都合のいいときだけ、天を仰ぎ、祈る人間を、神は呆れて見ているだろう。
 そうして見捨てたのだろう。
 神様なんて何処にも居やしない。


 ひとつ呼吸をするたびに、いっぽ足を踏み出すたびに、君の体は悲鳴を上げていた。 それはどれ程の苦痛をもたらしているのだろう。 俺には想像するしか出来なくて、理解しようとする人間は居なかった。

 この世界には、何処にも彼女が安堵できる場所など無いのかもしれない。

 やり場のない想いを抱え、手のひらを握り締めた。指の隙間から血が滴り落ちた。

 ―― 痛い、と感じる。
 でも、ほんとうならこんなものは痛さの内に入らないのかもしれない。彼女の痛みはこんなものではなかった筈だ。

 ―― 痛い、痛い。
 胸が痛い。彼女を救えなかった無力な自分を呪う。

 ステラは‘死にたくない。死ぬのは恐い’と思う普通の女の子だった。
 はんなりと微笑みかけてくれる表情が、とても綺麗で、あどけなく、彼女といると胸の奥がじん、と熱かった。

 ―― どうして、どうして、君が!
 掠れた声で叫ぶ。彼女が選ばれ、兵器に乗せられ、戦場に駆り出された現実を呪う。

 そうして思った。
 呪っていても何もならない。
 俺の世界に神は居ない。
 祈りも呪いも届かない。
 ここで叫んでいても何も変わらない。

 ―― だったら俺が、この両手で、彼女を奪ったものたちに、彼女を救わなかった世界に裁きを下そう。

 光届かぬ湖の底で彼女は眠っている。
 ステラも闇の中、と思えば、どれだけ闇の底に堕ちても恐くなんて無かった。



END


シンは自分の無力さも世界の無常さも何もかも呪っているんじゃないかと思います。

2005.08.20