さくら
波の潮騒が聞こえる空間で、ぱちぱちと音をたて燃える緋色の炎を、ぼんやりと見ていた。
視線を上げると、炎の灯りを受けて、頬をほのかに橙色に染めた少女の横顔が飛び込んできた。
少年の視線に気付いたのか、少女も此方を見る。
少女は、ふわり、と微笑んだ。
少年の鼓動が高鳴る。
頬は朱色に染まった。
「あ、えっと…ステラ。これって貝殻?」
動揺を悟られないよう少年は慌てて口を開いた。
そして先刻 "ステラ" と名乗った少女から貰った薄紅色の欠片を手に持って、かざした。
「うん…。さっき拾ったの」
「綺麗だね」
少年が貝殻の素直な感想を述べると、少女はもう一度ふわり、と微笑った。
少女は少年の腕に擦り寄って、彼の手のひらの上にある貝殻を見つめる。
素肌が触れ合って、少年の鼓動はばくばくと早鐘のように鳴った。
「うん、きれいなの。桜の花びらみたい」
「桜の?」
少女の言葉に、少年は平常心を取り戻して、貝殻をもう一度よく見てみた。
それは、薄紅色で、小さくて、たしかに桜の花びらみたいだ。
壊れ物を扱うようにそっと手のひらで包み込む。
「ホントだ。ありがとう、大事にする…」
少年の誠意が嬉しくて少女の心にあたたかいものが満ちていく。
「…シン、好き」
そして何も知らない無垢な心に新たな感情が芽生えた。