ]
メフィアマ
青エクは書かないって散々友達に言ったのに、アマイモンがあまりにも可愛いので我慢出来ませんでした。
だ、だってあの子、可愛いんですもん!
弟と駄々っ子にとても弱いです。
11.07.20 up