おやすみ
暗闇の中。
目を覚ますのが恐かった。
夢の中の世界は、いつも守れなかった者の思い出で溢れていて、目を覚ます度に自分一人がおめおめと生き残ってしまったのだ。と、現実を突き付けられる。
深い絶望と哀しみ。
そして虚無感に襲われた。
永遠にこの淋しさを抱えて生きていくのだろうと思っていた。
「シン…シンッ!」
身体を揺すられてシンは瞼を開いた。
数回瞬きを繰り返して、視線を動かすと、至近距離に心配そうなステラの顔が在った。
「あ、おれ、どうした…」
上体を起こすと、シンは軽く頭を振った。
寝起きの脳は瞬時に状況を把握し得なかった。
「うなされてた」
汗でべったりと張り付いていた前髪を梳くようにしながら
額に華奢な手が当てられる。
「ごめん。もう大丈夫」
その手をとって力なく微笑んだ。
(ったく ―― いつまでも女々しいから嫌になるよな)
ステラの小さな手を見つめながら自己嫌悪に陥っていると眼前に綺麗な金糸が広がった。
驚いて身を退こうとすると、首に両腕が回され、シンはステラに抱き付かれた。
「すっ、ステラッ」
ステラは半ばタックルする様な勢いで抱き着いてきたので2人とも後ろに引っくり返ってしまう。
ふわふわと鼻腔をくすぐる甘い香りと、女の子特有の柔らかさに、シンの顔は火が噴き出そうなほど赤くなった。
「一緒に寝てあげる」
シンが行き場のない手をわたわたと空に彷徨わせていると、耳元で小さな声が響いた。
え?とシンが聞き返す前にステラはもそもそと布団の中に潜り込んで来た。
「えっ!ちょっ、ステラッ!」
「シン、おやすみなさい」
ルビーのような深い紅色の瞳が閉じる瞬間 ―― ステラが柔らかにそっと微笑んでくれた。
半分呆気にとられて、そして半分は近くで聴こえる規則正しい寝息に安心して、シンもステラと同じように布団の中に潜り込む。
白いステラの手をそっとそっと握り、シンも眸を閉じた。
永遠に続くと思っていた淋しさが終わりを告げたのはステラと出逢ってから
今度は大切なものを何ひとつ零さないよう、失くさないよう、全力で君を護ろう ――