moon light


 夜空に浮かぶ柔らかい光が好き。

 シャニはぱちっと目を覚ますと、気だるい身体を起こして、自分を抱きしめてくれているたくましい腕をそおっと外した。
 素足でペタペタと歩き、窓際の近くまで行く。
 視線を上げれば雲の隙間から明るい光が見えた。
 ぽっかりと真っ暗な空に浮かぶ月を見上げてシャニは呟く。

 「キレイ…」

 夜を照らして、闇を切り裂き、ただそこに在る。
 儚いようで、力強いその存在が、とても気に入って、シャニは長い時間ぼんやり、と月を眺めていた。
 隣にあった温もりがなくなったことに気付き、オルガは重たい瞼を抉じ開けた。
 窓際にシーツを頭から被ったシャニの姿を見つけ、後ろから抱きしめてやる。
 シャニは少し吃驚したようで、きょとん、とした表情をしていた。

 「シャニはホント綺麗なもん好きだよなぁ」

 ちぅ、と項に口吻けながら囁くと、華奢な肩がピクン、と震える。
 その反応と共に 「オルガ」 と柔らかい微笑みが返ってきた。
 かわいい恋人が嬉しそうに紡いだ自分の名前を愛しく思えた。

 「月、キレイ」

 天を仰ぎながら、うっとり、と呟くシャニを見て、なぜか胸の奥がジリジリする。
 アメジストと、琥珀色の瞳が、自分以外のものを映していることに、オルガは少なからず不満を感じた。

 (ガキみてぇ…)

 月にヤキモチかよ、と
 頭を掻きながら苦笑する。

 「行きたいんなら連れて行ってやるけど?」

 シャニが望むこと、自分の出来る範囲のことなら叶えてやりたい
 そう思うオルガは月を指差しながら提案した。
 シャニは緩く首を左右に振ってそれを拒んだけど。

 「ううん、ここから見上げるのがキレイ。だからここでいい」
 「そうか」

 「それにここがいい」

 一度目は無邪気に、二度目は少し照れながら

 「あン?」

 シャニの言った科白の真意が掴めず、オルガは頭上に疑問符を飛ばす。

 「あったかい」

 ぎゅっと腕に抱きついてきたシャニに今度は納得の意味で 「ああ」 と頷いた。
 オルガの腕の中がいい。
 シャニはそう言いたいらしい。
 オルガの中で先程まで燻っていた苛々が何処かへ吹っ飛んでしまう。

 (単純だな、俺って)

 「ほら、ベッドに戻るぞ」

 緩む口許を押さえ、再び苦笑する。
 見た目よりも軽い身体をひょい、と抱かかえた。

 「オルガぁ」
 「ん?」

 耳元で楽しそうにシャニが囁く。

 「オルガは太陽みたい」

 「は?」

 「これからもずぅーっとオレを照らしてね」

 シャニが空に浮かぶ月を仰ぐのは一瞬だけだった。
 宇宙ではなく地球に自分だけの太陽が在ることを知っていたから ――



END


2004.04.13